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神様を撃ち堕としたいけれど!  作者: 砂原翠
わたしを神様にしないで
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告白

 同級生に、神様にされた。

「高崎さんが、好きです。付き合ってください」

 手垢も指紋も唾液の飛沫だって付きまくった、ありきたりな告白に、私は思わず顔を顰めた。

 ダサい。ダサすぎる。

 私は脳内で思いっきり蔑んで、目前の垢抜けない男子を見た。

 汐屋慶。重たい前髪に隠されてもはっきり分かるぐらい、濃い眉。双眸には精気がなく、なんだか眠そうで、怠そうな感じがする。

 こいつは高一の春から同じクラスになっただけの、ただの同級生だ。休み時間は一人で本を読んでいるような、私とほとんど絡んだことのない、地味な男子。あろうことか、こいつに放課後の体育館裏に連れだされて、私は今、告白を受けている。

 普通さあ、ある程度仲良くなって、可能性ありそうな感触掴んでから、駄目押しで告白するもんじゃないの? こんな、一か八かみたいな、玉砕覚悟の告白をするなんて、振られにいってるようなものじゃん。

 しかもこいつ、「付き合ってください」って言ったきり、黙りこんでる。

 そういうシンプルさって、お互いをよく見知った関係にこそ効くんじゃないの? 私、あんたのことよく知らないんだけど? 誰? つーか、あんたも私のこと知らんだろ。

 苛立ちを鎮めるように、浅くため息をつく。

 他人から好感を持たれて、告げられることは結構ある。

 でも残念ながら、「好きです」という言葉は、「あなたの味つけが僕の味覚に合いました、もっと食べさせてください」という意味にしか聞こえない。

 それに、思いを伝えるという行動に出られたという事実が、「あなたは僕が食べる権利のある食事です」と宣言されているように感じてしまう。

 憤りと嫌悪。私は、潔癖なのかもしれない。

 しかも、自分でも性格悪いと思うけど、告白を断るのは嫌いじゃない。自分よりも体の大きな男子が、思いを手折られて、私という存在より小さく、情けないものになっていくのは気分がいい。

 私は早々にお断りする心づもりを固めた。

 居心地が悪そうに突っ立っている汐屋を、睥睨する。

「あのさ」

 苛ついた声を出せば、汐屋はわずかに首元を強張らせる。

「汐屋はさ、私のこと何も知らないくせに、何をもって好きとかいうわけ?」

 気怠い両目が呆然と瞬く。乾燥した唇が困惑したように、かすかに嘲るように、歪む。

 はあ? 何、こいつ。気持ちわる。

 半身を引いた私に、汐屋は言う。

「ああ、知らない。君の言う通りだ」

 私は口元を引き攣らせた。日常会話で、「君」なんて気取った二人称を使うやつなんているんだ。

 汐屋は一人で納得したように微笑む。

「ずっと、高崎さんに憧れていた。だけど、どうやら君は、俺が思っていた女性とは違ったようだ」

「は? 何、喋ったら嫌いになったってこと?」

 私が怒りを滲ませて問えば、今度こそ汐屋は堂々と笑った。

「いや、俺には片思いがお似合いってことだよ」

 幸福そうに、汐屋は頬を緩めている。

「君が友人と笑ったりはしゃいだりしているのを見ると、清らかな心地がして、自分が浄化されるように思うんだ。ずっと君の幸福が続きますようにと、天に祈りたい気持ちになる。君を傷つけ悲しませるもの全てを、俺が代わってやりたいと思う。君という存在に恥じないよう、背筋を伸ばして生きようと思う。俺はきっと、君を信仰していただけなんだ。だから、これからもそうする」

 気持ちわる!

「自分勝手……」

 私が呆然と呟けば、汐屋は「よく言われる」と目を細めた。

 つまり、こいつは私に幻想を持っていたことを認めた上で、今後も幻想の私に恋をすると言ってんの?

 ていうか、何が「幸福を祈りたい」だよ、「代わってやりたい」だよ。こいつ、恋を通り越して、愛してると言ってるんじゃないか?

 そんなの、嘘に決まってる!

 私は汐屋をねめつけ、挑発するように唇を持ち上げた。

「分かった。あんたは勝手にすればいい」

 汐屋がぼんやりと首をかしげる。ああ、苛々する!

「私は、あんたの欺瞞を暴いてやる」

 人を勝手に神様にしやがって。

 何が、信仰だ。清らか? 浄化? はぁ?

 笑わせんな。

 私を汚すことで、お前が汚れていることを証明しろ。

 影の落ちた体育館裏で、私は両手を握り締めた。土と緑の湿った香り、生ぬるい風、体育館から響く部活動のかけ声、走る振動、床にボールが打ちつけられる音。それら全てが私を追いたて、怒りを燃え上がらせる。

 無償の愛とか、聖人面してんじゃねーよ。

 小さく舌打ちを漏せば、汐屋は困惑したように崩れた笑みを纏う。

 私はこの日、汐屋慶を落とすことを決めた。

拙作をお読みくださり、ありがとうございます。

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