王道の悪役令嬢登場
【サイド:高峰七ノ花】
次の日の朝、ランと共に家を出て馬車に乗り学園に向かう。
昨日も思ったが、街の中の至る所に木や花が植えられていて川も通っている、自然豊かな街並みだ。都市内でも一定以上魔力を生み出すために自然物を配置するのが義務付けられているんだろう。
異文化面白〜い、なんて考えているとあっという間に学園に到着した。従者は基本学生と同じ門からは中に入れないらしく、ランはフリューを見送ってから再度馬車に乗り使用人用の通用門に向かっていった。学内で一緒に行動することは出来ないが、主君に何かあってもすぐ駆けつけられるように使用人用の控え室があるらしい。
フリューは一人で教室に向かい席についた。周りは皆雑談に花を咲かせている様子だが、フリューは誰の輪にも入っていない。
昨日の夜にランからあらかじめ聞いていたことだが、フリューが孤立しているのは何もフリューのせいでは無いという。
曰く、ケルニトス家は自領に盗賊が出たときにわざと捕まえずに追い払い、周りの領地に嫌がらせで送り込んだ事がある。
曰く、ケルニトス家の主人や女主人は使用人や娘に暴力を振るっている。
こういった噂がちらほら出回っており、周りの貴族は下手に深い関わりを持とうとはせず付かず離れずの位置で避けられているのだとか。
どれもまだ噂程度の確度なので凋落する程では無いが、少なくともフリューが虐待されているのは事実だ。
決定打になる程の不正も探せば出るかも知れないが、察知されると面倒な事になる。最後の手段として考えておこう。
結局その日は手袋を付けて私と話していた以外、誰とも話すことなく放課後になる。魔術の授業の時はどこか楽しそうにしていたので安心した。
放課後。
予定通り植物が植えてある場所に向かうと、そこにはいくつも花を咲かせた花壇が並んでおり、その奥にドーム状の屋根をしたガラス張りの建物があった。
目を凝らすと建物の中に人影が見えた、この場所を管理する人であればなにか有益な情報が聞けるかもしれない。そう思いフリューに近づいてもらう。だが、聞こえてきたのは花園には似合わない剣呑な声だった。
「貴方は自分の立場というものを弁えているのかしら。成り上がりの子爵家の娘が殿下にどう気に入られたのか分からないけれど、貴方が王妃になれることなど無いのよ。理解しているの?」
「そうよ!領地も持たない貴族の娘の分際で自惚れないで!殿下の婚約者に相応しいのは、エリム公爵令嬢様よ!」
デ、デターッ、悪役令嬢のヒロインいじめシーンだ!どうしよう、生で見てしまったわ!
余りにもテンプレートないじめ現場を目撃してしまい、不謹慎にも盛り上がってしまった。フリューが物陰に隠れてしばらくやり取りを観察する。
聞いた感じ、奥にいる亜麻色の髪をした可愛らしい女の子が爵位は低いけど殿下と仲が良くて、手前にいる金髪の女の子(名前は多分エリム様?)が爵位が高いけどそこまで仲良くないのだろう。それが気に入らなくて取り巻きを連れて糾弾しているという所か。
正直に言えば、見て見ぬふりをして逃げるのが現状最善だと思っている。伯爵以上の地位を持つ人間にフリューの後ろ盾を担ってもらう以上、貴族の中で最も位の高い公爵令嬢に歯向かってしまえば悪印象がつく。下手な真似はせず大人しく去るのが賢明だろう。
だが、それを決めるのは私じゃない。決定権を持つフリューは苦々しい表情で物陰からその子を見つめ続けている。
『フリュー、口に手袋当てて聞いて。貴方、どうしたい?』
私の問いかけに眉をひそめて悩むフリュー。一からだとすぐに答えが出せそうにないので、選択肢を与える。
『貴方には今四つの選択肢があるわ』
「四つ…?」
『えぇ。
①、助けたくないから、助けない。
②、助けたいけど、助けない。
③、助けたくないけど、助ける。
④、助けたいから、助ける。
…どれが良い?』
それを聞いたフリューはほんの少しだけ考えて、真剣な表情で答えた。
「………それなら、私……
④、で、お願いします」
『…ふふ、貴方は本当に優しい子だわ。…ちょっとだけ体を代わってもらえる?後は任せて頂戴。
あ、助けた後は貴方にはあの子と喋ってもらうから心積もりだけしていてね』
「う…分かりました、お願いします…!」
すぐに主導権が切り替わり、私が動かせるようになる。
さて、パワハラ上司達に攻められる、かわいい若手ちゃんを助けるとしようか。