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第92装 あそこであれがああなって

【リンシア視点】


「ふふっ、ティアったらまたぐっすりだね」

 

 私はお腹がいっぱいになって満足して眠る愛娘ティアモのおでこにキスをした。

 ちなみに庭には私の授乳を覗こうとしたホクト君が妹達にボコられた上で捨てられていた。

 ま、自業自得だね。


 ティアモは髪色も目の色も私そっくり。ただ、目の色に関しては後天的に紫色に変化する可能性があるらしい。

 タイガ君も最初はフリーダさんと同じだったのが後で徐々に変化していったとの事。


「ああもう、かわいいなぁ。タイガ、よくやったよぉ」

 

 フリーダさんも孫娘にメロメロでタイガ君を褒める行為もこれで何回目だろうか。

 ナダ人は血の繋がりより『ともに苦楽を共にした時間』を重視する傾向にある為、フリーダさん以外の3人、ナギさん、セシルさん、クリス養母さん達もティアモの事を自分の孫みたいに可愛がってくれる。

 まあ、ナギさんは『転移』した日本人だけど完全に染まっているよね。


「本当によくぞリンシアに愛想をつかされずここまで漕ぎ着けたものだよ」

「ちょっと待ってくれよ母さん。もしかして俺が振られるって可能性もあったって事?」

「まあ、色々我慢できなくなって結婚前にあんたがリンシアを押し倒そうとして嫌われるくらいの可能性はあったからな」

「……マジかぁ……俺そんな信用なかったんだ」


 ごめんなさい。押し倒したのは私の方でした。

 いやぁ、まさかあそこであれがああなってそれでこうなって我慢できなくなっちゃったとかは完全に予想外だったなぁ。

 あの時の事は思い出しただけで布団に顔突っ込んで叫びたくなる。

 まあ、結果がこの愛くるしいティアモな訳だし良かったんだけどさ。

 ちなみに、警備隊の仕事は続けているけど現在は産休中。

 まさか異世界に産休の概念があるとは思わなかったよ。

 いやまあ、この世界転生者が多いし何なら元日本人がちょこちょこいるからあっても不思議じゃないんだけど。

 でも、医療技術とかはやっぱり適わないので出産って元の世界以上に命懸けっぽい。

 ちなみにタイガ君たちの時はレム本家に居たメイシーさんが取り上げてくれたらしい。

 かなりそっち方面の技術にも長けた超ベテランだけど流石にもうだいぶ高齢だから私の時は来てもらえなかった。

 まあ、元聖女のナギさんやセシルさんが居てくれたから割と何とかなったけどね。


 というかお義父さんって……聖女マニアなのかな?

 確かエイス君のお母さんも元聖女だったって聞いた事が有るんだけど……


【ユズカ視点】


 オージェ君と結婚して嫁ぐことになった時、お母様が『あたしもついて行くぅぅぅ』と泣いて色々大変だった。

 お父様が宥めてくれなかったらきっと一緒にアルスター家に来ていたと思う。

 ちなみにそんなお父様も最初は「娘がぁぁ」と泣いていたがさらに凄いお母様の様子を見て冷静になってくれたんだよね。


 フーカを抱いて家の中を歩いているとメイドたちがひそひそと話をしているのが聞こえた。

 内容はまあ、あたしの事なんだけどね。

 アルスター家は代々続く名家で政治家を多く輩出している。

 一方、レム家も今では名家扱いだけど元々商人の家なんだよね。

 貴族制度が撤廃されて大分経つけどそれでも家の格、みたいな物は残っている訳で商人の娘であるあたしを快く思わない使用人も当然いたりする。

 耳が良いのが災いして結構陰口聞こえてくるんだよね。『身体で坊ちゃまを垂らし込んだ』とか中々酷い言われようだけどさ。

 一応、旦那は幼馴染なんですけど!純愛ですけどぉ!!

 ついで言うとオージェ君って無害そうな顔して結構な肉食だからね?

