第56装 光無き真実
やべぇ、どぎつくて書いてて消耗しました……
【ユズカ視点】
大ケガを負ったリンシアさんだったけど何とか一命はとりとめる事が出来て今は警備隊の治療施設に収容されていた。
あたしのせいだ。あたしが置いて行ったから……
マリィを連れてきたクリスママがあたしに帰るよう促す。
家でお父様たちから大事な話があるらしい。
ふと見ると他にホクト兄様、ヒイナちゃんやリリィ伯母さん、シフォンちゃん、ケイト伯母さんにジョセリンまで来ていた。
何だろう。ちょっと物々しい雰囲気。
しかもリトリーバー隊長の隊も警備に来てくれている。
もしかしてリンシアさん、危なかったりするの?
□
家に帰るとリビングには既に人が集まっていた。
お父様、お母様、フィリーママ、ナギママ、そしてアリス伯母さん。
アル兄様にカノン、ベルも席についている。
「えーと、これは何なの?」
こんなの予想してなかった。
完全に家族会議じゃん。しかもかなり真剣なやつ。
「ユズカ、座りなさい」
お母様に促され席に着く。
「こうやって集まって貰ったのはリンシアの負傷とある事実について共有する必要が出来たからだ」
お父様が小さくため息をつき続けた。
「何人か気づいている者もいたようだがまずストレートに言おう。ルシカ・リンシアは『転生者』だ」
「えっ!?」
リンシアさんが……『転生者』!?
「本人に直接聞いたところによると本物のリンシアは事故で死んでしまったらしい。あいつはその身体に入った異世界からの転生者だ」
アル兄様が言う。この人、知ってたんだ。リンシアさんが転生者だって。
「この国は転生者が多いからな。ましてやこの家はホマレが転生者だしナギが転移者だ。ちょっとの違和感くらいなら『いつものやつ』で済んでいたんだ」
「まー、本人が黙っててって言ったからね。ナギも黙ってたんだ。転生者だって告白するのって勇気がいる事だし………」
「現在、わかっている転生元の世界は二つある。元々は同じ歴史だったがあちらの1989年という年に分岐したものだ。ひとつは『令和世界』。技術が飛躍的に発達していった一方で世界のあちこちでは争いが起き、伝染病の大流行が起こっていた。俺が元居た世界だ。そしてもうひとつが『正化世界』。進歩は緩やかで大きな戦争なんかも起きていないが代わりにどす黒い闇が緩やかに国を蝕んでいった世界でもあるらしい」
二つの異世界。
リンシアさんはどっちの出身なの。
「ここからは詳しい人に話を聞くとしよう。ねぇ、ばぁば?」
そう言うと何かがが入って来る。
若い女性の姿をした人形だ。
『やぁ、みんな元気かい?』
この声は……ナギママのお母さん。イシダ・シラベさん!?
小さい頃、よく遊んでもらった記憶がある。血は繋がっていないけどおばあさまのひとり。そして転生者でもある。
何やかんやあって肉体を失ったが意識だけをレム魔導学院の奥へと移動させそこで世界中の知識を貪っているらしい。
『外へ行きたい時用のデバイスさ。飲食が出来ないから味を知る事が出来ないのが難点なのと純粋に疲れるから嫌いだが今回は仕方ない』
そう言うと彼女は告げた。
『彼女は私達と同じ『正化世界』に住んでいた女性さ。あちらでの名は『カニガサカ・リンカ』。年齢は不明だが私が知っている段階では30手前だった。恐らく30歳は越えているだろうね』
「カニガサカ……リンカ……」
あの人の本当の名前。
それに年齢も……
ずっと隠してたんだ……リンシアさん、辛かっただろうな。
自分の事を偽り続けなきゃいけなかったなんて……
『本来なら、子ども達に聞かせたくはない。だけど知っておく必要があると思う。世界は決して綺麗ごとだけで出来ているわけじゃ無いってこれから大人になっていく君達は知っておくべきだろう。特にユズカ、君はね』
「…………」
「それでもタイガやマリィにはきつすぎると思ったからあっちに残らせたよ」
『さて、話がややこしくて申し訳ないがもうひとつ伝えておこう。ユズカ。君が今日戦った髑髏の魔人だが、あれの正体は恐らく彼女で間違いない』
「えっ!?」
あの髑髏魔人がリンシアさん!?
