第65装 これからの人生
【リンシア視点】
戦闘が終わった深層世界内。
ふと、歩道に親子が立ってこちらを見ていることに気づく。
「あれは……」
私はフューチャーリングリンシアオーから降りると親子に近づく。
それは凛香と冬馬だった。
「リン……」
凛香が本来の私の名を呼ぶ。
私は凛香が作り上げた人格のひとつ。
絶望して壊れかけた彼女がどうにか新しい子を授かる役目を与えられていた。
性格のベースは凛香の幼い頃の記憶が影響しているもあまりの変わりように夫は気味悪がって病院へと連れて行こうとした。
後、私自身がそういう役目を持ちながらも若干奥手だったため、使命を果たせなかった。
「私は、戻った方が良いのかな?」
本来、リンシアに転生したのは凛香だ。
だから、この身体は彼女に返し私は統合されるべきなんだろう。
「いいえ。私があなたに統合されるわ」
凛香が微笑む。
「でも……」
「この世界で絆を結んできたリンシアはあなたよ。それに、そのおかげでこうやってまた記憶の中とは言え冬馬に会えた。私はもう十分。あなたには随分と辛い思いをさせて来たわ。『欠陥品』とかののしってごめんなさい」
凛香と冬馬の姿が少しずつ消えていく。
「でもっ、統合されたらもう」
「意外と何処かで転生したりできるかもしれないじゃない。それに、あんな熱いもの見せられちゃねぇ?」
何だか悪戯っぽい笑みを浮かべている。
え?熱いもの?
「あっ!」
ここに来てようやく先ほどの出来事を思い出す。
タイガ君が私に思いっきり告白した上にがっちりと腕を掴んで……
「っ!!!!!!!?」
やばぁぁぁぁ!!
何か顔が熱い。え?何これ?どういうこと?
「ここからはあなたの人生。だけどちょっと注意ね。あなたは本来子どもを授かるという目的で誕生した人格だからそういう特質を持ってるのよ……だから、くれぐれも12歳相手に暴走しないでね?」
「ええっ!!?ちょっ、何それ!?暴走!!?」
「ふふっ、それじゃあ人生を楽しんでね。さようなら」
言い終えると共に凛香は消えていった。
待って!暴走って何!?凄く嫌な予感がするんだけど!!?
□
深層世界から脱出した私はこれまでと違った感覚を覚えていた。
何だろう。色んなものが私の中でがっちりハマった。そんな感覚。
私が主人格になったってことでいいのかな。
「これで絶望的な未来は完全回避ですね」
未来から来た娘、ティアモちゃんが微笑んだ。
えーと彼女はつまり私とタイガ君の娘でという事は………
改めて、やっちゃったなぁ。
バディの弟に手を出したんだよね、私。
いや、もしかしてタイガ君が手を出して……いや、私だろうなぁ。
「私達は未来に帰ります。この事に関する記憶は皆さんの中から消えていきますが安心してください。未来で必ずママぴっぴ達と会えますから」
「あ、あのその『ママぴっぴ』って何とかならないかな?私が許しちゃった事だと思うんだけど何というか……」
「ちなみに祖母の事は『ばばぴっぴ』です」
全力で教育しないとッッ!!
あっ、でももうすぐ彼女たちの記憶は無くなっちゃうんだよね。
ちょっと体のどこかに書いておいた方が良いかな……
ちなみにタイガ君はというとティアモちゃんの存在=私と結ばれる未来で胸が一杯の様で『おぉ……』と感動に打ち震えている。
一方のユズカちゃんはフーカちゃんと向き合っていた。
彼女が気になるのってやはりあれだよね
「あ、あのさ。その……あなたのお父さんってえーと……」
そう。フーカちゃんの父親は誰か。
彼女はユズカちゃんと違い青い目をしている。
これって多分お父さんがそうなんだろうね。
「やっぱダメ!聞くの怖い!!でも記憶が消えるなら……でもやっぱダメ!無意識化で何かを記憶していて影響しちゃうかもしれないもん!!!」
この子ってさり気なくそういうことに気づくんだよなぁ。
「ふふっ、そうですね。それでは父上については内緒にしておきます。ただ、これはお伝えしておきましょう」
フーカちゃんがそっと何かを耳打ちするとユズカちゃんの目が大きく見開き一瞬にして顔が真っ赤になる。
「え?嘘でしょ?あたしが!!?」
「はい。とても楽しい家庭ですよ。きょうだいも大勢います」
「ひえぇぇぇぇぇぇっ!!!?」
何を言われたんだろうか……ユズカちゃんは口をパクパクさせながら固まってしまった。
そして何やらぶつぶつと手で茹った顔を隠しながら呟く。
「そんな、あたしそんなふしだらな………」
いや、本当に何を言ったの!?
「それでは皆さん、未来でお会い致しましょう」
「じゃあねー、ママぴっぴ。パパぴっぴに手を出すタイミング気を付けてねぇ」
やっぱり私から手を出したんかぁぁぁい!!
