私達の説明会
【サイド:高峰七ノ花】
とりあえずフリューに椅子を2つ向かい合うように並べてもらってランと一緒に座らせる。そして昨日起きたことをフリューの口から説明してもらうことにする。
私の仕事は彼女の自立の手助けをすることと決めているので、取り返しのつく様な場面のときにはなるべくフリューに頑張ってもらおうと思っている。が…
「だから、私が昨日人格を作る魔術を使ったの!それが失敗して別の世界から呼び出しちゃった人が私の中にいて、その人とお話してたの!」
「待ってくださいお嬢様!人格を作る魔術ってなんですか!?というかいらっしゃるんですか!?誰とも知らない人がお嬢様の中に!?」
「そうだよ!」
「全然意味わかりませんが!?」
「なんでよー!」
現場は大混乱だ。仲の良い姉妹のやり取りを見てる気分になってちょっとほんわかしているが、そろそろ助け舟を出さないと収集がつかないか。
『フリュー、魔術で私の声をランさんに聞こえるように出来たりする?無理そうなら交代してもらえれば良いわ』
「あ、それくらいならできると思います!やってみます!」
ランがいるおかげか、私と話していてもあまりどもらなくなった。本人は話すのが苦手と言っていたが、聞いている感じ受け答えもそれなりにしっかりしている。ただ人見知りなだけなのだろう。
まだ会って二日目の朝だし今は仕方ないが、ゆくゆくはランと同じくらいフランクに話して貰えるようになりたい。
あ、そういえばこの世界の魔術見るの初めてだわ、どんな感じなんだろう。ワクワクしてきた。
そんな私の興奮を余所にフリューが魔術を発動する。
「じゃあいきます、【第二のお口】!」
「え、そんな技名???」
思わず声に出してツッコんでしまった。効果は分かりやすいがファンタジーの魔術といえばなんかカッコいい名前を想像していた、流石に予想外過ぎる。
魔術の効果は問題なく発動しているらしく、今の私の台詞はしっかりランにも伝わってしまったようだ。魔術の内容としては、私の声そっくりに空気を振動させて再現しているといったところだろうか。
いきなり知らない人の声が聞こえてきたランは目を皿にして驚いている。
「ぉ、お嬢様…?今の声がまさか…?」
「うん、ナノカさんだよ」
「…こほん。初めまして、高峰七ノ花と申します。色々思うところはあるでしょうが一先ず宜しくお願い致します」
「こ、これはご丁寧に…お嬢様の専属メイドのランと申します。
………えぇ、えぇと〜…?申し訳ございません、その、未だ飲み込めておらず…」
「いえ、大丈夫です。私の方から順を追って説明させて頂きます。質問があれば都度手を上げていただければ」
「かしこまりました。…フーッ………よろしくお願い致します。」
強く息を吐き、まるで覚悟を決めた戦士のような顔つきで返事をするラン。怖い。
なるべく分かりやすいように、何故フリューが二重人格になろうと思ったのか、その結果出てきた私がどういう存在なのか、今後の方針について。そういった説明を三十分ほど行い、ようやくランが理解してくれた。それと同時にフリューに対して謝罪を述べる。
「大変申し訳ありませんでした、お嬢様…。以前からお悩みになられていたことは存じ上げておりましたが、一介のメイドに出来ることは無いと、身を引いてしまっておりました。
私にも何か出来ることがあったかも知れないというのに…」
「だ、大丈夫だよ!優しくしてくれるランがいてくれるだけで、すごく嬉しかったから…!私だって、ランになにも相談しないでやっちゃったんだ、ごめんね…」
「……いえ、ありがとうございます。これからは今までよりもっと自分に出来ることが無いか、模索して参ります」
…やっぱりすごく良い人だ。いくら専属メイドと言っても、雇い主は彼女の両親である。フリューを虐げているのがその両親である以上、下手なことはしない方が絶対に良い。
しかしランは、今も自分の主君のために動こうとくれている。フリューが信頼するのもよく分かる。
ここまで信頼できる人であれば色々と任せても良いだろう。私ではフリューと分かれて調べ物をしたりすることは出来ないし都合が良い。
「ランさん。私はフリューがこの家を出ても不自由無く暮らせるようにしたいと思っています。
その為には、無理に脱走して追手を放たれる等ということが無いように穏便に家を出る必要があります。
なので何かしらの実績をあげ、フリューの親…つまり伯爵以上の権威ある誰かにこの子の後ろ盾になってもらうつもりです。協力をお願い出来ますか?」
「勿論です。はっきり申し上げてまだナノカ様を信頼出来たわけではありませんが、お嬢様のためになることであれば尽力させて頂きます」
「うぅん、大丈夫だよラン!私もまだちょっとしか話せてないけど、ナノカさんは、すごくカッコイイオトナの人って感じだもん!私の悩んでることもゆっくり聞いてくれる優しい人だよ!」
会話に割り込んで必死にフォローしてくれるフリュー。非常に可愛らしいが、その判定の仕方はかなり危うい。
「…フリュー、信じてくれているのは凄く嬉しいけど、正直ランさんの方が正しいわ。難しい話だけど、優しくしてくれる人が良い人とは限らないのよ、世の中」
「それは私も同意見ですが、お嬢様がそこまで仰るのであれば…、私も信頼していきたいと思います」
「いえ、出来ればまだ疑っておいて貰えると助かります。客観的に見て信頼できる要素の方が遥かに少ないですし。信頼についてはこれからの仕事ぶりで評価して頂きたいですね」
「かしこまりました。正直に申し上げると、私としてもその方がやりやすいです。しっかりと監視させていただきます」
まだ私とは完全に仲間になれたわけではないが、貴重な味方がさっそく出来た。それに現代日本で育った私の行動がこの世界で正しいとは限らないので、私の行動を見張ってくれるのは非常に助かる。
「さて、ランさんの理解も得られたところで、私からも質問したいのですがよろしいですか?」
「はい、私に答えられることならなんなりと」
「ありがとうございます。…いや、そのー、今さっき大見得切っといてなんですが…
この世界のこと何も知らないので、1から教えてもらっても良いですか…」