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魔王の睡眠チャレンジ〜我の眠りを妨げるのは誰だ〜

作者: ヒュプノス

……どうも、魔王です。数か月前からずっと騒音に悩まされ続けて、不眠記録絶賛更新中。

耳を劈き、脳みそをガクガクと揺らしてくる、この叫び声のような音は原因不明のようで。

最初の頃は付近一帯に原因があるんじゃないか、とかいろいろ考えて焼野原にしてみたりしたけど、見た目がすっきりしただけでちっとも、ちーーーーっとも良くならない。

なにこれ、俺呪われてる?俺魔王ぞ?



「いやいや、きっと気持ちの問題だ。ずっと眠れてないから気持ちが弱くなってるんだ。きっと今日は眠れる……」



そう言って寝室のベッドに潜った。

目を閉じて、すぅ……と静かな呼吸をする。今日はなんかいけそうな気がする。よくわからないけど、そんな気がする。

魔王、俺、今日こそ眠ります!!



『ぎゃああああん!!きぃああああん!!ぴぃえええええ!!!』


「ああああああ!!!うるせぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



うわあああああ!!!

なんなんだ毎日毎日、俺が眠る瞬間を狙ったかのように大声出しやがって!

ただ眠りたいだけなのに、寝かせてほしいだけなのに。

泣きたいのは俺!!俺です!!



『うわあああああん!ぴいいいいい!!』


「ぐわあああ!!!耳があぁぁぁ」



思い切りガラスを引っ掻いた時のような、耳と脳を突き刺す泣き声のような怪音波…!

うおおおおおおおおお、やめろオオオオオオオオオ……!


頭をかきむしりながらブンブンふりまくるが一向に泣き声はやまない。

そして苦しみ抜いた俺は一つの結論に達した……!


よし、殺そう。


そうと決まれば即実行!善は急げだ。

ふふふ、待っているがいい。貴様の泣き声ももう二度と聞けなくなるその時が今から楽しみだ。

しかし、この魔王だけを狙って攻撃を仕掛けてくるとは……一体どんな呪術者なのだろうか。



「我の眠りを妨げるのは、誰だ」



高周波の音波にかき消されていたことと、眠りに意識がいっていたため気が付けなかったが、集中して音を分析すると、微弱な魔力を含んでいることが分かった。

やはり魔法攻撃を受けていたということか……。

魔力の響く方向に向けて出発したが、正直こんなに時間がかかると思ってなかった。

俺の城から、三日三晩だぞ。しかも移動中もお構いなしにぎゃんぎゃん泣きやがって……。

誰か頭痛薬ください、お願いします。



「ふむ、魔力の根源はここからか……」



ここは大陸の中でも辺境に位置しているトキノベル小国。

何故こんな田舎から?

いいや、この際田舎だろうが大都会だろうが関係ない。

俺は俺の眠りを邪魔するやつを締め上げて、快適な睡眠を手に入れるのだ!!ハーッハッハ!!!


しかし、困ったことに、声が聞こえない時は一切の魔力を感知できない。

悪魔め……今更怖気づいたのか?!さぁ隠れていないで出てくるがいい、俺が相手だ!



『ぎゃああああん!!』


「いやあああああ!!」



嘘!嘘じゃん!無理むりムリMURI!

アアアアアアアアア!!!


屋敷にいた時とは格段に違う凄まじい魔力の圧、至近距離高音波の暴力。耳がぁ!!耳が破れるぅぅぅぅ!!

頭が割れそうな音波だが、確かに感じる。

この魔力、音を発している時は隠せないようだな……



『うわぁぁぁん!!』



ぐふぅぅぅっ……!!

耐えろ、耐えろ俺!この魔力を追っていけば元凶にたどり着く。

楽しい安眠ライフが待ってる!!!



「お前に会うのが楽しみだ、待ってろよぉぉ」


『ぎゃあああああん』


「ぐわあああああ」



こちら魔王です。満身が創痍です。

もはやボロボロだが、いいこともあるんだ聞いてくれ。


……ふぅ、と息をついて精神統一をし、空に浮かぶ星たちへ捧げる、この喜びを。


はっはぁ!やっと見つけた、見つけたぞ!

この扉の向こうには新たな睡眠への道が広がっているんだ!ふはは!見つけてやった!



「お前を殺して、俺は寝る!!」



魔力の発生源はこの教会だ。

てっきり呪術師かと思っていたのだが、どうやら魔王を苦しめるのはいつの時代も聖者ということらしい。

しかし死ぬのは貴様!眠るのは俺!



「我の眠りを妨げる者に死を!!!ドッカァァァァァン!!」



はーっはっはっは!!教会ごと焼き払ってやった!!

どうだ!見たか!貴様がどれだけ強かろうと、ぜぇぇぇんぶ消し炭じゃああ!!



「よーーし、帰って寝てるぞぉ!」



翼を広げて空に飛び立つ瞬間、とても清々しい気持ちでした。

神よ……あなたの祝福はこんなにも心が穏やかになれるので…



「ぎゃあああああん!!」


「うわあああああ!!!」




俺は落ちた。 それはもう、ベタに。


いい加減にしてくれ!!