いや、大丈夫。彼女たちは消えていっている。
未来に帰ってしまえばこの記憶はさっぱりと消えちゃう。あと少しの辛抱!!
手を振りながら娘達が消えるとマリィちゃんが呟く。
「ねぇ、何か私達の他に誰かいた気がするんだけど」
「うーん。そうだなぁ。俺もそんな気がするんだ。妙にウキウキしたんだが何だったんだろう」
タイガ君も首をひねっている。
「うむ、正義は勝つと証明されて高揚しているのだ」
いや、変態。お前は何か違う。
無事、娘達は未来へ戻っていき参戦した記憶も皆から消えていった。
ただ……お判りいただけただろうか?
「…………いや、これって嘘でしょ」
私は小さく呟いた。
そう、何故か私の記憶は消えていない。
私がタイガ君と結ばれた結果生まれたあの子に関する記憶がバッチリ残ってる。
何でぇぇぇぇ!!?
そこでふと気づく。
ユズカちゃんの表情もまだ茹ったまま。
「ユズカちゃん、まさか……」
「リンシアさぁん。あたし……」
ユズカちゃんは泣きそうな顔になっていた。
まさかユズカちゃんも記憶が!?
「あ、あのユズカちゃん?」
「あたしは、ふしだらな女だよぉ」
ユズカちゃんは崩れ落ち顔を手で覆ってしまった。
何があったぁぁぁぁぁぁ!!!?
□□
事件解決から数日。
形だけではあるが事情聴取の後、レム家に戻ってきた私だがフリーダさんが真剣な表情で腕組みをして待っていた。
「リンシア。今回の騒動についてだが、わたしもタイガの母親として見逃すことはできない」
ああ、やっぱりハッピーエンドで終わらないよね。
理由はどうあれ、私がタイガ君を連れ出して危険な目に合わせたんだもの。
フリーダさんは一枚の書類を出してきた。
「これは?」
「契約書だ。読んでサインしろ。その後、わたしの『糸』で契約とあんたを縛り付ける」
ああ、これはかなり怒ってらっしゃる。
聞いた事があるがフリーダさんは本気を出せば運命すら操る『糸』を出せるらしい。
つまりこれってあれだよね。『二度とこの家に入るな』とかいう契約だよね。
ティアモちゃんの記憶があるから最終的にはタイガ君と結ばれるんだろうけどやっぱひと波あるよね。
「母さん、待ってくれよ。あれは……」
「お前は黙ってろ」
ぴしゃりとフリーダさんが一蹴した。
「……わかりました」
渡された契約書に目を通す。
あれ?何かこれおかしいんだけど?
「読み上げろ」
「えーと……私、リンシアはこの度の騒動の責任をとります。つきましては婚約を行い、タイガ君が15歳で成人した後に婚姻を結び、生涯添い遂げ、一生かけて償います……って何ですかこれ?」
「書いてある通りだが?だってタイガはお前の事が好きみたいだからな。わたしもあんたが気に入ってるからな。是非とも娘にしたいと思ってる。そうなるとこう囲い込むのがいいと思ってな」
やばぁぁぁぁ!!
この人さらっととんでもないこと言ったよ!?
「あんたの事だ。責任を取って家から出て行くとか言いそうだし、流石に何もなく無罪放免ってわけにもいかんしなぁ。だからあんたの人生を貰うことにした」
「いや、だけど……」
「流石にそれだけだと横暴が過ぎるからきちんと付け加えておいたぞ。続きを読んでみろ」
「え?」
見ると続きにはこう記してあった。
「えーと……但し、成人までにタイガ君が浮気などして著しく信頼を損ねたりして見限られるようなことをしでかした場合は一方的に私の意志でこの契約を破棄できる」
「というわけだ」
ああ、なるほど。そう来たかぁ。
「この文面考えるの大変だったんだぞ?契約書の類はセシルやクリスが得意だから色々アドバイオス貰ってさ」
アドバイスの言い間違いだよね?
ツッコまないでおくけど……
「あの、でも何で……私、本当の年齢は」
34歳の娘なんて果たして……
クリスさんより年上なわけだし。
「でも、あなたの人格が誕生したのは最近なんでしょう?それならいっそリンシアの肉体年齢に合わせればいいのよ」
そのクリスさんがとんでも理論をぶち込んで来た。
「タイガはあんなやつだから年上の方が良いんだよ。ということで契約しろ」
すいません。割と強制してますよね?
でも……
「わかりました」
私はさららっとペンを走らせサインする。
フリーダさんは満足げにほほ笑むと手から『糸』を出し契約書に通す。
契約書が解けていき虹色の糸になると私の身体に潜り込んでいった。
「よしっ、契約完了。これであんたはわたし達の家族でタイガが成人したら結婚する事が確定した」
「あはは、よろしくお願いします……」
家族、かぁ。
今まで偽りだらけで接してきたけどこれからは……
レム・ルシカ・リンシア
年齢:17歳
職業:警備隊隊員
肩書:クリスの養子、三男タイガの婚約者
補足:タイガが15歳の時点で愛想をつかされていなければ正式に夫婦となる




