第59装 悲しみを断つ斬滅
【タイガ視点】
村はずれにある池のほとりで俺はぼーっと水面を眺めていた。
まさかリンシアさんがあんな風に俺をなじって来るなんて。
まあ、確かに事故とは言え脱衣所で裸見ちゃったしなぁ。
それに確かにあちこちついて行ってた。うん、認める。
「……何だろう。ちょっとゾクゾクした」
リンシアさんにののしられてゾクゾクしている自分が居た。
いや、別にそういう気があるわけじゃないんだけど、なんかこう……あーでも、父さんがなぁ。
昔、夜のキッチンで父さんがナギママとそういうプレイを……いや、父さんの名誉のために今の記憶は消しておこう。
あれだよ。きっとリンシアさんは疲れてイライラしてるんだ。
だからついあんな風に感情が爆発しちゃったんだよ、多分。
ほとぼりが冷めたらまたいつものリンシアさんに戻ってくれるって。
「あっ……」
ふと気づく。
今、自分は水場に居る。
アオイおじさんの助言に従えば水場はマズいな。
俺は村へと戻る事にした。
□
「何だよこれ?」
村跡に戻った俺は骸骨型のモンスターが徘徊していることに気づく。
それも何体も、だ。まさかモンスターの巣窟だった?
「タイガ君、ここに居たのね」
「リンシアさん?」
本を手にしたリンシアさんが歩いてくる。
だがいつもと違い酷く冷たく、無表情な瞳だ。
そんなクールな所も素敵……と言いたいところだが何かおかしい。
正直言って怖い。
「タイガ君。さっきはごめんなさい。『欠陥品』が失礼な事をしたわ」
「リンシアさん?『欠陥品』って何を……ッ!!?」
いきなり現れた黒い縄が俺を拘束する。
「リンシアさん!?」
「タイガ君。私はあなたが欲しいわ。私と子どもを作りましょう」
「ええっ!?」
大人の階段が天から降ってきたーー!?
突然の発言に驚きを隠せない。
しかし、リンシアさんの瞳は真剣そのものだ。
「リ、リンシアさん。気持ちは嬉しいけどマズいですって。俺まだ12歳だしそういう事するとリンシアさん罪になっちゃいます!!」
バッチリ法律調べたから間違いない。
少なくとも俺が成人するまではそういうのダメです!!
「ふふっ、君は面白いわ。でも正義だとか法律なんか知らないわ。私はね、あなたとの間に冬馬を産むの」
「え?」
話が見えない。
今日のリンシアさんはどうしちゃったんだよ!!?
混乱する中、リンシアさんは自分の正体について語り出した。
「嘘だろ……そんな……」
「安心して。きっちりお姉さんがリードしてあげるからね?君も嬉しいよね?ようやく愛しのリンシアに触れることができるんですもの。利害は一致してるわ」
「えぇぇぇぇぇっ!!?」
違う!俺が好きなのはリンシアさん!!
こんなわけのわからない危ない人じゃなぁぁぁぁい!!
【セシル視点】
オンデッタ村跡近くの森をあたしは進む。
「まさか母親の故郷に逃げ込むとは。悪知恵が働く子。流石はジェス君の息子です」
ナギが声が枯れるまで能力を駆使して捜索した結果、ようやく見つけることが出来た。
本当に、あの子は。フリーダをあんなに心配させて困った子です。
進行方向に剣を構えた女性が立ちはだかる。
「あなたは……リンシア?いえ、だけど……」
目の前に居る少女はウチに居候していた彼女によく似ている。
だが髪の色は水色で、悲し気な表情でこちらを見つめていた。
「別人?」
「私は『アイ』。凛香の『悲しみ』を引き受ける人格。本体から分離してあなたを阻むべく現れました」
「アイ……それがあなたの名前ですか」
アリス義姉さんが『別人格はひとつとは限らない』とは言っていたけどやはり他にも居たようね。
「セシルさん、お願いです。下がってください。私は、あの子を取り戻さないといけない。あのタイガという少年との間に凛香は子を設けます。あの可愛い坊やを、冬馬を」
「なっ!?」
さらっととんでもない事言ってくれて!!
