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第82話 勘違い受難曲-パッション-

【ユズカ視点】


 あたしはレム家長女ユズカ。

 今、大絶賛パニックを起こしている真っ最中。

 

 先日あったお祭りでお兄様の親友であるオージェ君からキ……キッスをされてしまって……


「ど、どうしよう……」


 確かにここのところオージェ君の事は気になっていた。

 小さい頃からの知り合いで女装男子だけど優しいしあたしの事結構理解してくれてるし……正直傍に居て心地は良かった。


 だけどオージェ君は出会った頃からお兄様の事が好きって人だった。

 だからその好意があたしに向けられるなんて……そんなの考えてもなかったのに。

 そうだよね?オージェ君あたしの事好きってことだよね?

 でないとキスなんかしないよね!?


 『この先もユズカちゃんと一緒に居たいなぁ』


 これってつまりそういう事だよね?

 告白……いや、むしろこれは求婚と捉えてもいいレベルだよね?


「ど、どうしよう……」

 

 オージェ君、無茶苦茶ダサいのに心が揺さぶられちゃうよぉぉ……

 そんな中、あたしの目の前で仕事に出ようとするお母様がお父様の前で両手を広げて期待に満ちた眼差しを向けていた。


「さぁ、ジェス君。いってきますよ」

「はいはい。気をつけてな。俺は久々の休みだからもう一回寝るわ」


 背を向けるお父様にお母様はすがりつきながら涙目で訴える。


「ジェス君ったら酷いですよぉ!愛する妻がお仕事に行くというのに!倦怠期ですか!?ねぇ!?」

「ああもうっ!やっぱりかよこのやり取り結婚してから何回目だよ!!?」


 お父様、わかってるならきちんと対応しようよ。

 

「たった6318回目ですよぉ!いってらっしゃいのハグをしてくれないとお仕事行きません!」

「そんな数字よく覚えてるな!?」


 お母様って記憶力は抜群だからなぁ。

 呆れながらもハグするお父様。あたしが小さい頃からこれずっとやってるんだよねぇ。

 本当にいつまでも新婚気分を忘れないお母様と何だかんだでそれに付き合っているお父様。

 やっぱり仲いいんだよなぁ。

 そんな中、お父様が頭を掻きながらお母様にキッスをする。


「っ!!」

  

 両親のキッスを見て思わずこの前、オージェ君にされたキッスを思い出してしまい顔が熱くなるのを感じた。

 しまったぁぁぁぁ、いつもの事だからこれって予想できた行動じゃん!

 慌てて両手で顔を覆うがやっぱり顔が熱い。


「えへへー、行ってきまーす」

「ったく……気を付けて行ってこいよ?」


 指の隙間から見えるのは嬉しそうな笑顔を浮かべながら出て行くお母様。


「ユズカ、何で顔を隠してるんだ?」

「あぅ……あぅ……お父様朝からはしたないっ!!」

「えええっ!!?」


 あぁぁぁぁ!!恥ずかしいぃいい!!!

 あたしは悶えながら屋根へと退避した。


 屋根に座り込みため息が漏れる。


「あぅ……どうしよぉ……」


 キッスの事が頭の中でぐるぐる回っている。

 あたしはオージェ君の事をどう思ってるのか……それは勿論……


「好き、なんだよね?」


 口に出すと恥ずかしさがこみあげてくる。

 どうもイマイチ『好き』って感情がよくわからなかった。

 同級生に告白された時はあんまり深く考えなかった。

 レトリーバー隊長には結構恋してた感じだけど妄想がかなりあったし、結局は頭の中で色々思い描いていただけで終わってしまった。

 だけどオージェ君は……現実感が半端なく強い。

 小さい頃から知っている年上のお兄さん。

 男の人からの告白って正直アレなんだけどそれでも心が揺さぶられる行動だった。

 だけどキッスしちゃったって事は……その、あれだよね。

 フーカの父親はつまり……


「あれ?フーカって誰だっけ?」


 というかこの流れやネーミング的にこれって子どもの名前……ってあたし勝手にオージェ君との子どもとか想像しちゃって名前までつけてる!?

