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第74装 タンゴーノセーク

【リンシア視点】


 タイガ君と並んで歩く。

 今まで幾度も会った事だけど私の現在における立ち位置を考えると意識してしまう。


 この子と将来、私は結婚する。

 そして子どもが生まれ、その子は私を『ママぴっぴ』と呼ぶ。

 何でそうなったんだろう……


 ともかく、私には未来から助けに来てくれた娘に関する記憶がまだ残っている。

 たとえその記憶が時間経過で消えても彼の『婚約者』という事実はそのまま。

 今、私はずっと考えるのを先送りにしていた事実と向き合っている。


 彼が誰かに恋をしているのはわかっていたけどまさか相手が自分だったとは……今までさんざん観察してきたけどこれは本当に予想外。

 やっぱりあれかな、お風呂で裸見られたあの日から?

 ありうる。だって、お父さんが結構すっけべだしお兄さんであるホクト君なんか『エロの権化』と呼ばれている。

 それを差し引いても思春期の男の子だし……


 ただ、私の為に命を懸けてくれたことは事実。

 ネメシスの体内から引っ張り出してくれたあの時の力強い手。

 うん。正直、カッコいいと思った。

 だからあの後、彼の婚約者という立場になった時も何というか……この子ならいいなぁって思ったんだよねぇ。


「あの、リンシアさん。どうしたんですか、ずっと黙りこくってしまって」


「え!?あー、いや、その……」


 普通に話せていたのに急に意識しちゃって何を話せばいいかわからない。

 あれだわ。『見つめ合うと素直におしゃべり』ってのが出来ないわけよ。

 詩人ね、私って違う!!!


「今更だけどさ、タイガ君って私が婚約者でも良かったの?」


「はいッ!俺、リンシアさんが運命の人って確信してました。だから、あなたが自慢できるような立派な男になってみせるんで待っててください!!!」


 ああっ、素直で性格が漢前ッッ!!!

 もう一瞬の迷いもなくこんなセリフを吐けるなんて……流石は5人も奥さんが居る人の息子だわ。


「えーと、その、期待してるね」


 もう少しいい方ってもんがあるでしょ、私の馬鹿!!!

 まあ、だけど……楽しみかも。

 まだ幼い部分はあるけどいずれ立派な男性に成長するのは担保されているわけだし。

 さり気なく異世界転生『勝ち組』よね?

 チート能力で無双とか追放とかされなくても何か将来有望な男の子ゲットしちゃったのよ。


 とりあえず年上として色々とリードしていこう。  

 そうね。例えば……『ほら、緊張しないで。力を抜いて私に身を委ねて……』とか……

 って痴女か私は!!?

 

 ああもうっ!元々子どもを作る為に作られた人格だった影響が今更悪い方向に出ているじゃない!!

 そういうのナシ!まずは純愛を育むの!!


 一緒にお茶をしたり、手を繋いだり、買い物をしたり……

 そんな健全かつピュアなお付き合いから始めるべきよ。


 というわけでまずは……手を握る、よね。

 手を……手を……手を握るかぁ。

 ああっ、どうしよう!意識すると無茶苦茶恥ずかしいんだけど!?

 『ヘイ!ラッシャイ!!』ってわけにはいかないのよ!!


「リンシアさん、どうかしましたか?」


「う、ううん!いや、そのー」


 て、手汗かいてるかも……嫌がられないかな?


「あの、リンシアさん……」


「えっ!?」


タイガ君が私の手を優しく包み込んでくれた。


「!?」


「ごめんなさい。俺、リンシアさんと手を繋いでみたいなって」


 うわっ、何これ。

 凄い安心感というか、凄く幸せな気分。

 ヤバい、私12歳の少年にキュンときちゃってるわ。


「わ、私も丁度思っていて……」


 うつむきながらぽそぽそ呟く。

 うわぁぁぁっ!私今、間違いなく顔真っ赤だ!

 年上の威厳とか全然無いし!!


「本当ですか!?嬉しいなぁ!」


 タイガ君は満面の笑顔でそう言ってくれる。 

 うう、この笑顔反則過ぎる………これ、まだデートは始まったばかりなのに心臓が保たないかも。


「それじゃあ、行きましょうか。清めのお祭り『タンゴーノセーク』へ!!」

 5月5日は『端午の節句』と呼ばれおり、この日に男の子が元気に育ってくれるようにと願いを込めて鯉のぼりを飾ったり、柏餅を食べたりするのがあちらでの文化。

 一方こちらの異世界ではというと……


「ハイッ!セイッ!ハッ!!」


 上半身裸の男達が櫓の上で太鼓に似た楽器を叩きながら声を上げている。

「えーと、タイガ君。これは?」


「清めのお祭り『タンゴーノセーク』ですよ。この日に一年の汚れを音で祓うんです」


「なるほど……」


 私の知っている『端午の節句』と違うけど何かそれっぽい!


「さぁ!もっと声を出せー!『爆炎豪打の型』ッッ!!」


「鍛えてるよぉーッッ!!」


「うおおぉーーッッ!!!」


 何だか暑苦しいな……

 まあ、でも『ひなまつり』に比べたら普通かな。

 あれはもう『猛者の祭典』だったからなぁ。


 屋台とかもあるしデートにはもってこいの行事だね。


「うん?あっちの方が何だか賑わってるね。何だろう、見に行ってみようか」


 人だかりの出来ている場所へ向かうと、円形リングの上で2人の少女がっしりと組んでいた。

 これってあれだよね。『相撲』ってやつだ。


「ああ、『スモウバトル』ですね。南方が発祥らしく『イアツカーン』っていう人が開祖らしいです」


「へ、へぇ……」


 まあ、円形リングの四方に柱が立っていたりと違いはあるし女性同士が戦ってるし。

 というか今更ながら気づいたけど戦ってる子って片方はもしかして。


「タイガ君。私にはカノンちゃんが見えるんだけど気のせいかな?」


「そうですけど?」


 やっぱり次女のカノンちゃんだったよ!!

 彼女は165cmと女性としては高めの身長。 

 だけど彼女の相手はそれをさらに上回る2m近くはある巨体の少女。


『前年度チャンピオン、タイシカーン選手が猛攻を仕掛けます!!』


 タイシカーンとかいう名前の少女がものすごい速さでカノンちゃんに突っかかる。

 だが彼女は至って冷静に相手の攻撃を捌き、その力を利用して投げ飛ばし柱に叩きつけた。


「げぼほぉ……」


「勝者!カノン選手!」


 司会役の人の声が響き渡り会場から歓声が上がる。

 そしてカノンちゃんが片手を高く掲げ勝利のポーズをとる。


 うん。やっぱりこの世界の、というかこの国のお祭りって……『猛者の祭典』だったぁぁぁ!!!

頭のネジが何本か外れてる気がする……

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