いじめの末に命を奪われた息子。
彼を取り戻す?でも……
「止めなさい。そんな事をしても息子さんは戻りません。たとえタイガとの間に子を成してもトウマ君とは別人なんです」
「私は、小さい頃から友達が居なかった。いつも一人で寂しく泣いていた。だから、冬馬には友達をたくさん作りなさいと、多少の事は我慢する様に言いきかせてきた。もし、両親が居なくなってもきっと友達が冬馬を助け、支えてくれる……だけど!!」
アイはボロボロと涙をこぼしながら言葉を吐き出す。
「間違いだった!あの子が!助けを求めていたのに私は差し出してしまった。あの子を見捨ててしまった!あの時、もっと話を聞いていれば。無理に友達と仲良くしなくていいって言ってたら!!」
後悔だ。
守る事が出来た筈なのに、守れなかった。
かつてのあたしもそう。守るための聖女の力に目覚めておきながら両親を、村の皆を守れなかった。
聖女宮で生活をしていた私は、本当ならあの日村に戻る予定だった。
だけど前日に風邪をこじらせてしまい帰るのを遅らせてしまった。
もし、風邪なんかひかずに戻っていれば……いや、例え戻っていたとしても……
「教えてください。あと何回、私はあの子を夢の中で送り出せばいいんですか?」
「っ!?」
「夢に出るんですよ。助けを求めるあの子を送り出したあの日を!もう嫌なんです。だから、頼むから邪魔しないでください!!」
歯車がもしずれていたら……あたしもこうなっていたかもしれない。
幸いにも周囲に恵まれた……
「私を倒す気ですか?血も繋がっていない子の為に?息子を失った私を倒すというんですか?」
「血のつながりなど関係ない。タイガもまた、あたしにとっては大切な息子です。ならば助ける為、母親のひとりとして、あなたを倒してでも前に進みます!!」
「ああ、何てひどい人……」
呟いた直後、アイが地を蹴り距離を詰め剣を振るってきた。
避けられない速度。
「終わりです!」
避けられないなら……受け止める!!
あたしは腕でアイの剣を受け止めていた。鳴り響く金属の激突音。
「え!?」
「あら、ユズカから聞いてなかったかしら?それとも情報の共有がされていない?ダメですよ、報告・連絡・相談は仕事の基本!!」
受け止めたのと別の手でこぶしを握り、アイ目掛け解放する。
「刃in縮傷ッッ!!」
圧縮した斬撃をアイ目掛け放つ。
受け止めたアイは大きく後退する。
「何なの、この女!?ただの商人じゃない!?」
どうやら本当に情報共有されていない様子。
何ともお粗末な組織。
「あたしはイリス王国元第『3位』、己の身体を刃と変える『斬滅の聖女』。リーゼ商会『3代目』会長、オフィスは『3階』の『3号室』、レム家『3番目』の母親!レム・セシル!!!」
「っ!?何よ、『3』塗れじゃない!?」
「『3』こそ至高の数字。完全なる美しく気高い数字なんですよ」
「意味が解らないッッ!!」
アイは残像を発生させながら全方位から一斉に斬りかかって来る。
それならばとあたしは地面に手を叩きつけた。
「八方微刃!!」
八方へ散る斬撃が本物ごと、残像を叩き斬った
ダメージを受けた本物のアイがよろめく。そこへ回転しながら突撃。
「月禍美刃ッッ!!」
「ッッ!!?」
アイが大技をもろに食らい武器を破壊されながら地面を転がる。
「やっと終わった…………あぁ、冬馬。これでようやく………あなたの……」
その姿がゆっくりと白化して消えていく。
対峙したのがあたしで良かった。
「ごめんなさい、アイ……せめて安らかに」
アイは一応、災禍魔人の一種になります。