 うわぁぁぁぁ、い、痛すぎる!何なのよぉ!!!


「ああ、オージェ君との子どもだとか色々早回り過ぎて恥ずかし過ぎるよぉ……」

「よ、よぅユズカ」

 

 何やら緊張した表情でアル兄様が屋根に上って来た。


□□□

【アル視点】


 祭りの日から妹の様子がおかしい。

 いつもならライス3杯いくのに1杯で終わるし肉を完食としてつまむこともしない。

 挙句、唐突に顔を真っ赤にして逃げ出したり。

 親父もなんか戸惑ってたしこれは俺の出番かもしれないと屋根に上って話を聞くことにした。

 オージェとの子どもがどうだの聞こえたが……何だろう。そこはかとなくヤバい空気が漂ってやがる。


「よ、よぅユズカ」

「お、お兄様っ!?」

 

 うん。やっぱりおかしい。

 いつもなら笑顔で『お兄様も高い所来たのぉ!』とかはしゃいでいた妹が……

 これ絶対何かあったパターンじゃん。

 しかもあれだよ。絶対オージェが絡んでんじゃねぇか。

  

 ガキの頃から元気いっぱいだった妹。

 壁や天井を這いまわって母さんの『音』で落とされたりして『虫かよ!!』ってツッコんだりしたよなぁ。

 元気があり過ぎてウザイと思った時もあるけどいつも俺やホクトの後ろをついて来た可愛い妹だ。


「ユズカ。あのさ、最近お前何か変だっただろ?もしかして何か悩みがあるんじゃないかって思ってさ」

「うえっ!?そ、そんな事……な……」


 うん。わかりやすい。


「ウソは止めろって。オージェと何かあったんだろ?話してくれねぇか。お前は大切な妹なわけだしオージェだって俺にとっちゃ大事な親友だ。だから、さ?」


 しばらく沈黙した後、観念したようにユズカは項垂れ話始めた。


「あ、あの。実はこの前……オージェ君とお祭りに行ったんだけど」

「お、おぅ……」


 やっぱりデートしてやがったのか。こいつら、そう言う仲だったとは…… 

 いやでも、オージェとはガキの頃からの付き合いだしユズカもまあまあ懐いてたしな。

 とは言え俺抜きで会ってたのかぁ……何か聞くのが怖くなってきた。


「帰りにね……その……」


 歯切れが悪ぃ。

 マジで怖くなってきたんだけど!?


「あたし、オージェ君に……されちゃって」


 え?『された』って何を?待って、怖い怖い!!!

 まさかその、さっきの子どもがどうだの発言と絡んでるアレ?


「え、えっと……」

「あたし、そういうの初めてだったから頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって」


 なっ!は、『初めて』だった!?

 それってまさか……えぇ、嘘だろ!!? 

 あいつ人の妹に何してくれてんだ!?

 するにしても段階ってもんがあるだろ!!


「お母様にも何て言ったらいいかわからなくて」

 

 そりゃそうだ。かなりデリケートな問題だ。下手に言わない方が良い。

 よーし、落ち着け、俺。

 つまりこの状況はあれだ。俺の親友が祭りの帰りに妹に手ぇ出しやがったってことだな?

 よし、把握した………そうかそうか。こいつはお転婆だが可愛い所もあるからな。そりゃ納得だ…………できるかあぁぁぁぁ!!

 何だこの急展開!? なんで妹がそんなことになってんの!?

 そもそも あの野郎!あいつはそういうことに関しては誰よりも紳士だと思ってたんだけど違うのか!?

 いや、そもそもあいつも男だし、そういうことに興味ある年頃だってわかってるけどさ……

 節度を守れよぉぉ!妹が困ってるだろうがぁぁぁ!!!

 俺が心の中で絶叫していると、妹が小さく呟いた。


「……ごめんねお兄様」

「……安心しろ。俺はお前の味方だ」

 

 立ち上がり、屋根から飛び降りる。


「何処行くの?」

「………ちょっとケジメつけてくるわ」

 

 俺は兄貴だから、妹を守らねぇと。

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