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男性恐怖症な私

「む……むり、やっぱり無理ですッ!」


 私はそう叫んだ後、ふらりと気を失うようにして後ろに倒れた。どこか遠くで、使用人達の悲鳴や慌てふためく声が聞こえる気がする。


(やっぱり男性に触れるなんて……怖くて絶対に無理!)


 そう考えながら意識を手放した私。その直前に私の頭の下から「クゥン」と愛犬の声が聞こえたような気がした。



 ◇◇◇



 私『ユリア・レーベンシュタイン』は、古くから歴史のあるレーベンシュタイン伯爵家の長女として生まれた。

 お母様は私が幼い時に亡くなってしまった上、一人っ子。だから、レーベンシュタイン伯爵であるお父様と私、あとは馴染みの使用人達。そんな環境でずっと暮らしてきた。


 しかし愛妻家であったお父様は、きっと妻であるお母様を亡くして寂しかったのだろう。ある時可愛らしい小型犬を連れて帰ってきた。

 それをきっかけにして、我が家には次々とお父様の飼い犬が増えていって。


 ……そうして、現在では『犬屋敷のレーベンシュタイン』と揶揄われたり、お父様は『犬伯爵』なんてあだ名を付けられるまでになってしまったのだ。


 え? 全部で何匹いるのかって?


 ……確か現在お父様の犬は百匹だったはずです。ちなみに、全て「出会う運命だった大切な犬」と豪語する程愛しています。



 とにかく、そんな環境で育ってきたせいか私も大の犬好き!お勉強やレッスンの時間以外は、全てを犬の世話に費やすほどに溺愛している。

 犬をモフモフして可愛がれば寂しさなんて感じない。むしろ犬と共に暮らす毎日は、鮮やかな色彩で描かれた絵画のように美しく理想的な生き方であって……とにかく毎日幸せなのです。

 


 しかし。そんな生活を送ってきたせいか……私は今、とても困った事態に直面していている。


 レーベンシュタイン伯爵家の子供は私一人。――そう。私はこの家を守るために、婿を取らねばならないのである。



 犬に囲まれて生活してきた私は、実は男性恐怖症。


 性別が男であっても通常に接する事ができるのは、お父様と昔馴染みの初老の執事『じいや』、あとは天国に行く間近のお爺さんくらいの年齢の人のみ。

 その他の男性は半径1m以内に入られるだけで緊張してしまい、触れられると気を失ってしまうほどである。


(だって男の人って、存在自体が怖いんだもの!)


 きっかけは、幼少期に出会った親族の男の子に髪を引っ張られ、その言動が乱暴で怖かったから。そこから私は同年代の男の子が怖くなり、それが悪化して男性は皆アウトという男性恐怖症に陥ってしまった。


 おかげでレーベンシュタイン伯爵家を守る兵士の三分の一は女性、使用人も殆どが女性。一人娘として甘やかされた私はストレスの少ない女の園……ではなくて、犬の園で暮らしてきた。


(だから無理なのよ……二週間後に婚約者と初対面だなんて!!)


 先日十八歳の誕生日を迎えたばかりの私には、ついにお父様によって強制的に婚約者が定められた。ヴェルリッツ伯爵家の次男坊であるコンラート・ヴェルリッツ伯爵令息……男性恐怖症な私でも比較的接しやすいだろうと、性格が温和だという彼が選ばれたらしい。


 私の容姿は、金色の長いストレートの髪にグレーがかった青い瞳というこの国では好まれるものだが、中身に大変難がある。そんな私の内面を了承した上で婚約を二つ返事で引き受けてくれる優しい人のようだ。


 なのでレーベンシュタイン伯爵家にて勤務している男性兵士に協力してもらい、二週間後に控えた顔合わせの為に特訓を行っていたのだが。

 やっぱり1m以上近づくと緊張するし、触れられると……はい。このように後頭部から倒れてしまうという訳です。



 この調子では二週間後に大恥をかいてしまうことになる。

 しかもそれが私だけで済むなら良いが、この婚約を準備してくれたお父様にも迷惑をかけてしまう。更に、婿に来てくれるコンラート様にもこんな状態の妻では申し訳無い。


 なんとかしてこの男性恐怖症を克服……いいえ、克服出来ないとしても少しでもマシな状態にしなければならない。





 粗くて柔らかい何かが私の頬を舐める感触で目が覚める。目を開かなくともそれが何か分かる私は、フフッと軽い笑い声と共に瞼を上げ、枕元にいた大きな体の愛犬を抱きしめた。


「アルベルト、心配してくれたの?」

「ワフッ」


 この子はジャイアントシュナウザーのアルベルト。基本的にこの家に暮らす犬は全てお父様が飼っている犬なのだが、このアルベルトだけは私がお願いして飼っている犬だ。

 つまりこの家にいる犬は全部で百一匹。その内訳はお父様百匹、私個人の犬はこのアルベルトたった一匹なのである。


 アルベルトは大人しい賢い子で、いつも私の側にくっつくようにして暮らしている。だから今だって私が目を覚したのを確認すると尻尾を振ってベッドの上にあがってきて、私の横にゴロンと伏せる様にして寝そべった。


「ユリアお嬢様。頭から後ろに倒れたのに無傷なのは、アルベルトが頭のクッションになって守ってくれたからですよ? しっかりお礼言っておいてくださいね」


 ベッドに寝かされていた私の側で控えていた侍女が、そう言いながら犬用のジャーキーを手渡してくれる。

 

「そうなの!? アルベルト大丈夫だった? 大型犬とはいえ、人間の下敷きになったら重かったでしょうに……」


 どこも怪我して無い? とアルベルトの体高70cm程もある大きな体を撫でまわしながら確認するが……どうやら怪我は無いようだ。

 ほっと胸を撫で下ろしてから、お礼のジャーキーを渡そうとするのだが。「そんなことよりも!」と言わんばかりの勢いで、私の上に乗って顔を舐め回してくる。


「ひゃッ、くすぐったいよアルベルト!」


 ジャイアントシュナウザーのアルベルトは、まるで老いたお爺さんの髭ように口元の毛が長く、顔を寄せられるとくすぐったい。今のように私が寝そべっている時に上に乗られて舐められると、艶のある黒い毛先が首元を掠めるので特にくすぐったく感じる。


「本当にユリアお嬢様はアルベルトと仲良しですね」

「だってペットは家族でしょ? 仲良しで当然よ。特にアルベルトは私が十二歳の時から六年間も側にいてくれているのだから」


「ね?」とアルベルトに問いかけると「ワン」と返事が返って来る。



「いっそアルベルトが人間の男になってくれれば、ユリアお嬢様の男性恐怖症の克服に役に立つんですけどねぇ……」



 侍女がそんな冗談を言うくらいには、私とアルベルトは大の仲良しだった。


「……そうね。アルベルトが人間の男性だったらきっと怖くないわね」


 だから私もそんな侍女の冗談に乗る。


 基本黒色で足の方は白に近い灰色をした毛色。筋肉質で力強いがスリムな体に、外側は粗いが内側はふわっと柔らかな二重被毛。

 仮にこのジャイアントシュナウザーのアルベルトが人間になったとしたら、どのような見た目になるだろうか。


「うーん……おじいちゃん、かな? 口髭が立派なタイプの」


 生憎男性が苦手すぎて上手く想像できないが、シュナウザーの類はその毛の特徴からお爺さんに例えられる事が多くある。だから、なんとなくそんな姿を想像して一緒にいた侍女と笑い合った。


「……クゥン?」


 そんな様子をアルベルトは不思議そうな目で見つめていた。

いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡

閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪

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