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第89装 隣国の王子、ガチ泣き

【リンシア視点】

 とりあえず玄関先で騒がれてもマズいので家に居れる事に。

 まあ、この家の人とも知り合いみたいだし、いいよね?


「ほう、なるほど貴様がリンシア、か」

「ふーん、知ってたんだ」


 エイス殿下は椅子にふんぞり返りながら私を見定める様に眺める。


「ふふっ、手紙に書かれていたからな。相棒なのだろう?」


 そういえばユズカちゃんが手紙を書いていることが何度かあったっけ。


「もしかしてユズカちゃんが手紙を出してた相手って」

「うむ。我だ」


 ヤバぁぁぁい!!

 ユズカちゃん、隣国の王子様と文通してたよ。

 どういう事情か知らないけど絶対ややこしいやつだ。


「えーと、王子様とユズカちゃんとの関係は……」

「ふふっ、我が初恋、そして最愛の女性だ」


 やばぁぁぁぁい!!!

 最愛の女性彼氏できちゃったんですけど!?

 しかもこの国の文化的に交際開始=婚約らしいんですけど!?

 王子様が失恋しちゃったぁぁぁ!!!


「えーと、あの、あー。それで今回の来訪目的は……」

「無論、彼女に会う為だ。この国においていた監視役からよからぬ情報を得てな」

「よ、良からぬ情報!?」


 エイス殿下が私をキッと睨む。


「ずばり聞くぞ。嘘偽りなく答えよ。最近、レム・ユズカはその……えーと……その」


 いや、何で急にモジモジしだすのこの子。

 ちょっとかわいいかも……ってわたしにはそっちの趣味はないんだけどなぁ。


「男が、出来たのか?何かこう、女っぽい男とデートをしていたとかそういう情報がだな」

 

 えーと、女っぽい男………あぁ、オージェ君か。

 何かもうあの姿が彼の普通と認識してるから一瞬気づかなかった。

 うーん……


「あ、あと……キ……キキキッスをしていたとかいう情報も、その」


 何だろう。この世界の人ってキスを『キッス』という文化でもあるのかな。

 うーん。これは素直に教えてあげるべき、だよね。


「ユズカちゃんはね、彼氏が出来ました。キスの相手はその男性だよ」


 伝えた瞬間、エイス殿下はこの世の終わりの様な顔をした。


「か、彼氏……つまりそれは旦那となる男性という訳で……」

「うん、そうなるかな」

「お、おおお、おぉぉぉぉぉぉ!!」


 突如、エイス殿下は崩れ落ちると号泣し始めた。


「うわぁぁん!うえぇぇぇん!大きくなったらお嫁さんになってあげるって言ってたじゃんかぁぁぁぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁん」


 えぇぇぇ、な、何この展開!?


「き、貴様。何故それを止めなかったのだぁぁぁ」


 そんな無茶なぁぁぁ!!?


「貴様、居候させてもらっている身なのであろう?なれば家臣のようなもの。男の魔の手から守るくらいせぬかぁ!」

「いや、家臣って……そもそもユズカちゃんが誰と恋愛しても自由でしょ」

「やだやだやだやだやだぁぁぁぁぁ」


 駄々っ子になってしまったぁぁぁ!!


「やれやれ、随分と煩いね。せっかく知識を貪っていたというのに」


 カノンちゃんが不機嫌な様子で上階から降りてくる。

 手には『筋肉の神秘』と題された本を持っている。

 相変わらずよくわからないジャンルを読むなぁ。


「おや?思ったより早く来たようだね」


 カノンちゃんはエイス殿下に気づくと手をひらひらさせる。

 すると泣き止んだエイス殿下は………


「あ、姉上ぇぇぇぇぇぇっ!!」


 満面の笑みでカノンちゃん目掛け飛び込んだ。


「やれやれ、君は一国の王子なんだからもう少し品格というものをだね……」

「ぐすっ、だってぇぇぇ」


 さっきまでの態度はどこへ行ったやら、エイス殿下はすっかり子供の様に甘えてしまっている。

 うーん、ちょっと待って。何か今変な単語が聞こえた気がするよ?


「ねぇ、カノンちゃん。その子」

「ああ。まだ話していなかったね。いや、いずれ話そうと思っていたんだがね。この子はエイス。イリス王国の王位継承者であり、ウチの『真の末っ子』だよ」


 えぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?


 カノンちゃんの説明によると彼は隣国のグレーシズ女王とホマレさんの間に生まれた子らしい。

 お互いが従兄妹という続柄ということもあり、対外的にエイス殿下の父親は秘密とされているらしい。


「一応、ママ達が納得した上でエイスが生まれてるから浮気というわけではないよ」


 この国の女性、心広過ぎでしょ。

 私はタイガ君が他の女の子ととかなったら……受け入れないなぁ。

 あれちょっと待って。女王様と従兄妹って事はあれ?


「ああ、私達のばぁばは元イリス王族だからね」


 ごめん。もう色々理解が追い付いてないんですけど。


「えーと、つまりカノンちゃん達はその」

「そうだね。王族の血が流れているし王位継承権もあるよ。まあ、私以外は放棄しているけどね」

「え?カノンちゃんは放棄してないの?」

「だって『面白そう』だから」


 そうだよ、こういう子だったよ!!

 頭の中で情報がぐるぐるしている中、エイス殿下が私をじっと見ている。


「あ、あの、ごめんなさい。あなたがまさか兄上の婚約者になっていたとは知らなくて、その……」


 急に尊大だった態度がしおらしくなったぁぁぁ。


「手紙は2か月に1回だからまだ伝わっていなかった様だね」

「ううっ、もっと姉上達からの手紙欲しいのに」


 カノンちゃんの膝に乗ったエイス殿下は完全に甘えん坊の末っ子になっているのだった。

 

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