第87話 異世界式酔い覚まし
【リンシア視点】
ユズカちゃんの交際開始騒動から一夜明けて。
朝食の準備に起きると酔い潰れた母親が3人居た。
ナギさん、セシルさん、そして私の養母であるクリス母さん。
何というか酒臭い。
「とりあえずユズカに男が出来た祝い。アルスターんとこの坊ちゃんならまあ、問題なく任せられるという事で酒飲んだ結果だな」
フリーダさんが呆れ顔で3人を見ていた。
「あのフリーダさん……じゃなくて…」
少し考えて言葉を紡ぐ。
「義母さんは酔い潰れてないんですね」
まあ、私の将来のお相手の母親何だしこれがいいよね、呼び方。
彼女も嬉しそうにうんうんと首を縦に振る。
「わたしは酒に強いからな。まあ、十数年ぶりに呑んだ男はあのザマだが」
外を指さしたので何事かと外へ出てみると郵便受けを頭に被ったこの家の家長が座り込んでいた。
「やはり酒は悪魔の飲み物だ……」
呟く彼を放置して私は中に入る。
義母さんは肩をすくめ苦笑。
「吞まない方がいいって言ったんだがな。愛する娘がぁぁぁって飲んであれだよ」
「す、凄い酔い方ですよね……」
「さて、セシルは今朝会議だって言ってたから『オルテモルプス』でも作るか。二日酔いの時はあれが効くんだよなぁ」
何か聞き慣れない単語が出て来たなぁ。
言語チートで翻訳されていないって事は固有名詞なんだろうけど。
義母さんは地下の倉庫に行くと何やら宝箱っぽい容器を持ってきた。
「リンシアは『ダンジョン』を知ってるか?」
「え?まあ、少しは」
「ウチの家は教育方針としてダンジョン禁止なんだが旦那がガキの頃に行ってきたダンジョンから持ち帰った宝箱があってな。それをお義母さん、つまり旦那の母親だな。あの人が何かに使えないか解析してそれをセシルが引き継いだ結果、この『万能保存容器』が出来たんだ。まあ、量産できる代物じゃないんだがな」
言いながら義母さんが宝箱を開けるとツンと鼻に来る酢の匂いと生臭い魚の臭いが漂ってきた。
「こいつは『カラドヘリング』っていう魚の切り身を酢漬けにしたものだ」
「きょ、強烈な臭いですね」
「リンシア、済まないがそこにある『ガッツオニオン』を細く切ってくれ」
言われた通り、私は『ガッツオニオン』をくし切りにしていく。
義母さんは『カラドヘリング』の切り身にキュウリのピクルスを乗せ、わたしが切った玉ねぎを乗せくるくると包む。
そして『ビターコーム』という唾液と反応すると溶けだす小さな串で串刺しにして止めると皿にのせてセシルさんの元へ。
「おーい、セシルぅ。今朝は会議って言ってたよなぁ?」
「フリーダぁぁぁ、ふわふわですよ~」
うわぁ、見事に出来上がってるなぁ。
「仕方ないな。ほれ」
フリーダさんはセシルさんの鼻をつまむ。
すると呼吸をする為に口を開けたのですかさず特製ニシンの酢漬けを口の放り込み、口を閉じさせた。
「むごっ!……もがもが…ごぼぁぁぁぁ!!」
「しっかり噛まないと窒息するぞぉ」
吐き出さない様口を押える。
セシルさんは白目をむきながら必死に咀嚼していた。
やがて口の中の物が無くなり、喉が動いたのを見て手を離す。
「はぁ、はぁ……い、今の『オルテモルプス』ですよね!?こ、殺す気ですか!!?」
「だってべろんべろんだったしさ。さっぱり目が覚めただろ?」
「おかげさまで!危うく天に還りかけましたけどね」
それはシャレにならないなぁ。
でも見た感じ二日酔いの影響とかもない感じ。
恐るべし『オルテモルプス』。だってあれエグそうな味だもんねぇ。
「これの作り方、お前達にも教えてやらんといかんな。リンシア、もし将来タイガが酔い潰れて困った時はこいつを今みたいに口に放り込めばいいぞ」
「は、はい……」
出来れば使いたくないなぁ。
「さて、残る連中は……」
見れば残る二人はピシっと起きて引きつった顔で苦笑いをしていた。
「ふふふ、ナギ。『治癒』をお願いできますか」
「う、うん。いいよー」
ナギさんが母さんに治癒をかけていく。
「噛んだ時に放つ臭いが強烈だから周囲にいる連中の酔いも覚める効果がある」
「それならあたしの口にねじ込まなくても良かったじゃないですか!!」
セシルさんが猛抗議した結果……
「いや待って!俺しっかり目が覚めてるよ!?だからそれを口にねじ込むのは止めて欲しいなぁ」
表で郵便受けを被っていた旦那さんが奥さん3人に押さえつけられ、残るもうひとりの奥さんによって口に『オルテモルプス』をねじ込まれていた。
「あばばばばばばばばばばばばっ!!?」
「しっかり味わえよー。これ、義母さんから教わった秘伝レシピだからな?」
悶絶する父親を見てタイガ君とマリィちゃんが顔を青くしているのだった。
「あ、あのリンシアさん。あれ……」
「うん。私にも教えてくれるってさ」
「俺、大人になっても飲みませんから!お酒飲まないからあれの出番なしでお願いします!!!」