 終始オージェ君のペースだからね?何の時とは言わないけどさ。


 更にもうひとつ、ある要素が使用人達からは非常にウケが悪い。

 それは……


「メイドたちが騒いでいたがまたフーカがお転婆したそうだな」

「お転婆じゃないよ。あたしだって小さい頃やってたもん」

「それをお転婆というんだ」


 あたしにはもうひとり、夫が居るという事。

 この国では非常に珍しい一妻多夫なのだ。


「お転婆じゃないよ、ラーヤさん」


 紹介しましょう。二人目の夫、災禍魔人のラーヤさんです。

 いやぁ、あたしもびっくりしたよ。

 結婚して数か月ほどしてオージェ君が『提案があるんだけど』って言ってきて何事かと思いきやラーヤさんもあたしの事が好きだったんだってさ。

 それであろうことか『ということで3人で夫婦になろう』とか提案して来て腰が抜けるかと思ったね。

 何かラーヤさんが居候するうちにオージェ君と仲良くなって、今や本当の兄弟みたいになってるんだよね。

 いや、何が『ということ』なんだよって大声出してちょいと喧嘩になりました。

 でも何やかんやあってあそこであれがああなってそれでこうなった結果、あたしはラーヤさんを二人目の夫として迎え入れることになったんだよね。

 今はもうすっかり慣れちゃったよ。

 ただ、やっぱり使用人達からは評判が良くないんだよね。

 

 ちなみに義理の父、つまりオージェ君のお父さんはこれをどう見てるかと言うと……『賑やかになって楽しいぞい』だそうで。

 うん、まあ、オージェ君の親だしおじいさまの代からの付き合いって事は多分そういう感性の持ち主なんだよね……

 

 ラーヤさんが大きな手でフーカの頭を優しく撫でる。


「たっぷり運動してユズカみたいに元気な子に育てよ」

「まぁ、間違いなく元気な子にはなると思うよ。お母様も『ユズカの小さい頃そっくり』って言ってくれてるもん」

 

 そんなやりとりをし、彼は仕事に出かけた。

 内容はオージェ君のボディガード。まあ、ぴったりの仕事だよね。

 それにしてもその内ラーヤさんとの間にも子ども生むことになるんだよね。

 ちょっと想像すると顔が赤くなるくらいには恥ずかしいです。


「ほんと、恥知らずな女よね奥様って」


 うーん、また陰口が聞こえて来るなぁ。

 いや、せめて聞こえないようにやってくれないかなぁ……

 急成長したリーゼ商会創始者の孫娘という事で学生時代も結構陰口叩かれてたので慣れちゃいるけどさぁ。

 出来ればフーカにはこんな想いをしないですくすく育ってほしいなぁ。


「あなた達!くだらないおしゃべりをしている暇があるなら仕事に戻りなさい!!!」


 そんな中、メイド長が大きな声で叱りつけた。

 メイドたちが慌てて散っていく中、彼女はこちらに向き直る。


「奥様、申し訳ございません。ワタシの教育不足で不快な思いをさせてしまい……」

「あーいや、別に気にしてないし。慣れてるから」

「いけません!奥様は何も悪くありません!」


 メイド長ことナディアさんはお母様よりも年上で厳しい人。

 時には小言を言われる事もある。だけど実家にいるお母様みたいであたしにはそれが嬉しい。

 それに彼女は何だかんだ言いながらあたしの味方に回ってくれるんだよね。


「でもさ、実際にやっぱり一妻多夫って」

「ですが何も法には反していません。愛の形はひとそれぞれ、当人同士が納得しているのならそれを否定するつもりはありません」


 かっこいいなぁ。

 あたしも彼女の様に堂々と意見を言えるようになりたいな。


「実は書く言うワタシも若い頃、夫を複数持っていました」

「え!?そうなの!?」

「はい。夫たちには先立たれてしまいましたが、子ども達は皆立派に巣立って行きましたよ」


 おおぅ、意外過ぎる過去を知ってしまった。

 まさかの一妻多夫経験者……つまりは大先輩じゃん。


「ですので奥様も陰口など気にせず胸を張って生きてください」

「ありがとう、頑張るよ。それじゃあ、ちょっとお母様に会って来るね」


 その後、あたしは晴れ晴れとした気分でフーカを連れて実家へ帰るのだった。 

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