フリューのメイド
【サイド:高峰七ノ花】
翌朝。
寝て起きたら全部夢だったなんて事は無く、体はフリューに入ったままだった。主導権もどうやら私が握ったままらしく、自由に体を動かすことが出来る。
体を起こしてベッドの端に腰掛け、恐らく私と同じタイミングで起きてきたであろうフリューに声をかける。
「おはようフリュー、よく眠れた?」
『おはようございます…、ちゃんと寝れました…』
かなりふわふわした調子で返事してくる。同じ体なのに、私は覚醒していてフリューはまだ寝ぼけている様子だ。脳がどう二人分働いてるのかとか色々気になるところはあるのだが、今はそれよりもしなければならないことがある。
「フリュー、体の主導権って貴方に渡せるかしら?このまま朝の支度でメイドさんとかに来られると違和感感じちゃうだろうから、出来れば交代してほしいわ」
『そ、そうですね、じゃあ一旦、お借りします…』
「借りてるのは私なんだけど…」
そうこう言っている間に体の主導権がスッと入れ替わった。
『おぉ〜、なんかフワフワしてる。幽霊になったらこんな感じなのかしら』
視覚と聴覚は問題なく機能しているが、嗅覚は微妙だ。他の感覚も確かめるべくフリューに窓を開けて空気を吸ってもらったり、水を飲んでもらったり、頬をつねってもらったりした。
結果 体と共有されている感覚としては、視覚と聴覚は十全、嗅覚はややあり、味覚触覚痛覚はなし、という状態だ。
『私の方は問題なさそうだけど、フリューは大丈夫?』
「ぁ、はい。大丈夫だと思います」
現状問題はないが、一つの体に二人入っているのだ。色々不安もあったので何度か入れ替わったりしてフリューと一緒に体の状態を確認し続ける。
しばらくすると部屋の扉をノックする音が聞こえ、一人の女性が入室してきた。歳は二十歳かそこらくらいか、黒に近い赤髪に茶色の瞳の女性だ。服装的にメイドさんだろうか。
「お嬢様、おはようございます。…おや、珍しいですね、お休みなのにもう起きていらっしゃるのですか?」
「お、おはようラン。そう、ちょっと…えーと、目が覚めちゃって…?」
「そうでしたか、ではもうお着替えになられますか?いつもならもう少しゆっくりされておりますが」
「う、うん、着替える」
隠し事に慣れていないのだろう、フリューが明らかにドギマギしながらメイドと会話する。
先程の呼び方的にランというのが彼女の名前だろうか。テキパキとフリューの身だしなみを整え、朝食を持ってきてくれる。
(この家では家族で集まって食べたりしないのね…、一般的に見れば少し寂しいけど、毒親と一緒の食事なんて絶対しんどいだろうしまぁこの方が良いか…)
なんて考えながら食事するフリューとランの会話を聞いていた。フリューが朝食を食べ終わったところで、困り顔をしたランが質問してきた。
「ところでお嬢様…、何か私に隠し事されてますか?」
「っんぅえっ!?なんで!?」
「明らかに何かソワソワされてる様子でしたので」
「そう、かなぁ…いつも通りだよ…?」
「別に無理して話していただくても大丈夫ですよ、何か悩みがあるのかと心配になっただけですから。ご相談頂けても私にできることは少ないですが…」
少し悲しい顔で心配してくれるラン。まだ短いやりとりしか見聞きしていないが良い人そうだし、なによりフリューが心を許している。虐げてくる親のいるこの屋敷の中にフリューの居場所があったことに安心する。
「ち、違うよ、悩み事とかじゃない。でも、話しても良いか分からないことなの…」
慌てて否定するフリュー。なるほど。隠す気があるのか怪しいくらいあからさまにドギマギしてるな〜と思ったが、私のことについて話したかったのか。
『私のことは、貴方が凄ーく信頼してる人相手なら、一言先に言っといてもらえれば自由に話して良いわよ』
「ほんとですか!じゃあ、ランに話しても大丈夫ですか…!?」
『えぇ、大丈夫よ。説明が難しかったらフォローするから、とりあえず自分で伝えてみて貰える?
あと、人がいる前で私に大きい声で話しかけちゃ駄目よ。すごい独り言みたいになってる。ランさんが絶賛大困惑してるわ』
「え?」
私と話すのに意識が向いていたのをランに向き直させる。そこには困惑と心配がてんこ盛りの表情のランが。
「お、お嬢様?体調が悪いのでしたらお休みになられますか…?」
「お熱じゃないよ!?」
事情説明会は長くなりそうだ。