第80装 ちょっとだけ、大人扱い
ようやくこの段階まで来れた……長い5月だったぁ。
【リンシア視点】
「久々の災禍獣だね。でも、災禍魔人と何度も戦ってきたあたしは負けないよっ!!」
ユズカちゃんは災禍獣目掛け走っていくが敵が鼻から噴射した火炎を見て慌てて盾を出して防御する。
凄い!ユズカちゃんが初めてまともな使い方で盾を扱った!!
「ああっ、ちょっと待って!盾が小さくて炎が脇から洩れて熱っ!!!」
盾---ッ!!
肝心なところで何か役にだってないじゃない!
流石私由来の力。微妙な所がポンコツだぁ!!!
「そ、そうだ!聖女シールドッッ!!」
ユズカちゃんは盾を核として闘気で広い光の壁を作り出し敵の火炎をシャットダウンした。
流石はユズカちゃん。即座に新しい手を考え付く!
「てぃぃぃりゃぁぁぁ!!!」
炎が止まるとユズカちゃんは盾をおもむろに担ぎ上げ、災禍獣目掛けて投げつけた。
「だから何で投げるの!!?」
「え?」
意外そうな顔で驚いてるけど私間違ってないよ?
盾は投げるものじゃありません。ただ、ユズカちゃんは将来生まれてくる自分の娘には盾=投擲武器と教えてるみたいで……
「タイガ君……」
「あっ、大丈夫です。盾は防具ですから」
一応比較的常識人のタイガ君に確認を取ってみたらやっぱり間違ってなかったよ。
というか全部言わなくても通じるってもうツーカーの仲になってない?
ああ、死語だっけこれ?
だけど気をつけておかないとこういう所から綻びが生まれるもんね。
慢心は禁物だよ。
「フザケテルンジャナァァァイ!!!」
怒りをあらわに災禍獣が突進して来る。
ユズカちゃんは角に組み付くと力任せに敵の身体を持ち上げ後方に叩きつけた。
そして全身から闘気を絞り出すと『塩』精製し災禍獣に塗り込んでいく。
えぇ……な、何やってんの?
「塩漬け浄化ぁぁぁl!!!」
「ヤメロォォォ!!!」
うわぁ、何だこのシュールな光景。
何か塩で野菜の水分が抜けていく感覚で災禍獣の変異が解けていってるんだけど何というか……
私が知っているヒロイン史上最も地味な必殺技光景だよ!!
普通こういう浄化技って何かステッキ的なものからハート型の光線とか出して敵をどうにかするよね?
それがまさかの……『塩漬け』って……
「塩漬けの聖女……」
そんな言葉が浮かんだのだった。
□
戦いが終わり、そこには塩塗れになって毒気まで抜かれたタイシカーンちゃんがへたりこんでいた。
何だろう。色々と不憫すぎる!!!
そんな中、タイシカーンちゃんにひとりの少女が手を差し伸べた。
「大変な目にあったようだね」
「あんたは……」
「済まなかったね。君が強かったから思わず受け止めるのを避けてしまった」
カノンちゃんの言葉にタイシカーンちゃんが目を丸くする。
そんな中、カノンちゃんが上着を脱ぎ捨てる。
「さぁ、仕切り直しといこうじゃないか。リングは無くとも、武の者が二人そろえば起きるのは闘争だ。そうだよね、力の闘士」
その言葉にタイシカーンちゃんは立ち上がり腰を割ると全力でカノンちゃん目掛けぶつかっていく。
それに対しカノンちゃんは避けることなくがっしりと2mの巨体から放たれるぶちかましを受け止めた。
「素晴らしい。これぞ正に力の極致。こんなにも心躍る闘争は初めてだよ!」
「それはこっちのセリフよ! あんたみたいな強敵に出会えたなんて最高だわ!!」
カノンちゃんはヘッドロックのような態勢に相手を捉えると自分の膝に当ててその膝を抱え上げ、そして一気に叩きつけた。
相撲だったらダメな奴だろうけどこれは異世界格闘技だから問題ないのかなぁ……
「あははっ、す、凄いよレム・カノン。また……また戦ろう……」
満ち足りた笑顔でタイシカーンちゃんは額から血を流しながら気絶するのだった。
「ふふっ、楽しみにしているよ。次も私が勝つけどね」
□□
「すいません、リンシアさん。俺、今日は役に立たなくて……」
帰り道、タイガ君がしょんぼりしていた。
