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第83話 勘違い受難曲-パッション-第2楽章

【リンシア視点】

「え?料理を教えて欲しい?でも、ユズカちゃん料理出来るよね」

「いや、その出来はするんだけど……あたし、男の人に手料理を振る舞った事がなくて……あっ」


 ユズカちゃんが思わず口を押える。


「ほほぅ。男の人に手料理かぁ。例えば誰かな?オージェ君とか?」

「うえぇぇっ!?いや、その、あの……あぅぅ……」


 うんうん。わかりやすいなぁ。可愛いねぇ。


「そっかぁ、ユズカちゃんはオージェ君に手料理を振舞ってみたい。そう思ってるんだよね」

「う、うん……や……やっぱり変かな……?」

 

 うわぁ、何この可愛い生き物。

 普段の活発さが嘘みたいにモジモジして、頬を赤らめて上目遣いで見つめてくる。


「変じゃないよ。大切な人に何かをしてあげたいって素敵な事よ」

 

 ユズカちゃんも女の子だもんね。


「それで、どんなものを作ってあげようと思うの?」

「えーと、お肉大盛りの……」

「それ、ユズカちゃんが食べたいものよね?」

「……うん」


 全くこの子はもう……。


「うーん、そうね。オージェ君の好物とか知らないの?」


「オージェ君の好きなもの……あたし、あんまり知らないんだよね。鶏肉、キノコ、ニンジン。牛乳とかも好きかな?量は男の子としてはあんまり食べない方で……というくらいしか知らないよ」

「いや、結構好みを把握出来てるよね、それ?」


 流石は幼馴染といったところだわ。

 それにしても、本当によく見てるなぁ。

 とりあえず今聞いた材料から連想されるものは………


「……『フリカッセ』でも作ってみようか」

「ふぇ?『ふりくっせぇ』!?」

「あーいや、ちょっと違うけど。あっちの世界の料理でね。もしかしたらこっちにも似たようなものはあるかもしれないけど煮込み料理の一種だよ」


 こうして私はユズカちゃんとフリカッセを作る事になったのである。


【オージェ視点】


 散歩をしていたらアルに出会った。

 随分と思い詰めた表情で『話がある』と言ってきたのでいつもの公園に移動する。 

 アルはしばらく黙り込んで何やら考えていたが意を決したかのように顔を上げて口を開いた。


「なぁ、オージェ……俺ら親友だよな?」

「うん。そうだけど?」

「なら、正直に答えてくれ。お前。この間の祭りの日、妹と……ユズカとデート……したんだよな?」


 アルは真剣な表情で俺を見つめていた。


「……うん。そうだよ。俺、ユズカちゃんとお祭りを回った」

「そ、そうか。それでその……帰りにあいつと……『した』って聞いたんだけど」


 もしかしてユズカちゃんから何か聞いたのかな?

 俺が『キス』をした事。


「そ、そうか。あいつと……『した』のか。やっぱり本当、なんだな」


 そう言ってアルはまた黙り込む。


「お前はもうちょっと紳士的な奴だと思っていたんだが……」


 確かに唐突だった気はする。

 だけどこの間、雨の中で心までびしょ濡れになっていた彼女を見て俺は……


「色々あってさ。気づいた気持ちがあったんだ」


 ユズカちゃんを小さい頃から知っている。

 親友の後ろを元気いっぱいについてくる妹ちゃん。

 そんな姿を微笑ましく見ていたけど、いつの間にかあの子は一人の女性として俺の心に棲みついていたんだ。

 これまで当たり前のようにいる彼女がこの先もずっといて欲しいと願うようになっていた。


「だから、自分の気持ちを我慢できなくなってしちゃったよ」

「なっ!『我慢できなく』……」


 俺の言葉にアルは絶句して震えていた。


「だけど、俺は自分のしたことを後悔していない」

「お、お前は……オージェ!よりによって『我慢できなくなって』したっていうのか!!?」

「ダメかな?」

「ダメっていうか物事には順序ってものがあるんだろう!!」


 順序?

 ああ、確かに本来なら付き合ってから時間を経てした方が良いかもしれない。


「それは分かってるよ。でも、好きな子を前にして我慢なんてできないでしょ?それにあの子だって俺に少なからず好意を抱いてくれてるはずだし」

「だからって、いくらなんでもいきなりすぎるだろ!!もっとこうムードとか雰囲気とかあるだろうが!」

「そうは言うけどさ、俺としては精一杯頑張ったんだよ?まぁ、少し『強引』だったかもしれないけどね」


 俺の言葉にアルはまたもや絶句した。 


「ご、強引!?まさか無理やりだったのか!!?」


 何か凄い捉え方されてるなぁ。


「無理矢理って言うと語弊があるけど彼女の許可は取らなかった」

「許可も取らずお前は妹の『初めて』を奪ったのか!!?」


 え?『初めて』?

 そうか、ユズカちゃんにとっては『ファーストキス』だったんだね。


「そうだよ。あの子の初めては俺が貰った事になる」

「こ、この馬鹿野郎っっ!!」


 叫んだアルの拳が俺の顔面にめり込んだ。

 殴られて後ろに吹っ飛んだ俺をアルが見下ろしていた。

 その顔は怒りに満ち溢れている。


「よくも、よくも俺の妹をっっっ!!!!」


 そして倒れた俺の胸ぐらを掴んで激しく揺さぶる。


「てめぇは、マジで見損なったぞ!!」

「何でだよ!俺が彼女に何をしたとしても、いちいち君に許可取らないといけないの!?」


 何か腹が立ってきた。

 確かに唐突にキスしたのは悪かったかもしれないけどそこまで言われる筋合いはない。

 アルがシスコン気味なのはわかっていたけどここまで拗らせていたとは。


「いい加減にしなよ。彼女はもう、子どもじゃないんだよ」

「オージェ、お前はぁっ!!」


 出会って初めて。俺は親友と殴り合いをすることになった。


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