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第7装 スタートライン

「やれやれ、危うく我が家が凄惨な事件現場になる所だったよ……」


 フリーダさんが呆れていた。


「本当にすいません……」


 だってガチで幽霊に会ったって再認識したら何か猛烈に怖くなったから……それにしてもまさか階段で足を踏み外してしまうなんて……


 リビングでは3人の女性が待っていた。

 ひとりは以前、冒険者ギルドで私に話しかけてきた女性だった。この家の人だったのか……


「まあ、リンシアは小さい頃から少しそそっかしいところがありましたからね。階段から落ちるくらい日常の光景でした」


 この家4人目の母親、クリスさんが苦笑していた。

 マジかよ。リンシアってヤバくない?

 前世の私もそそっかしい方だったので化学反応起こしているじゃない。

 いらん化学反応だなぁ……

 

 クリスさんはリンシアが育った孤児院の出身で先輩。

 その孤児院の経営にもこの一族が関わっているらしい。

 そう考えるとこの人、ちょっとしたシンデレラストーリー歩んでない?

 ちょっとリンシアの残留意思が邪魔しないなら聞いてみたいかも。

 他人の恋バナって楽しいのよね。


「それはそうと、娘を助けていただいた様で本当にありがとうございました」


 丁寧に頭を下げる女性は、セシルさん。

 やたらと『3番目です』と主張するのが気になるがユズカちゃんのお母さんらしい。

 確かにちょっと雰囲気が似てる


「あとひとり居るんだが、今は用事で旦那と遠方へ行ってるんだ」


 それにしても凄いなぁ。

 見た感じ奥さんが4人居るのにお互い結構仲良さそう。

 私なんか前世であんな事になったのに……


「本当は更にもうひとり居たんだけどな……」


 何だか寂しそうに呟く。

 元々は5人だったのか。色々事情があるみたい。

 旦那さん凄いなぁ。


「さて、あんたが出会った幽霊ってのはどうやらわたし達の義理の母親みたいだな……つまり、きっと意味がある。『流れ』に『引き寄せられた』って事だ」


「えーと……」


「ユズカから聞きました。あの子の聖女の力があなたのおかげで覚醒したと」


「そうだ。ユズカちゃん、自分を『聖女』って……」


 するとセシルさんが腰に手を当てて誇らしげに語った。


「実は何を隠そう、あたしは若い頃とある国で『3番目』に強い聖女でした。娘にもその力は受け継がれてたのですが肝心の『固有能力』は今まで覚醒しなかったんですよねぇ」


 また『3番目』だ。こだわりがあるみたい。

 誰もツッコまない所を見ると普段からこれなのだろう。


「ですがあなたとの出会いであの子は遂に『聖女』として覚醒しました。母親としては喜びの一方で不安もあります。出来れば『災禍獣』との戦いには参戦して欲しくなかった」


 あの怪物、災禍獣は聖女が秘密裏に戦って来た特殊モンスターらしい。

 人の持つ負の感情などを好み、暗躍してそれを増幅させ破滅させ喰らう。

 また、時には人に憑りつき怪物へと変異させてしまう。

 うん、ロクでもないジャンルのモンスターだなぁ。

 

「すいません。私との出会いで、しちゃったんですよね。覚醒……」


「謝る事じゃないさ。わたしは以前言ったよな。『流れ』があるって。ユズカにとってはあんたと出会う『流れ』が決まっていたんだろう。但しちょっと問題があってな」


「問題……ですか?」

 

「実は、あなたがいない時、娘は能力を『行使出来ない』らしいんです」


 え?どういうこと!?


「あたしの力、さっきの『聖装』なんだけどリンシアさんが気絶してる間、お母様たちに見せようとしたら出来なくなってたの」


 リビングの奥からユズカちゃんが出てくる。


「ユズカちゃん……えっと、それって……」


「あんた、本型の魔道具を持っているだろ?それにユズカが『聖装』する為の道具が入ってるみたいなんだ」


「え?それならこれ、差しあげますよ?」

 

 ヤバイ。なんか厄介な事に巻き込まれようとしている臭がプンプンする。


「だけどそれはリンシアさんしか開けないみたい。鍵こそ外れたけどあたし達の誰も起動できなかった」


 うん。これってあれだよね。

 絶対に巻き込まれるパターンじゃない。

 ある意味定番の展開だわ。


「まあ、この後は何となく察してるよな?」


 はい。察してます。


「あれですよね。ユズカちゃんが災禍獣とやらと戦うにあたって私に協力しろってことですよね?いいですよ」


「理解が早いですね。もっと色々とごねると思ってたけど……」


 セシルさんが驚く。


「いや、こういうパターンってお約束ですから……」


 前世で観てたアニメとかではお決まりだ。

 断ったところで結局は何だかんだで協力する羽目になる。


「正直怖いですよ。ユズカちゃんみたいに他人の為に必死になれるかどうかはわからないです」


「でも、リンシアさんは必死にあたしを助けてくれた……」


「だって、受けた恩を忘れて知り合いを見殺しになんか、出来ないから」


 あの時、身体が勝手に動いた。

 きっとそれが『流れ』だったのだろう。


「それじゃあ、とりあえずよろしく、かな。ユズカちゃん」


「リンシアさん……ありがとうございます!!」


 まあ、乗り掛かった舟だし。

 それに、何だかこの家の人達もユズカちゃんに負けじと色々ぶっ飛んでそうだ。

 何だろう。ちょっとわくわくしている自分が居るんだよなぁ 


【フリーダ視点】


 ユズカとタイガにリンシアを送らせた後、わたし達は気になっていた事について話し合う事になった。


「やっぱり少しおかしいですね。リンシアって昔はあんな娘じゃありませんでした。もっと人を寄せ付けない、自分から分厚い壁を張っている様な……そんな娘でした」


 クリスの言う事はわかる。

 孤児院の支援委

 彼女は何だか妙に物分かりが良い感じだった。

 

「人は何かしら隠し事をしているものですが。あの娘、何か大きい事隠していますね。まあ、あたしなんか常にオープンですけどね」


「セシル、あんたはもう少し隠そうな?そうだな、あの子、何かあるよな。だけどわたしはさ、あの娘に何か『運命』を感じるんだよな」


 棚の上に置かれた亡き義母の写真に目をやる。

 あなたが『引き寄せた』のなら、きっと何か大きな意味があるに違いない。

 それはきっとユズカの為だけでない。そんな気がした。


□□

【ユズカ視点】

 

 弟とリンシアさんを宿に送りながら私は昂ぶっていた。


 凄い!凄い!

 リンシアさんが協力してくれたお陰で遂に『聖女の力』を使える!

 しかもおばあ様に由来する能力。

 こんな素敵なことがあっていいだろうか。


 それにしてもリンシアさん、カッコ良かったな。

 幼い頃に見た『あの人の背中』。あれが頭に浮かんだ!

 あたしにとって憧れであり目標。そして居なくなってしまった大切な『母親』。


 あの人に誇れる様なヒーローに、私はなりたい。

 それが遂にリンシアさんのお陰で叶うんだ。

 これからが、楽しみ!


「姉さん姉さん!想定外の事態が起きちゃったよ!!」


 弟が何だか騒がしい。

 

「ん?どうしたの?」

 

「リンシアさんとはぐれた。あの人、また迷子になったよ!」


「何ィ!?」


 しまった油断した!

 あの人とんでもない方向音痴だー!!

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