第86話 隣国の王子様がやってくるかもしれない
タダでは終わらない恋愛編。まだ続きます。
【リンシア視点】
その日の夜。
無事、ユズカちゃんとオージェ君の交際が始まりめでたしめでたし……とはならなかった。
2人の事を聞いた父親のホマレさんは腰を抜かし、ナギさんに何かを囁き、その後で慌ただしく外に出ていた母親達がぞろぞろ戻って来る。
どうやらナギさんが『声』を飛ばし他の母親を呼んだらしい。
そしてユズカちゃんを連れて別室で何やら話し合いを始めたではないか。
「ねぇ、ベルちゃん。なんかお母さん達が物々しい雰囲気になってるんだけどこれ大丈夫?」
「ん-、まあ色々お話することがあるからねー」
それにしたって物々しいよ。
だって、ユズカちゃんが男の人と付き合うってだけだよ?
「ユズカお姉ちゃんも結婚かぁ」
寂しそうにマリィちゃんが呟く。
「え?待ってマリィちゃん。ユズカちゃんはオージェ君とお付き合いをするだけだよ?」
将来的には結婚するかもしれないけどちょっとそれは気が早すぎるんじゃないかな。
と思いきや、カノンちゃん、ベルちゃん、マリィちゃんは首を傾げていた。
あれ?私なんか変な事言ったのかな?
やがて、カノンちゃんがある事に気づく。
「ああ、リン姉は知らなかったんだね。ナダ人にとって男女交際はほぼ『婚約』と同義だよ?」
「えっ……」
ベルちゃんを見るとうんうんと首を縦に振る。
「冷静に考えてみて欲しい。リン姉もタイガと婚約しているだろう? そういうことなんだよ」
確かに言われてみれば色々と過程をすっ飛ばしていきなり婚約してたっけ。
「お付き合いをしている期間は結婚までの準備期間なり。例外もあるけど数か月から1年程で色々な準備をして結婚になるよ」
カノンちゃんが何処からかフリップを出してきて解説する。
「一般的な流れとしては交際が始まるとまず相手方の家に挨拶へ行く事になる。それが済むと細かい所を少しずつ準備していくんだ。どちらの家に籍を入れるかとかね」
どうやらナダ人は一般的に男性が女性の家に入る事が多いらしい。
「ただ、ウチはちょいと事情が違うね。色々あってパパのレム家に籍を入れる選択をしたんだ。まあ、それはともかく本来ならオージェ君がウチの家に入って更に分家化するのが普通。ただ。あちらさんは昔から続く名家だし一人っ子だからね」
そうなるとユズカちゃんがアルスターの家に嫁ぐことになるのかな。
「選択肢としては慣習通りオージェ君がレム家に入ってミドルネームに『アルスター』を入れる。そして生まれてきた子のひとりをアルスター家の跡取りにする。或いはユズ姉があちらさんに嫁いでミドルネームに『レム』を入れる、だね」
色々とややこしいなぁ。
「あ、でもさ。ユズ姉が結婚するとなると『エイス』が騒がないかな?」
ベルちゃんの言葉にマリィちゃんが苦い顔をする。
「あー、なんか煩そうだよねぇ」
「えーと『エイス』って?」
カノンちゃんは苦笑しながら本棚から新聞記事の切り抜きを持って来る。
そこには『イリス王国のエイス王子、生誕祭』という記事が。
「え?お、王子?」
「隣国、イリス王国の『次期国王』だね。昔からユズ姉の事が『大好き』でね。実はこっそりユズ姉に監視をつけているくらいなんだよ。私にはバレてるけどね」
え?それってユズカちゃんが隣の国の王子様に執心されているって事?
これって『三角関係』ってやつなのでは!?
「え?そんな事してるなり?キモっ」
「ダメだよ、お姉ちゃん。エイス君一応は王子様なわけだし」
一国のお王子様が『君』扱いかぁ。
この家って本当に顔が広いなぁ。
まあ、結構な有力者みたいだからその関係なのかな?
「多分ユズ姉がキッスされた情報が入った辺りで発狂して飛んできてるだろうから数日内には着くんじゃないかな。ふふっ、楽しみだね」
いやいや、何か物騒な事になってない!?
下手したらユズカちゃんの恋愛に端を発した戦争になっちゃうとか?
というかこの娘達は何でそんな楽観的なのぉぉ!?
【???】
イリス王国の王城では兵達が慌ただしく動き回っていた。
「王子が『また』城から消えただと!!?」
「『今度』は何処だ!?王子が興味持ちそうな事件とかが国内で起きていないか?変わったモンスターが出没しているとかはないか?」
そんな中、ある情報が親衛隊隊長の耳に入る。
「やべぇ、王子が国を出て『あそこ』へ行ったぽい……特別対応班を派遣しろぉぉ!!!」
親衛隊隊長は頭を抱えるのであった。
同時刻、イリス王国の国境を越えた辺りを一人のケンタウロスが疾走していた。
その少し後方ではロープでつながれ地面を引きずられる少年の姿があった。
「ま、待てアメリア!た、頼むから背中に乗せっごばぁぁぁぁぁぁ」
「誇り高きケンタウロスは背に人を乗せません!!」
「知ってるけどせめて主君は乗せてぇぇぇぇ!!!!」
彼の名はイリシア・エアリアル・エイス。
現在失踪中の、イリス王国王子である。
目指す先はノウムベリアーノ。会いに行く相手は。
「待っておるのだ、レム・ユズカ。我が愛しの……がばぁぁぁぁ、川っ!我を引きずりながら川を越えるなぁぁ!!」
「近道ですので!!」