何故だ。塵ひとつ残さず焼いたはずなのに。



「なんだアレ…」



よく見ると、教会の残骸の中に金色に光る物が見えた。

音は止まない。音の原因はアレなのだろうか。


ゆっくりと近づき、恐る恐る覗き込むと、音がピタリと止まった。



「だっ!」


「……だっ?」



じゃなくて?!



「赤ん坊だコレ」


「きゃぁ!」



赤ちゃん……ばぶみやばくない?マジ卍じゃない?もうそれ古くない?ちょべりば。

なにこれ。赤ん坊です。赤ん坊ですね。



「人違いですね、帰りますね」


「ぴぎゃああああああんん!!」


「ああああああああああああ!!」



人違いじゃない!うるさい!これで正解!ぶっ殺そう!



「ぎゃああああん!うわああああん!」


「ぐわあああ!貴様ぁ!!赤ん坊だからって手加減すると思うなよっ!!!」



思い切り振り下ろした俺の剣は、赤ん坊に当たらずに折れた。



「うわぁぁぁぁ俺の剣がァァァァ!」


「きゃっきゃ!くすくす」



赤ん坊がまた金色に光って、すっごい頑張って買ったお高い魔剣が枯れ木の棒のようにパキッっといった。逝きました。 まだローン残ってるのに。



「くそっ!それなら直接魔法をぶち当ててやる!!」



一切の魔法攻撃もダメ。全て吸収されて無効化される……



「……神なんてくそ野郎だ」


「あぶあぶ……」



赤ん坊は、俺の姿を見て笑う。

何故だろう、馬鹿にしているような笑いじゃないんだ。

酷く懐かしむような、慈しむような、それでいて心の底から俺が来るのを待ちわびていたかのような。

俺にもわからない。この気持ちがなんなのか。



何はどうあれ、1度城に持って帰ろうと思う。

眠れなさすぎて、とうとう頭でもイカれちまったのかもしれないが、置いていこうものならすぐさまあの泣き声が俺を襲うのだから仕方がない。


赤ん坊など、数千年前に1度だけ抱いたことがある程度でしかないので、てんで扱い方は分からないが、抱え上げても不思議と暴れないものだな。



「お前、飛んでる最中に泣いたら海に捨てるからな」


「ぶ!」



―――


魔王様が不眠に悩まされて早数ヶ月。

血走った眼でこの城を飛び出して行って、もう1週間が経とうとしている。

睡眠不足の果て、ついに頭をやられてしまったのでしょうか……

……いや、それは元からでしたね。



「よし、やっとできた」



窓を割って出て行ったせいでガラスが散乱してしまった部屋。 ただでさえハゲ散らかしそうなストレスをモノにぶつけているせいで、部屋は酷い有様になっているというのに。

一通りの掃除をして、窓の修復をやっと完了させた。

わたくし、出来るメイドのアジリタ=グレイスボーンでございます。


ふう……部屋が広いだけに修復や掃除も楽なもんじゃないですね。

汗を拭い、踵を返した時。


パリーン!



「……」


「お、アジリタ、お疲れ」


「……おかえりなさいませ、無能様」


「えっ」


「あっ間違えた。魔王様」


「絶対わざとだよね?!今絶対無能って言ったよね??!」


「いいえ、そんな。わたくしは忠実なるあなた様の部下、アジリタ=グレイスボーン。

誰かさんの留守の間の公務や書類の処理に追われつつ、やっとの思いでこのお部屋の掃除が終わったというのに、また同じことを繰り返したからといって感情を乱されることなんてありませんよ、ハハハ」


「めちゃくちゃ怒ってる……!!悪かった!俺が本当に悪かった。お願いですその鞭を下ろしてください……!!」



こちらの限界点をいつだって軽々と越えていくこの無能……もう慣れたものだ、と自分でも思っていたはずだが、やっぱり実際に行動されると腹が立つ。



「全く、この窓は装甲ガラスを使用してるので魔法では修復できないといつも言ってるじゃ……」



ん?



「あぶ」



んんん???



「んだぁ!!」



やだ、ビードロみたいにきれいなお目目。


いやそうではない。



「魔王様なんですかその生き物は!!!」


「あ、やっぱり気が付きますよね」



うわあああああ!!!ああああ!!!

声にならない声が自分から出た。こんなの頭を掻き毟りたくもなる。

絶対人間の子供だ、あの見た目、あの匂い、確実にこの無能は人間の赤ん坊を持って帰って来た。

よりにもよってこの魔族の地で一番の面倒事を…… 何考えてんだこの無能。



「ちなみに、念のために聞きますが、どうしてここまで持ち帰ってきたんですか」


「わからん!」


「わ か ら ん !!」



でしょうね!!!そうだと思った!!

どうするんですかこれから?!と詰めると、元凶はどうしようねぇと隈塗れの目を困ったように細めたのだった。



―――



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