第69装 長男の恋と長女の悩み
【リンシア視点】
「よぉ、リンシア。ちょっと話そうぜ」
夕食後、長男君に声をかけられた。
「長男君。いいよ」
「いや、お前さ俺に対しての警戒強くね?タイガの事は名前で呼んでるのに……あれだぞ、何なら『お兄様』とかでもいいんだぜ?」
あっ、つい癖で言っちゃった。
うーん、でも『お兄様』って感じじゃねぇ……
彼と私、というか元のリンシアは同い年だっけ?
「ねぇ。リンシアは誕生日いつだったの?」
「あいつか?紅馬の節、15日だな」
つまりはえーと……7月かぁ。
「……ってことは俺の方が年下だな」
「まあ、そうなるね」
そうじゃなくても元ミドサーの精神年齢だからなぁ。
やっぱ年下に見えるんだよね。
「しかしなぁ、あのリンシアが今や弟の婚約者とはねぇ」
彼からすると複雑だよね。
もし歯車のかみ合わせが違えば彼は本物のリンシアと結ばれていたかもしれないわけだし。
「ちょうな……じゃなくてアル君はどうなの?ヒイナちゃんと上手くいってる?」
「あー、どうなるのかねぇ。実はさ、俺が好きなのは妹の方なんだよな」
えーと、それってつまりヒイナちゃんの妹が好きって事?
三角関係じゃない!!!
「こいつなんだけどよ」
アル君は照れながら一枚の『写真』を見せてきた。
「前にデートした時に恥ずかしがるのを無理言って写真家呼んで撮って貰ったんだよ」
この世界には写真技術はあるものの流石に地球みたくお手軽サイズの家庭用写真機はまだ出来ていない。
専門の技術を持った職人に撮影を依頼するのが普通だ。
それにしてもわざわざそんな事までするとは中々いい関係を……
「どうだ、ちょっと表情は硬いけど美人だろ?」
えーと……うん。
写真の女の子は硬い表情というか眉をひそめ不快感をあらわにしている。
これってさ……多分アル君は嫌われているよ?
そもそもお姉さんの想い人から迫られての気まずさもあるだろうし……
うーん、私から見るとこれって脈無しなんだけどなぁ。
とりあえず彼を傷つけない様慎重に反応しよう。
そこへ呆れ顔でマリィちゃんがやって来る。
「お兄ちゃんさ、いい加減諦めなって。ミズキちゃんはお兄ちゃん嫌いだよ」
「なっ!?」
いやぁぁぁぁぁぁっ!慎重が高速で空中分解したぁぁぁ!!?
マリィちゃん、確かにそんな気はするけどそんなストレートに。
「何かお兄ちゃんの気障な感じが嫌いって言ってた」
「ダ、ダメだよマリィちゃん。そういうことは言っちゃ……」
「で、でもこの前デートも」
「お兄ちゃんがしつこかったから仕方なくだよ?ホントに女心わかんない兄貴だなぁ」
口をパクパクさせながらアル君が青ざめ膝から崩れ落ちる。
うーん、何というか彼ってさ恋愛に関しては残念過ぎるよね。
いや、赤ちゃんの頃からヒイナちゃんから一途な愛を向けられていてある意味では恋愛勝ち組なのかもしれないけどさ。
「まあ、ほら。アル君はヒイナちゃんが居るわけだし」
「いや、でもあいつ従姉だぞ?」
あれ?
「それ言ったらミズキちゃんだっけ?その娘だって従妹だよね?」
「あー、いやあいつは違うんだよ」
「どういうこと?」
アル君とマリィちゃんは顔を見合わせ頷く。
「ミズキはな、ミアガラッハ家の養子なんだよ。ヒイナとは血が繋がっていないんだ。俺達も最近知ったんだがな」
「それってレムの血族じゃないって事?」
「そうなる。あいつには一族の血は流れていない」
うん。何というか……無茶苦茶複雑だなぁ!!
「というかマリィ!マジでミズキ俺の事嫌いなの!?好きの裏返しとかじゃないの!!?」
「うん。嫌いって言ってた」
「そんなぁ……」
がくりと項垂れたアル君は風呂上がりのタイガ君の肩に手を置き呟く。
「お前が羨ましい」
「ええっ!?兄さんどうしたんだよ!!?」
「うるせぇ。全てを手に入れた勝ち組めぇ!おめでとうだよチクショウ!!」
物凄くカッコ悪い捨て台詞と共に二階へと駆け上がっていった。
でもきちんと祝福しているし弟思いなんだよねぇ。
「えーと、何あれ?」
「……色々あるの。あんまり触れないであげてね」
強く生きてね、アル君。
□
「あのさ、リンシアさん。ちょっと話があるんだけどあたしの部屋に来てくれない?」
ユズカちゃんから声をかけられ何事かと彼女の部屋に行く。
彼女は物凄く戸惑った表情をしている。
「あのさ、ティアモちゃんとフーカ、覚えてるよね?」
「あ、うん……」
ティアモちゃんは未来での私とタイガ君の娘。
そしてフーカちゃんはユズカちゃんと誰かの娘だ。
2人が未来へ戻った後、他の人達の記憶からは消えたけど私達の記憶にはなぜか残っている。
ただ、それも徐々に薄れつつあるので時間経過で他の人達と同じく忘れるのだろう。
「あのさ、フーカがあたしの将来の旦那についてこっそり耳打ちしてたの覚えてる?」
「うん」
思えばあの時、ユズカちゃんは真っ赤になっていた。
そして『何てふしだらな』とか呟いてたっけ?
「えーと、旦那さんが誰かは内緒のままだったんだよね?」
「うん」
という事は何かしらの要素について教えられて真っ赤になったと考えるべきだろう。
「もしかして凄く年上の人だとか?」
ユズカちゃんは首を横に振る。
まあ、それで『ふしだら』にならないか。
「まさか。家庭ある人と!?」
「そんなっ、違うよ。そんなの犯罪だよ!!」
そう。この国において不貞行為はマジで軽蔑される。
聞いた話だとヒイナちゃんのミアガラッハ家が一度没落した理由も当時の当主による不貞行為だったらしい。
「じゃあ、何でそんな顔が真っ赤になるの?」
「……二人」
「へ?」
「旦那になる人ね、二人居るんだって」
「えーと、それはもしかして再婚するとか」
ユズカちゃんはまたも首を横に振る。
「違うの。旦那が二人居る状態。それでそれぞれとの間に子供もいるの」
「えーと……」
あー、そうか。
一妻多夫ってやつね。なるほど…………って、えぇぇぇぇぇぇっ!?
「うわぁぁぁぁん、あたしそんなふしだらな女になっちゃうんだぁぁぁぁ」
ユズカちゃんはベットに突っ伏し泣き出すのであった。




