お馴染み異世界転せ…降霊?
【サイド:高峰七ノ花】
金曜日、夕方17時。定時を知らせるチャイムが鳴る。それと同時に意気揚々と話しかけてくる後輩が一人。白木美香、私にオススメのライトノベルを貸してくれる後輩だ。
「ナノ先輩、お疲れ様で〜す!」
「お疲れ様。凄い元気ねぇ貴方」
「金曜ですからね!買い溜めしてたラノベの新刊読み漁りますよ!」
「あぁ、そういえば貸してもらった本の新刊今週発売されてたわね、私も買って帰るわ」
「おー良いですね〜!月曜に感想聞きに来ますよ!」
そんな他愛もない会話をしていると、美香がふと何かを思い出したように聞いてくる。
「そういえば今日、うちの女性陣で飲み会したいね〜って昼休みに話してたんですけど、ナノ先輩来ます?」
「う〜ん、行きたいけど今日の朝電車止まってたでしょ?遅れたくなかったからバイクで来ちゃったのよ…。だから参加できないわ、ごめんなさいね」
「あちゃ、それならしゃあないですね〜…んじゃあ来れないって伝えときますね!次は一緒に行きましょうね〜」
「えぇ、ありがとう。また誘って頂戴」
「いえいえ、じゃあお先失礼します!お疲れ様でした〜!帰りお気をつけて〜!」
「ありがとう、お疲れ様〜」
手をブンブン振りながら立ち去る美香。本当に元気ねぇ…。
背中を見送ってから私も帰宅の準備を済ませ席を立つ。バイクに跨り帰路につくと、ビルのせいで若干見通しの悪い交差点が目の前にあった。信号も無い為、減速して安全を確認してから進むことにする。
(いつも思うけどここ通るの怖いのよねぇ…早く信号出来て欲しいわ…)
心の中で文句を垂れながら徐々に減速し始めた。
その瞬間後ろから強い衝撃を受けた。私が減速するとは思わなかったのか。それとも余所見でもしていたのか。
理由は定かでは無いが後続車に追突された私は、吹き飛ばされそのまま受け身を取ることも出来ず地面に落下し、意識はそこで途絶えた。
………。
…意識が戻ると見覚えのない部屋が視界に広がっていた。後ろから追突された所までは覚えているがその先の記憶がない。
病院の部屋だろうか?それにしては…なんというか、豪華絢爛。いかにも海外のお屋敷と言った感じの内装だ。窓の外には西洋風の建物が建ち並んでいるのが見える。
「ここ…どこなのかしら…。 …?」
疑問を口に出すと、その声に強烈な違和感を覚えた。
「あー、あー。なんか、随分と高い声ね…怪我でこんなに声高くなるなんてある…?」
喉を触りながら確認する。事故に合う前は私はもっと低めな声だった、筈。後輩にも声低くてイケボ〜!なんて持て囃されていたし、ちょっと嬉しかった。
そんなどうでも良い事を思い出しつつ考えを巡らせていると、不意に何処からか声が聞こえてきた。
『や、やった…!成功した…!』
「?」
子供の声だ。だが、耳から聞こえている感じがしない。なんというか、脳に直接語りかけられてる?辺りを見渡しても声の主は見つからない。首を傾げながらとりあえず適当に返答してみる。
「何が成功したのか分かりませんが、えーと、おめでとうございます…?」
『うん…!ありがとう!貴方、名前は?』
「私ですか?高峰七ノ花ですが…、貴方は?というか、どちらにいらっしゃるので?」
『あ、私はフリュー・ケルニトス…今は貴方の体の中…えぇと、元は私の体だけど、今は貴方が表に出てるって感じ…だと、思う…!』
「私の中?というか、元は貴方の…体?すいません、意味が良く…」
興奮気味な声の主と話しながらキョロキョロしていると鏡を見つけた。とりあえず怪我の確認がしたいと立ち上がり鏡に向かう。
それなりの勢いで飛ばされた気がするが、特に痛むところは無い。手足も短くなってはいるが、至って健康体だ。……………!?短くなってる!?
恐る恐る自分の状態を把握するため、鏡の正面に立つ。そこには確かに、私の体では無い、黒髪ロングに黒い瞳の少女が立っていた。
『だ、大丈夫…?そう、だよね、びっくりするよね…いきなり生まれたんだもんね…』
子供の声はよく分からないことを語りかけてきていたが、まるで耳に入らないほど混乱していた。
これが夢でないなら、私は…あの事故で既に死亡し、後輩から借りてハマっていたあの本にあったような、いわゆる転生をしたということ…?いや、これは転生というよりか…
「異世界転生ならぬ、異世界降霊ね…どうしよう、読んだことないわ私」
『?』
困惑する、私と姿の見えぬ声の主。時刻は21時過ぎ。時計の針が動く音だけが静寂を破っていた。