私への説明会
【サイド:高峰七ノ花】
困っている子供の手前、正直冷静沈着な大人ぶって格好つけてたし、バリバリやったりますわ!みたいな啖呵切った癖に何も知らない奴で恥ずかしいが、知らないのは事実なので甘んじて受け入れる。ひとまずランからこの国の情報と世界の常識を教えてもらうことにした。
・国について
今いるこの国の名はツァードイン王国、興ったのは約四百年ほど前で、世界で最初に生まれた国家らしい。
それより以前は魔獣との戦いが激しく集落を襲われ逃げることも多かった為に、勇者と呼ばれた傑物が生まれるまで大きなコミュニティを維持する事が出来なかった。
勇者の働きとエルフからもたらされた魔術が人間の中で普及してからは各地に国家が誕生している。
約六十年前に海の向こうから渡ってきた魔族との大戦では、各国の選りすぐりが皆一丸となり戦いの末に渡ってきた魔王を討ったそうだ。
しかし、魔王を討伐したとて海の向こうにいるであろう魔族や、大陸内にいる魔獣の脅威が無くなった訳ではない。その為、今でも国家間での対魔獣の為の武力提供や復興支援などを行う同盟が固く結ばれている。
・魔力、魔術について
前述したように魔術はエルフからもたらされた技術。彼らも人間と同様魔獣に苦しめられており、多くの味方を作るために人間に魔術を広めた。それ故にエルフという種族を神聖視する人間が数多く存在している。
この世界の魔力の源は自然物、特に草木から発生する為、大規模な木々の伐採を行う際には必ず魔術の先駆者であるエルフの許可がいるらしい。
今は魔力というエネルギー資源が世界を支えているので自然破壊は起きていないが、もし電気や蒸気機関などの魔力に依存しないエネルギーが台頭してきたらどうなるのだろう。
…最悪木々を伐採したい人間と森を守りたいエルフの戦いに発展しそうだし、エネルギー分野にはなるべく手を出さない方向で行こう。
・魔獣について
魔獣は魔力の溜まった場所から突然発生するか、元々普通の獣だが多くの魔力を体内に吸収することで魔獣に変異する。しかし木々が無い砂漠地帯でも大型の魔獣が発見されているため、真偽不明である。
討伐は主に民間の冒険者が行っているが、国防に関わるクラスの魔獣が出た際には国の騎士団や魔術師団が率先して討伐に向かうらしい。
ちなみにこの三、四年で様々な分野で新技術が続々と生まれているが、それは今の魔術師団の団長が魔獣や犯罪者などを大量に撲滅し治安が劇的に良くなっている為だとか。
そういう訳で今この国は産業革命の時期らしい。これなら私が前世の技術を流用してもスッと受け入れてもらえる可能性も高いかも知れない。
「ひとまず簡単に説明出来る情報はこれくらいでしょうか」
「ありがとうございます、助かりました。気になったんですが、この世界の農業はどうなってるんですか?
草木が多いと魔力が増えて、魔力が溜まると魔獣が生まれるんですよね?いきなり地面から魔獣が襲ってきたりはしないんですか?」
「それについては同じ土地から一回収穫したら一年ほど休耕することで回避しています。
ですのでこの世界の農家は、魔力が抜けるまでは休耕して別の仕事に従事するか、そもそも農地を二つに分けて常に農業をするかの二択になります。
私の実家の方では前者でしたね。村の規模と農地が狭いので、中途半端な量の収穫と副業を並行して続けるくらいなら、一定の周期で仕事を切り替える方が効率が良いらしいです」
「魔力を抜くことは出来ないんですか?」
「勿論模索している方はそれなりにいますが、そもそも魔力の扱いに長けている魔術師になれるのは十人に一人か二人くらいなので…魔力を体内に宿し、正しい使い方を学ばなければ魔術は使えませんから」
「?じゃあ魔術師が少ないのって、みんなが学校に通えないからってことなの?私魔力持ってない人、見たことないよ?」
きょとんとした表情で疑問を投げかけてくるフリュー。
「そ、そうなのですか?私も魔術は使えませんので、てっきり魔力が無いものだと思っておりました。私の目には人が魔力を持っているかどうかなど見えないので分かりかねますが…
それが事実であれば、使い方さえ学ぶことが出来れば全人類が使えるのかもしれませんね」
「確かに大発見だけど流石に事が大き過ぎるわね。単純に考えて、多ければ今の十倍魔力が消費されることになるもの。
出てくる問題が多すぎるし今は秘密にしとくのが一番だと思うわ」
「た、確かにそうですね…、内緒にします…」
ちょっとしょげさせてしまったがこれは割り切って貰いたい。フリューが独り立ちする為に何か実績を残す必要があるとは考えているが、世界の歴史を変えかねない物は流石に重すぎる。
「農業の話に戻しますが、逆に魔力を吸って成長する植物は無いんですか?それがあれば本来休耕しなければならない時でも何かしら利益は上げられそうですが」
「…農業については実家が農家なのである程度知っているだけで、植物については詳しくありませんね…。
そんな植物があればこの国の農家は皆助かるでしょう。私の村もですが、畑を二分割して常に十分な量の作物を育てられるほど農地があまり広くない村は特に」
「! …じゃあ私、それ探してみたいです…!」
ランの一言を聞いてフリューがやる気になった、恐らくランの村が助かると言ったからだろう。この二人の間には主従以上の絆があるように感じる。いつか時間が空いたときにでも馴れ初めを聞かせてもらいたい。
「なら、フリューの実績作りのための第一案として手始めにそれを探してみましょうか。他の案については追々決めていきましょう」
「はい!」
「かしこまりました」
ひとまずやることは決まった。私の場合ちょっと違うけど、やっぱり異世界転生といえば農業なのね!