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第57装 欠陥品

【リンシア視点】


 全部思い出した。本当の名前は『リン』。

 息子を失い世間からの心無い言葉で限界を迎えた和坂凛香が作り上げた『もうひとつの人格』。


 その目的は……『心が壊れた凛香の代わりに子どもを生み今度こそ守り抜く』こと。

 だけど上手くは行かなかった。

 夫は突然明るくなって次の子をねだる私を不審な目で見ていた。

 おそらく本来の凛香と違うところも多かったのだろう。

 私は気に入られる為にも凛香が苦手だった料理も頑張り献身的に彼を支えた。

 だけど頑張る程に彼は私を不振がり病院へ連れて行ったりした。


 私の彼に対する記憶は使命を果たせず混乱する私が作り上げたものだ。

 本当は、傷心の妻を支える献身的な夫だった。

 彼が見ているのは主人格である『凛香』であり、私では無かった。

 まあ、最終的に『凛香』の友人と不倫していたのは事実だしもみ合いの末死んだ流れは間違いない。


 結局私は『欠陥品』だった。

 生み出されたはいいが使命を果たせず爪弾きにされた『欠陥品』。

 

 転生後、マリィちゃんのいじめ問題に触れた時、私の中で眠っていた『凛香』が少しずつ目を覚ましていた。

 あの男の子の霊は、『凛香』の息子、『冬馬』君。

 いや、霊ではないと思う。あれは恐らく『凛香』が外へ出てきた影響で見ていた『幻覚』。

 封じ込めていた過去であり、『凛香』の怒り。


「リンシアさん、井戸が生きてたんで水を汲んできました」


 タイガ君が古びた水差しを持ってきてくれた。


「タイガ君……」


 ここは元々『オンデッタ村』と呼ばれていた場所。

 フリーダさんの故郷で土地をくりぬいた立体的な構造になっている村だ。

 人口の流出が止まらず数年前に人が居なくなったそうだ。

 フリーダさんはここを嫌っていたので逃げ込んでいるとは思うまいというのがタイガ君の考えだ。

 

 巻き込んでしまった。

 そして、非常にまずい状況だ。

 

 彼女は、『凛香』はタイガ君との間に子を為そうとしている。

 髪や目の色こそ異世界人だがタイガ君は何処か『冬馬』と似ている。

 本来は彼が成人するまで待つつもりだったらしいが、正体に気づかれつつあるのでなりふり構ってられない状況になったようだ。

 

「タイガ君、ごめん。お願い。お母さん達の所に戻って」


「そんな事言わないでください。あなたが困っていたから、俺は手を伸ばしたんです」


 その手は悪魔の手なんだよ。

 『凛香』は君をただの『種馬』としてしか見ていない。

 だけど彼女の思い通りに行くとは限らない。


 記憶が戻ってピースがはまってきた今ならわかる。

 いや、わからないフリをしていたのかもしれない。

 タイガ君、私の事、好きなんだよね?


 こんな誰にも必要とされない『欠陥品』なのに君は……

 

「ごめんね……」


 このままだとあなたは主人格の『凛香』に純情を弄ばれるだけ。

 だったら……


「私の目の前から消えて」


「え?」



「君なんか大嫌いだよ。お風呂は覗くし、頼んでも無いのにあちこちついてくるし、子どものくせに色気づいちゃって、しかも何これ?愛の逃避行のつもり?本当にキモいから……だから……」 


「リンシアさん、どうしたんですか」


「……もう顔も見たくないんだよ!いいから早く出て行って!仲良しの家族の所に戻ったらいいんだよ!!!」


 私は駆け寄ってきた思いっきり彼を突き飛ばした。

 彼は壁に激突して尻もちをついた。


「リンシアさん、何で……」


「いいから早く出てって!二度と顔を見せないで!!」


 彼に嫌われるように冷たく言い放つ。

 これでいいんだ。これで……傷つきはするけどこれでこの子は家族の下へ帰る。

 これ以上巻き込む訳にはいかない。


「……わかりました」


 タイガ君は悲しそうな顔で立ち上がると部屋を出て行った。

 これでいい。これでよかったんだ。


「うっ、うぅっ……」

 

 『凛香』は災禍魔人に憑かれてしまっている。このままだとみんなに迷惑がかかる。

 動ける様になったら何処かで始末をつけないと。

 そうしたら迷惑がかかる。短い間だったけど私に温もりをくれたあの人達に。

 ユズカちゃんや……タイガ君に。

 

 涙が止まらない。でも、泣く資格なんて無い。

 私のせいだから。私がちゃんとしていればこんな事にならなかったんだから。

 ふと気づくと、目の前に大きな鏡があった。

 鏡の中の私はこちらを睨みつけていた。


『勝手な事をしないで。あの子を、冬馬を取り戻すの!!』


「ダメだよ、『凛香』。冬馬はもう戻ってこないの!!」


『違う!必ず戻って来る!そして今度こそ守るの!!薄汚い世界から。それが母親としての役目なの!!!』


「その為にタイガ君を傷つけていいわけがない!!」


『黙りなさい!何も出来ない愚図の癖に!!」


 激しい頭痛。ダメだ。『凛香』が体のコントロールを奪おうとしている。

 せめてタイガ君がこの廃村を出るまでは時間を稼がないと。


『本来は私の身体なの!早く返しなさい』


「嫌よ。あなたには渡さない」


 必死に抗おうとするがその度頭痛が酷くなる。

 それでも負けじと抵抗する。


「うぐっ、ぐぅぅぅ」


『返せ、私の身体だ!返してよ、冬馬を取り戻すの!守らなきゃいけなかったのに、私があいつらと遊びに行かせたからあんな事になって!』


「ダメ……絶対に……」


『いい加減にしなさい!せっかく生み出したのに目的も果たせないこの……『欠陥品』が!!』


「ッッ!!!!!」


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