フリューの実力
【サイド:高峰七ノ花】
朝の話し合いは終わり、所変わって王都の街中。農業や植物に関する本を探して散策している。
今は殿下と同じ学園に通うために王都の別荘に住んでいるが、父は領主としての働きをするために領地から出てきていない。その為今は母親とフリューの二人暮らし(+メイドとか執事とかその他)だ。さらにその母親はよく茶会だのなんだのに参加して外出している為、フリューには意外と自由に行動出来る時間は多い。
ちなみにフリューはお小遣いを父から送って貰っているらしく、今回はそのお金で買う予定だ。
…母親は小悪党という印象だが、父親の方は目的が不明で得体が知れない。フリューを大事にする訳でも無く、さりとて何もしない訳でも無い。どういう立ち位置で見ているのかが分からない。
今後の交渉にも影響が出る部分だ。可能なら早めに把握しておきたい。
そんなこんなを考えながら本屋を探しているが、いかんせんそこまで文明が発達していないため、そもそも本とか図鑑とかそれらしい物自体を取り扱う店が近場には見つからなかった。
無いものは仕方ないので、一旦服を買いに行くことにした。もし例の植物が見つかればフリュー自身も作業することになるかも知れないが、その時に綺麗な服と学生服しか持っていないのでは確実に汚してしまう。
実務作業用に、白いYシャツに紺色の上着と黒い手袋、ランには反対されたが実用性の為と丈の長いベージュのパンツを購入し家に帰る。だいぶ私の趣味に近い格好になったな?
自室につくと、フリューが買ったばかりの黒い手袋に、同じく黒い糸を使って目立たないように模様を縫い込んでいく。私とランが見守る中で小一時間ほどかけて縫い終わり、早速手に装着する。
「出来ました!」
「お疲れ様、これで私と人前で話せるようになるの?」
「はい!口に手を当てれば、自分の声が他の人に聞こえないようにする魔法陣です!」
「おぉ〜凄い。早速試してみる?」
「はい!」
ウキウキで出来上がった魔法陣付き手袋を口に手を当てるフリュー。
「どう、聞こえる?ラ〜ン〜〜〜」
「今フリューが喋ってるけど、ランさん聞こえてます?」
「いえ、全く聞こえません。流石はお嬢様ですね、魔法陣の作成など国抱えの研究者達が集まってもまだそれほど多くは開発出来ていないと聞いておりますのに」
「…え?何、本当に凄くないそれ?人格を作る魔術とか使ってる時点でなんとなく思ってたけど、フリューって天才なの?」
「そ、そんな事は…」
「あるでしょう、間違いなく。
魔法陣の技術は魔族との大戦で活躍なされたエルフの方が五年前に作り出した新技術ですが、エルフ独自の言語やその方の感性で作られているため研究が遅々として進んでいないと小耳に挟んだことがあります。
それを小一時間で作り上げてしまうのですから紛うことなき天才です。
誰が世界で一番優れた魔術師かと聞かれれば、私は絶対にお嬢様を推挙します」
「そう?えへへ…」
褒められて照れ照れしてるがこっちの衝撃はそれどころではない。
つまりこの子は少なくとも魔法陣という分野において、国の研究機関より遥かに進んだところに立っているのだ。この技術は売り出し方さえよほど間違えなければ、この家から脱却する事など容易だ。
ただ、これだけフリューの才を知っているランなら既に気づいていただろう。これは上手く売れるにせよ失敗するにせよ、発生する労力や危険がかなり大きい。
もし研究機関がブラック企業なら支配者が両親から国に変わるだけの可能性もあるし、最悪犯罪者に誘拐されるような危険性もある。もう少し色々と見極めが必要だ。
しかしこの子は人の魔力が見えることと言い、規格外過ぎて隠し通すのは中々大変かも知れない。
私が考えることに集中していたのに気づいたのか、ランと会話していたフリューが気にかけてくれる。
「ナノカさん?どうかしましたか?」
「あぁ、ちょっと考え事してたのよ。なんの取っ掛かりもなくあるか無いかも分からない物を探すのって途方も無いでしょ?
せめて魔力の多い土地でしか育たない植物とか誰かに聞けないかなって」
「そう、ですね…
あ、私の通ってる学園に図書室と、確か植物を育てるための建物があった気がします」
「へぇ、学校に農園みたいなのがあるのね。植物に詳しい人もいるかも知れないしちょうど良いわ、なら明日学校に行ったら寄ってみましょうか」
「は、はい…!」
明日は異世界の学園へ、霊体とはいえ初めて行くことになる。学校に行くのなんて十年以上ぶりだし、何より魔法がある世界の学校だ。
スコットランドの某魔法学校みたいな感じかしら?今日は楽しみで眠れないかもしれない。