七ノ花の画策
【サイド:高峰七ノ花】
「ねぇ、ティスちゃん。ちょっと思ったんだけど…さっきのお薬の材料の話、私聞いてよかった…?」
今喋っているのは私だ。二重人格であることを今教える必要は無いと判断して、極力フリューに寄せた喋り方で話しかける。
「…え、どうだろう…?恩人だし良いかと思ったけど、もしかしてダ、ダメだったかな!?」
動揺して聞いてくるティス。植物の勉強はしていると言っていたが、その辺りの事は教わってないのだろうか…。
「どう、だろう…。材料って世間に発表してたりする?してなかったらまずいし、もしリカル草がポーション作りにすっごく大事な物だったら、もっとまずいかも…」
「発表しては…ない、かも…
そ、そうだよね…どうしよう…内緒にしといてくれる…?」
「下手に内緒にするより、多分帰ってすぐご両親に相談した方がいいと思う…。
口約束じゃ怖いし、明日にでも誓約書?みたいなの作っておいてもらえれば、私が学園の帰りに貴方のお家に寄って署名するから」
「うぅ、分かった…話してみるよ…。じゃあ、急いで帰ってごめんなさいしてくる!」
すぐさま帰ろうとするティス。怒られるかも知れないのに迷わず報告出来るその姿勢は大変素晴らしいが、これだけのやらかしをした後でなんの準備も無しに帰るのは良くない。
「あ、待って…!ご両親宛てに今からお手紙書くから、話すときに渡してもらえる?」
「手紙?なんで?」
「…えっと、私も途中で聞くのを止めれなかったから、お詫びと状況説明のお手紙?
どういう話の流れで情報を漏らしちゃったとか、そういうのまとめてから謝罪した方が説明しやすいし、変に誤解産まなくて済むかなって…」
「な、なるほど…、ちゃんとした謝り方ってヤツだ…!凄い賢いねフリューちゃん!」
「ふふ、ありがとう。じゃあすぐに書いて渡すから、ちょっとだけ待っててくれる?」
「分かった!助けてもらった上に手間かけちゃってホントごめん!ありがとうございます!」
とりあえずティスにはその場で待機してもらい、建物の中にあった机に持っていた鞄から出した紙とペンを広げ書き始める。
…そういえばなんか普通に書けるし授業中も普通に読めてたけど、これ異世界語だわ。私にも転生モノ特有のご都合ギフト、翻訳が備わっているのだろうか。何にせよ勉強無しで書けるのはありがたいので一旦思考の隅に追いやり手紙を書き上げる。
手紙の内容は、
・企業秘密を聞いてしまったお詫び。
・どういう話の流れで聞いてしまったのか。
・可能であれば直接お会いしてお話した上で、書面にて口外しないことを約束したい旨。
以上の三点だ。あまり待たせても悪いしひとまずこれくらいで良いだろう。
「よし、書けた…!ティスちゃん、これ、ご両親に渡してもらえる…?」
「うん、絶対渡す!ありがとうフリューちゃん!じゃあ、また明日〜!」
手紙を鞄にしまい、彼女は走って建物から出ていく。本当に突風の様な女の子だ。これで上手く事が運べばティスの家の当主と会うことができるだろう。
その時には私達が計画している魔力の溜まった農地の新たな運用方法について相談してみよう。
『魔力が多い場所でしか育たないリカル草』と、『魔力が溜まった農地の利用』が上手くマッチするかどうかも分からないし、私達が提案しなくても既に運用を考えているかも知れない。
まぁこれは当たれば儲け物くらいの感覚で提案してしまって良いと思う。フリューが魔法陣という確定必殺最強のジョーカーを持っている以上最悪の最悪は無いし、他にも現代日本で育った私が生み出せる物は多くある。故に他の手札はある程度切りやすい。
とはいえジョーカーを使えばフリューは大変な苦労を担うことになるので、あくまで最悪を防ぐためのカードだ。そうならないためにも、今回の当主との縁は可能であれば掴み取りたい。
そしてもしティスの話通りの善人であるならば、両親から虐待されている事実を伝えたい。果たして信じてもらえるかは分からないが、信じてもらえれば味方になってくれる確率は上がるだろう。
…そこまで考えて、私は最低な作戦を思いついた。
やることは策とは呼べないほど簡単で、実行すれば絶対に成功するし、子爵にもほぼ確実に信じてもらうことが出来る作戦。恐らく今日にでも実行出来る。
それに、これは私が作戦実行しなくても勝手に発動する可能性もある為、もしかしたら発動するタイミングをこちらで握っているだけかも知れない。それなら有効活用できるタイミングで使った方が合理的だ。
だが、私が自らの意思で実行すれば確実にフリューが辛い思いをすることになるし、彼女からの信頼を失ってしまう事になるかも知れない。今の彼女の為を思えばこの作戦は絶対にお蔵入りにした方が良い。
でも、やれば子爵との交渉をこちらの有利に回すことが出来る可能性が上がるカードだ。私だけの体だったら間違いなく実行する。
…悩みに悩んだ末、私はフリューに提案することにした。誰もいなくなった花壇のそばで彼女に話しかける。
「フリュー、今から貴方にとってひどい提案をするわ。ほんの少しでも嫌だったら迷い無く断って頂戴、絶対にね」