第70装 恋の痛みと雨(※)
【リンシア視点】
ユズカちゃんには将来、旦那が二人。
非常に驚く事だが何故あそこ迄落ち込んだのだろう?
何せユズカちゃんと言えば落ち込んでもあっという間に切り替えができる娘だ。
勿論、心のどこかで引っかかりとかはあるかもし得ないがそれでもあの落ち込みぶりは……
そもそも彼女自身が一夫多妻家庭で育っているのだ。
むしろそういうことへの理解はある方なのでは。
「一妻多夫?確かにあるけど珍しいしあんまり良く思われないな」
料理をしながらフリーダさんに聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「何でですか?」
「元々さ、昔の戦争で男が無茶苦茶減った影響で一夫多妻が増えたんだ。女同士の絆が強いナダ人の気質も関係あるけどな」
確かに結託すると凄いもんね……
「一夫多妻はあれだよ、り、り……」
「理にかなってる、ですか?」
「そう、それだ。妊娠して動きにくい妻がいる間は別の妻がサポートに回っているからな。ホクトの時はナギとセシルが手伝ってくれていたから安心出来たんだよな。途中からクリスも手伝いに来てくれてたし」
万全のサポート!!!
その辺は地球、特に日本と大きく違うよね。
まあ、そもそもあっちは一夫一妻なので根底も違うけど。
「それに対して一人の女に複数の男ってさ。何というかあんま上手くいかないんだよ。ナダ男って結構独占欲強いとこあるし。だからどちらかというと別々の家を妻が回りながら過ごすってイメージだな。同居させると大抵男同士で喧嘩になる。それとあれなんだよ。女が一度に妊娠できるのって男一人分だろ?そこがトラブルになる」
あっ、そうか。
そうなると子どもが出来たら『誰の子』ってなるよね。
「女みたいに自分と血が繋がっていない子はあまり歓迎しないから歪ができやすいんだ。それと、世間的に見ると『男の家を渡り歩くふしだら女』ってイメージもある」
ユズカちゃんが気にしてたのはそこだよね。
「悪いイメージと上手くいきにくい家庭環境。一妻多夫のイメージは最悪なんだよ」
「そう……なんですね」
「後、貞操観念が強い女にとっては鬼門だな」
あっ、もしかしてユズカちゃんって……結構貞操観念強かったりするのかな?
母親であるセシルさんは元聖女らしいし……
「ところで……まさか、そういう予定があるとか?」
フリーダさんが不安げに私を見る。
「え?あ?」
そりゃそうか。将来義理の娘になる予定の子がそんな事聞いてきたら不安に思うよね。
「ち、違いますよ!あくまで知識として気になっただけで。それに私はタイガ君一筋って。そうじゃなくて、でもそうであって」
何言ってるの、私ィィィィ!!?
【ユズカ視点】
学校帰り、あたしは相変わらず悶々としていた。
将来のあたしに旦那が二人……しかも子どもがそれぞれに居てそれなりに楽しく暮らしいる……
楽しそうだけど何というか『想像つかない』。
例えばこれがお母様達みたいに一人の男性に対して複数の女性という関係なら理解できる。
だけどその逆は………えっ、上手くいくのかなそれ?
フーカの台詞から上手くいってるのは想像できるけど、だけどなぁ。
複数の男性、複数の………何かイケナイことをしている気がする。
例えばそう、レトリーバー隊長と……誰かもうひとりが左右から私に抱き着いてきて……
「何想像してるのぉぉぉぉぉぉ!!!」
近くの壁に頭を打ち付ける。
これ、知らせる必要あったの!?
無茶苦茶意識しちゃってるじゃない!!
そもそもきちんと恋だってしたことないのにこんな……
切り替えないと!
上手くいくビジョンを頭に持つの!!
そう、ひとりはやっぱりレトリーバー隊長だよね?
お父様は『警備隊は止めとけ』って言うけどあたしにとって身近な男性って警備隊関係の人だし。
出会った時は新人だっけ?もう出会って大分経つけど優しくてっカッコいいお兄さんだった。
バレッタママの事を非難もせず理解してくれてたし、よくトレーニングに付き合ってくれたりしていた。
歳は大分離れているけど別にそれくらいはね。
料理だって覚えた。みんなからは『雑な味付け』と言われたけどたまたまウチに来た彼にごちそうして見たら『美味しいよ。いい奥さんになれる』って言ってくれてすごくうれしかった。
結婚したらレトリーバー・レム・ユズカかなぁとか勝手に想像したりして……
でももうひとりって本当に誰だろう。
学校のコとかかな?でも仲良くしている男子とか居ないわけだし……
それでつまりそのもうひとりの誰かとレトリーバー隊長が……
「ってだからぁぁぁぁl!!!」
もう一度壁に頭を打ち付け妄想を止める。
ちょっと壁が欠けてしまったので慌てて闘気で練り上げ作った接着剤で欠けた部分をくっつけておく。
そんな中、視界の先に見覚えのある人の姿。
特徴的な青い鎧、逞しい筋肉、爽やかな笑顔。
未来の旦那様候補、レトリーバー隊長だ!!
「レトリー……」
声をかけようとした瞬間、気づいてしまった。
女の人が……一緒だった。
「あっ………」
あたしよりもずっと大人で綺麗な人。腕を絡めて楽しそう。
いや、あれはきっと妹さんとかだよね?
でも……
「指輪………」
デザインが同じ指輪、二人ともつけてる。
そして、仲睦まじい様子で歩いて行った。
見間違い、じゃないよね。
あれは、指輪。そういう、事だよね……
「そうだよね、あんな素敵な人だもの、恋人くらいいるよね」
そっか、そっかぁ……ははっ、そうだよね。
「あたしの初恋、終わっちゃった」
あたし、バカみたいだな……勝手に色々妄想して、悶えて。
その場にしゃがみこんで、しばらく動けなかった。
雨が降り始め、地面が濡れてもずっとそこにいた。
濡れるのも気にせず、ただ呆然としていた。
不意にあたしの身体を濡らす雨が遮られた。
「こんなトコでどうしたの、ユズカちゃん。風邪ひいちゃうよ?」
振り向くと小さい頃から知ってる綺麗な青髪の人が傘を差しだしあたしを雨から守ってくれていた。
「オージェ……君」




