第72装 兄の親友がものすごく優しい
【ユズカ視点】
「そもそもオージェ君。何で災禍魔人がこの家に居るの!?」
あたしの問いにオージェ君はしばらく考え、答える。
「まあ、色々と深い事情があるんだ。リンシアとタイガ君を救いに行ったあの戦いの後なんだけどね……」
「うん」
「何か気が合っちゃってね。行くアテもなく困ってるみたいだからウチに呼んだんだ。以上」
「今の話、何処に深い要素あったの!?」
思わずツッコんじゃったよ!?
流石、お兄様の親友……さっきのアルスター卿といい、そりゃウチと付き合い長いわけだわ。
「ウォホッホッ、共に命をかけて戦った仲間だ。互いに認め合うことで絆を育むことができるわけだな」
「なるほど」
それなら何となくわかるよ。
「わかるのか……」
槍の人があきれた様子であたし達を見ている。
「っていうか待って!そもそもその姿、どういうことなの!?」
災禍魔人っていうのは人に害をなす怪物。
なのにこの姿は……
「それに、『こちらの世界』って言ったよね?それってつまり、あなた達は異世界人って事!?」
「やれやれ、一度に色々と知りたがるお嬢さんだな。ここはワタシが教えてやろう」
槍の人が指を鳴らしながらあたしを見る。
「我々、災禍魔人が住まうのは君達が住む世界の外界。お前達が『業魔エリア』と呼んでいる場所だ」
うーん………
「何それ?」
そもそもあたしは世界の事なんかよく知らない。
行ったことある国だって隣のイリス王国くらい。
後は歴史の授業とかで聞いた幾つかの国くらいしか知らないんだよね。
「俺達が暮らしている世界の外側にある未踏の地ってやつだよ。一説によるとかつてある国が栄えてたらしいってことで今まで幾つかの国が調査隊を派遣したけど特殊過ぎる環境に適応できず全滅、或いは撤退することになった。だから未踏の地なんだよ」
へぇ、オージェ君物知りだなぁ。
「あれ?という事はその『業魔エリア』に国家を持つのがあなた達?」
「少し違う。ワタシ達が住むのは確かにあのエリアだけど国という巨大な組織は存在しない。それぞれ己の属性に応じたコミュニティに属して好きに生きている。そこでの姿が君達と対峙した時の魔人態というわけだ」
「あの、よくわかんないんだけどあなた達って誰かに取り憑いて顕現するよね?あれって何で?」
それこそ特殊な環境に適応できるくらいマッチョなら歩くなりしてこっちに来たらいいはず。
するとラーヤさんが胸の前で腕を組み言った。
「我らの身体は、エリアの外側では保つことが出来ぬのだ。エリア外では魂のような存在になってしまう。そこで誰かにとりつきその精神エネルギーを分けてもらうことで顕現するためのフィールドを張るのだ」
「災禍フィールド」
「うむ。イカにもエイにも。お前達が『災禍フィールド』と呼んでいる力場は我らが本来の姿で活動するためのモノなのだ」
何だろう、『イカにもエイにも』って……
「でも、あなた達は今……」
災禍フィールドは発生していない。
「ワタシ達のおかれている状況は実にイレギュラーなのだ」
「まず、我はお前と戦い敗れた後、自分の身体が消えていかない事に気づいた。災禍フィールドが張られていないにも関わらず、だ。そして先の戦いで我はお前に協力した。その際、フーティエと戦ったのだがその後、我に起こった現象が奴にも起きたのだ。更に、消耗を押さえるかのように我らはお前達と同じ様な姿を取る事が出来るようになった」
「そう、ワタシらしく実に美しいこの姿にね」
フーティエさんは鏡を見ながら自分の姿にうっとりしていた。
待って。これってもしかしてヤバくない!?
だって、人間態を取る事が出来る連中が増えるってことだよね?
それって……災禍魔人の侵略とか……
「安心しろ。我らはお前達現生の人間たちと事を構えるつもりは無い」
「ワタシ達には『その土地の水を口に含んだなら、その土地で共に肉を焼き、踊り、歌え』という言葉がある。世話になったオージェは今や大事な親友だ」
「そう、我らの言葉で『ズットーモ』という。そして拳を交えたお前もまた、『ズットーモ』だ。レム・ユズカ」
ラーヤさんが拳を突き出してきた。
あたしは彼の拳に自分の拳を合わせる。
「ど、どうも」
それにしてもこの筋肉、凄い……
服で隠れているけどフーティエさんもきっとマッチョなんだろうなぁ。
「さあ、それじゃあご飯にしようか」
□
「あのさぁ、オージェ君『ちょっと摘まめるもの』って言ってたよね?」
あたしの目の前にあるのはどう見ても『ちょっと摘まめるもの』の範疇を越えている。
肉団子がたっぷり入った『オストロー』というパスタ料理。使われているパスタは主に細くて短いもので肉団子に絡めて食べる。うん、これは『食事』だよ。
まあ、その……美味しそうだけど
「だってユズカちゃんこれくらい平気で食べるでしょ?」
「うっ……」
ちなみにあたし達の脇では別の大皿に盛られたパスタをラーヤさんとフーティエさんが取り合いながら食べていた。
「何かさっきのユズカちゃん、身体だけじゃなくて心までずぶ濡れだったからさ。美味しいもの食べて元気出してもらいたいなって思って」
「あっ……えーと、ありがとう」
オージェ君があたしの頭にポンッと手を置く。
そうだ。あたし、勝手に色々と自分で盛り上がって、そもそも女の子として見られてすらいなかったのに……
それで隊長さんに失恋しちゃって。何かどうしたらいいかわかんなくなって。
「うぇっ!? うえぇぇん……」
急に涙があふれてきて止まらなくなった。
「あー、ほら、泣かない、泣かない。大丈夫、大丈夫だから」
そう言って、オージェ君は頭を撫でながらあたしを抱きしめて、背中をトントンと優しく叩いてくれる。
男の子なのに、いい匂いがするし、すごく安心する。
まるでお日様に包まれてるみたい。
「うっ、ひぐっ、うわぁぁぁんっ!!」
あたしはそのまましばらく、泣き止むまでずっと、オージェ君に抱きしめられていたのだった。
しばらく泣きはらした後、はたと気づく。
「ご、ごめんなさい!!」
つい彼の優しさに甘えて抱きしめられていた。
だけどよくよく考えればそもそも彼には婚約者が居た筈だ。
「あの、あたしなんか甘えちゃって。その、こんな所婚約者さんに見られたら」
別に不貞を働いているわけではないが何だか気が咎める。
お兄様だってヒイナちゃんという一方的な婚約者がいる状態で妹のミズキちゃんにアプローチをしているけどあれとは何か状況も違うし。
「ああ、ドリエルの事?彼女との婚約なら色々あって解消になったから問題ないよ」
「へ?あっ……」
彼は何だか妙に寂しそうな顔をする。
「ほら、俺ってこういう格好してるじゃん?やっぱりそういうのもあって、ね」
オージェ君は自身が纏うひらひらフリルのついた服を指し苦笑する。
「そう……なんだ。何かごめんなさい」
「気にしないでいいって。元々親が決めた婚約だし。それに、これで遠慮なくアルにアプローチできるんだよ?」
ウインクする彼には申し訳ないけどオージェ君はお兄様にとってあくまで『親友』だからね?
彼の好意に気づいているかどうかは微妙なんだよね。あの人、恋愛に関してはド天然だからなぁ……
まさかのここまでタイガとリンシアの絡みがほぼなく進行しちゃってます。
ちなみにオージェ君はユズカのひとつ上です。




