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降霊!二重人格令嬢  作者: 豆腐
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約束

【サイド:高峰七ノ花】


 少しだけ冷静になってきた私は状況を把握するために、フリューと名乗った少女に話しかけてみる。


「ごめんなさい、フリュー…で良かったわよね?ちょっと混乱しちゃってて…」

『全然、大丈夫です…、むしろごめんなさい…。なにも分からないような状態で生み出しちゃって………』


 先程までは敬語を使っていたが、鏡で確認した自分の姿はおそらく小学生くらいだろう。そう判断し堅苦しくならないように話す。


 それに対してしょげた声で謝罪してくるフリュー。だが、正直現状が分からなさすぎて何に謝られているかも分からない。しかし先程から気になる台詞がチラホラ出ている。


「フリュー。貴方、私が取り憑いたのを確認してから『成功した』って言ったり、『生み出した』って言ってるわよね?」

『はい』

「じゃあ今私が貴方の体の主導権を握ってるのは貴方自身の意思でこうなってるの?」

『そうです。…二人目の人格を作る魔術を使ったので…』

「へ〜、魔術あるのね。正直ちょっと期待してたのよね、ファンタジー世界…って、人格を『作る』?『呼び寄せる』ではなくて?」

『? はい、そうです…。えぇとその、ナノカさん、は私が作った人格で…』

「それは、おかしいわ。私、別の世界で生きてた記憶がちゃんとあるもの」

『………ぇ?』


 どうやら彼女は別の世界から魂を引っ張ってきたとは思っていなかったようだ。ひとまず自分が異世界で生きていた人間であり、フリューが新しく生み出したオリジナルの人格などではないと伝える。


『ご、ごめんなさい…!そんな…、もともと生きてた人をむりやり、連れてきちゃったなんて…!』


 それを聞いたフリューは、今にも泣きそうな声で謝罪を述べた。

 まだ自分の死を受け入れきれていない私だが、それよりも小さな女の子に泣かれてしまうのは非常に心苦しい。今は彼女を安心させるのに傾注することにする。


「謝らないで良いのよ。そもそも貴方に降霊してもらわなければ、私は死んでた筈だから」

『…?』

「私のここに来る前の最後の記憶は車…はこの世界にはまだ無い?まあ、馬車みたいなのに撥ねられた所なのよ。すぐ意識を失ったから正確には分からないけど、きっと死んでたと思うわ。


 でもこうして貴方に呼んでもらえたからまだ生きていられるの。だから謝らないで、凄く感謝してるのよ。ありがとう」

『…そ、そうだったんですね………』


 必死に励まそうと声をかけるが、まだ沈んだ調子だ。これは一度話題を変えた方が良いかも知れない。


「えぇ。本当に感謝してるわ。ところで話は変わるけど、元々はもう一つの人格を作ろうとしてたのよね?何故?」

『………それは…私が、出来損ないで、いつも母に怒られるから…、出来る自分になりたくて…』


 むしろより沈んでいった。うん、失策。

でも今の口ぶりで悩みの理由は少し分かった。きっとこの子は親に求められる技能を持っていなくて、それを頻繁に責められているんだろう。


 それなら私も何か力になってあげられるかも知れない。流石に魔術は門外漢だが、それ以外の分野ではそれなりに役に立てる自信がある。


 なんせ後輩から借りた異世界転生物にいたくハマってからは、農業や建築、化学の知識などを、浅くではあるが幅広く調べていた。簡単なものなら資格だって取ったほどだ。ちなみにその後輩からは勉強し過ぎてちょっと引かれた。何故…。


 そんなこんなで私はそれなりに知識を有しているし、仕事で培ったコミュニケーション能力もそれなりに高いと自負している。


 現状この体から出る手段も分からないし出されたところで普通に困る、ならば今はこの少女に自分の有用性を売り込んで一緒に暮らさせてもらうべきだろう。


 それにどの道、目の前で辛そうにしている子供を放っておけるような人間ではないのだ、私は。


「なんとなく貴方の置かれてる状況は理解できたわ。貴方は命の恩人だし何か力になりたいのだけど、具体的に何に困ってるのか聞いても大丈夫?」

『………はい、人とお話するのが苦手で、周りの人たちと仲良くなれてなくて…それに、私は殿下とは特に仲良くならないといけないのになれてなくて、それをいつも叱られるんです…』

「殿下って王子様のことよね、仲良くならないといけないのはどうして?もしかして好きだったり?」

『いえ…、母は私を王妃様にしたいらしくて…。でも、話しかけることも出来なくて、怒る度に、鞭で叩かれるんです…』


 …とんだDVだ。この世界では珍しくないのだろうか。分からないが、子供を自分の道具にしようとしているのも頂けない。

 思ったよりハードな仕事になりそうだと覚悟を決め、彼女自身の希望を聞くことにする。


「OK、貴方の母の野望は理解できたわ。で、貴方はどうしたいの?」

『え、その………私ですか?』

「えぇ、だって今聞いた話の中に貴方がやりたいことが入ってなかったもの。

 私は貴方個人の味方になりたいのよ、命の恩人の貴方に」


 そう言い切ると困惑した様子が伝わってくる。きっと、自分のやりたいことなどこれまで聞かれたことなど無かったのだろう。


「やりたくないことがあれば言って。やりたいことがあればそれも言って頂戴。

 大丈夫、今の貴方の声は私にしか届かないんだから。大声で叫んだって問題ないわ」


 優しい声色でそう伝える。本来ならこのくらいの歳の子なんてもっとワガママなものだが、それが許されなかったのだろう。

 でも、今ならなんでも言えるのだと告げると、やがてポツリポツリとフリューが言葉を紡ぐ。


『…ほんとは、殿下と結婚なんて、したいと思ってないんです…』

「えぇ」

『でも、痛いのも、もう嫌です…』

「えぇ、当たり前よそんなこと。」


 口に出し始めてしまえばこれまで抑えていたものがぽつりぽつりと溢れてくる。恐らく誰かに聞かせられる訳もなく、ずっと腹の中に抱えていた想いだ。


 特に、きっと涙を流しながら嗚咽混じりに告げた最後の願いは。


『…父も母も、周りの子達も、ほんとはどうだって良くて…。

 私は、魔術が大好きで…

 だから、私のこと怖がってくる人の目とか、家族の事とか、そんなのなにも気にせずに、自由に、魔術を使えるようになりたいです…!』


「えぇ、必ず、叶えてみせるわ。

 …ひとまず今日は遅いしさっさと寝て、明日は朝から作戦会議しましょう!」

『っ…はいっ…!』


 鼻をすすりながらも、力いっぱいに答えるフリュー。


 降霊して数十分、早速私の方針が決まった。子供の笑顔を守るのは我々大人の仕事だ。精一杯努めよう。

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