ポーションと情報漏洩
【サイド:高峰七ノ花】
「ぽーしょん?それってどういう物?」
「ふっふっふ、ポーションはね、凄いんだよ!傷口に塗れば怪我の治りが他のお薬より遥かに早くなるし、飲めばちょっとした熱とかなら和らげることが出来る、まさに万能薬なの!」
「へぇ〜、凄いね…!私、知らなかったや…」
それを聞いて、フフーン、と胸をはって自慢するティス。
「知らないのも無理ないよ、去年出来たばっかりのお薬だもん!
でもホントにすごい薬なんだよ。あたしのお父さんが頑張って開発して、国王陛下に認められて、爵位を男爵から子爵に上げてもらったんだから!」
「おぉ〜!凄い…!」
「フフン、凄いでしょ!あたし、お父さんみたいな立派な薬師になるのが夢なの!
ポーションだって、今は量産出来ないからあんまり出回ってないけど、あたしがいつか誰でもお手軽に手に入るようにしてみせるんだから!」
イキイキと自らの野望を語るティスと、感銘を受け熱心にそれを聞くフリュー。なんだかんだ相性は良さそうだ。
「確かに…、そんなに凄いお薬なら、皆欲しいもんね!」
「そう!お薬とか医療がみんなの手に届くようになれば、それだけ辛い思いをする人が減るの。
貴族の務めは国民を幸せにすることだって、お父さんもお母さんもお祖父ちゃんもいつも言ってる。しかも全員ちゃんと有言実行してきてるんだよ!
そんな凄い人達の家の娘として生まれたんだから、あたしも自分が作ったお薬で、この国の皆が幸せに暮らせるようにしていくの!」
「…!それ、凄く良いと思う!応援する!」
「ふへへ〜、ありがとう!頑張るね!」
フリューは模範的な貴族の在り方を熱く語る姿に思うところがあったのか、かなり熱を込めて話している。親があれだと分からないだろうし、良い模範が身近にできた。
…さて、とても良い話ではあるが、私はこの会話が始まってからずっと頭を抱えていた。
だって一年前に出来たばかりの、陛下に認められた治療薬の原材料とか、どう考えても出会って数分の人間に話していい情報じゃない。
いくら彼女の家族が民の為を思う立派な貴族でも、いやだからこそ、万能薬の原材料など易易と余所の人間に教えて良い訳がない。
もし悪人がそれを知ってしまえば、材料を乱獲し独占する人間が生まれ、市場に出回らなくなり、本当に求めている人間に薬が届かなくなる。その程度の事はプロなら理解しているだろう。
ティスのやっている事は立派な情報漏洩。しかも、国王陛下が爵位を上げるほどお認めになられた新薬品の。
とはいえ子供なら立派な親を自慢したい気持ちも、つい喋り過ぎてしまうのも理解出来る。
この子はまだ十歳、日本で言えば小学四年か五年生だ。そんな遊びたい盛りの幼子に企業秘密とコンプライアンスを遵守しろ、というのがそもそも無理な話だ。
叱るべき人間がいるとしたら目の前の少女の彼女ではなく、薬品の子細をこの子に教えた親の方だろうか。
いきなりかなりの危険地帯に踏み込まされてかなり焦るが、これは逆に千載一遇のチャンスと思っても良い。
彼女の親は今はまだ子爵だから後ろ盾としては弱いが、聞いた話が事実なら人柄も良く陛下の覚えもめでたい絶賛上り調子の貴族だ。最初に接触する相手としては丁度いいかも知れない。フリューもティスの事は気に入ったようなので反対されることはないだろう。
意を決した私はティスと喋っているフリューに話しかける。
『ごめんなさいフリュー、ちょっとティスちゃんと大事な話があるの。交代して貰える?』
「! …はい!」
きちんと手袋を口に当て返事をして、主導権を私に切り替えてくれる。
ティスの家と良好な繋がりを持てるかどうか、ここが恐らく最初の正念場になるだろう。そう自らを奮い立たせて目の前の少女と向かい合う。