「まあ、命に別状はないわけだしいいんじゃない?デートに剣持っていくってのも変な話だしさ」
「そうですけど……、やっぱり悔しいですよ」
「そんな風に自分を責めてばかりいたら、この先やっていけないよ?成功する人ってね、誰よりもたくさん失敗しているものなんだよ?」
「そうなんですか……?」
「うん、だからそんなに落ち込まないで。人生はまだ長いんだから」
そう言って、私はタイガ君の頭を撫でた。
「また子ども扱いして……」
「ふふっ、だって婚約者とはいえ私から見たらタイガ君はやっぱりまだ子どもだよ。まあ、でも……今日は誕生日でひとつ大人に近づいたもんね。だから……」
私はタイガ君の顔を覗き込みそのまま唇を合わせた。
そして唇を離した後、ニコッと微笑みかける。
「ちょっとだけ、大人扱いね」
するとタイガ君の顔が真っ赤になっていた。
うんうん、かわいい反応だこと。
「キ、キ、……キッス!リンシアさんとキッスしたぁ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶものだから、道行く人が何事かとこちらを見てくる。
そうなるとちょっと冷静になってきた私も何だか恥ずかしくなってきて……
いやぁぁぁぁ、やっちゃったぁぁぁ!なんか雰囲気でキスしちゃったよぉ!
□□□
【ユズカ視点】
災禍獣を退治した後、アタシはオージェくんと再び合流してお祭りを楽しんだ。
10mの鉄棒登りとか、巨大ダルマ落としとかお祭りって楽しい遊びも多いんだよね。
色々と遊び、あたし達は並んで歩いていた。
「オージェ君、今日はありがとうね。楽しかったよ」
「ふふっ、元気が出たみたいで良かったよ。ユズカちゃんはこうじゃないとね」
やっぱり失恋したばっかのあたしを元気づける為に誘ってくれたんだ。
本当に優しい年上のお兄さんだなぁ。
「それじゃあ、あたしこっちだからね」
「あっ、そうだユズカちゃん」
帰ろうとしたあたしをオージェ君が呼び止めてきた。
「どうしたの?あっ、ウチ来てお兄様に会っていく?帰ってるかわかんないけど」
「いや、今日はいいよ。あのさ、俺『ザンバーイー』でお願い事してたでしょ?」
そう言えばやってたなぁ。
あたしはとりあえず『オージェ君を意識しすぎて変な事にならない様に』ってお願いしたんだよね。
流石あたし、ナイスアイデア!おかげで肩の力も抜けて昔みたいに楽しめたんだよね。
「あれかな?お兄様がオージェ君の事を好きになってくれる様にってお願い事したんでしょ」
「ふふっ、それもいいかなと思ったんだけど今日は違うんだ」
「えっ?じゃあ、まさか美味しいお肉料理が食べれますようにとか……」
あたしの言葉にオージェ君が噴き出す。
「君らしい発想だよねそれ」
「えー、そうかなぁ」
「俺のお願いはさ……」
笑っているあたしの唇が唐突にふさがれた。
一瞬何が起こったかわからなかった。
え?何か柔らかいのが唇にって………えええっ!!?
そっとオージェ君が離れた。ちょ、ちょっと待って。あたし、今、今……オージェ君とキッスしたぁぁぁ!!?
「俺男なのにこんなダサい事してごめんね。俺、この先もユズカちゃんと一緒に居たいなぁって、お願い事したんだ。それじゃあ、おやすみ」
そう言って彼は走り去っていった。
「うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、うぇ、うえ、うぇ、…………うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!?」
オージェ君がぁぁぁぁぁ、あ、あたしにぃぃぃ!?!?
ま、ままま、待って。これ夢じゃないよね?現実だよね?
嘘でしょ!? あたし、オージェ君に。幼馴染のお兄さんにキッスされたぁぁぁぁ!!!!
ナダ人の恋愛観的にはリンシアの方が〇、オージェ君の行動は△くらいです。
それでもまさかの行動にユズカが大パニックです。