「ユズ姉。髑髏魔人が出てきている時、リンシアさんは居なかっただろ?」
「待って。でもリンシアさんは斬られてケガを……あっ!!?」
リンシアさんは右わきを斬られていた。
そしてあの時、タイガは髑髏魔人の……
「嘘っ………」
「まあ、だから余計にタイガをここに同席させるわけにはいかなかったんだ。想い人を傷つけたのが自分だなんて、残酷過ぎるだろう?」
「想い人……カノン、それって……」
やれやれ、とカノンは肩をすくめた。
「やはり気づいていなかったか。ユズ姉は男女の恋愛の機微には疎いね」
そうなんだ、タイガがリンシアさんを……
「万が一暴れた時の為にあそこにそれなりの戦力を配置した。聖女の力が無くともケイト姉さん達が居れば制圧は十分に可能だからな」
『さて、衝撃の事実その2が判明したところでなぜ彼女が取り憑かれたか、だ。それは勿論心の隙間に災禍獣が入り込んだというのもあるが彼女の場合は非常にややこしい事になっている』
ややこしい事?
「彼女は二重人格だよ」
アリス伯母さんが言葉を紡いだ。
「普段、君達と交流しているのとは別の人格がいる。時々急に冷たい目になる事があるのはそれでだよ」
「そう言えば……前にも急に様子が変わったりしたことが」
『基本の人格が自分自身を守るためなどに別の人格を形成することがある。ただ、君達の話を聞いて総合的に判断した事は、恐らく普段表に出ているリンシアは後から出来た人格だろうということ。つまり、冷たい表情の彼女が基本の人格、『カニガサカ・リンカ』だ』
あの冷たい表情が本来のリンシアさん!?
『では何故、カニガサカ・リンカは人格をもうひとつ作り上げたのか。本当の答えは本人にしかわからないけど、きっかけとなる事件は知っている。ユズカ、覚悟はいいかい?』
覚悟……
これを聞いてしまったらもう後戻りはできない。
だけど聞かないと。逃げていたらダメなんだ。
リンシアさんが災禍にとり憑かれているならあたしが助けてあげないと。
だってあたしは、彼女のバディだから。
「大丈夫。聞きます」
そして、あるおぞましい事件について語られるのであった。
□□
【事件概要】
正化○○年。
〇〇県○○市に住む、和坂冬馬ちゃん、当時7歳が遊びに行ったきり帰ってこなかった。
一緒に遊んでいたという友人に母親が話を聞くも誰も『知らない』と答えるのみ。
母親は警察に通報し捜索が開始される。
2時間後、近所のため池に浮かぶ冬馬ちゃんが発見された。
□□□
【ユズカ視点】
「リンシアさんに子どもが居たなんて……しかもその子を事故で亡くしたって」
そんなの辛すぎる。
だがふと気づく。お父様たちの表情が何だか……
『ユズカ、君は素直な子だ。だからこそ、本当は知って欲しくなかったんだ。その先にある悪夢について』
「悪夢?だってこれは事故で……」
ナギママが呟く。
「事故じゃなかったんだよ」
「え?」
『警察はまず母親を疑った。調べてみたら子どもは身体中にあざやら切り傷があったんだ。日常的に暴力を振るわれていたのは明らかだね。そして報道もこのセンセーショナルな事件を母親が怪しいとある事無い事を広めていった。彼女は悲劇の母から一転、息子を虐待死させた悪魔として世間からレッテルを張られたのさ』
そんな、自分の子供を虐待するなんて……
『だが捜査をしていく中でおかしな点が出てきた。まず一緒に遊びに行った友達とやらの証言がころころ変わったこと。『一緒には遊ばなかった』と言ったかと思えば『途中ではぐれた』。更には『池の方にひとりで行った』。かと思えば『知らない男の人について行った』』
「怪し過ぎんだろ」
アル兄様が吐き捨てた。
『さらに調べた結果、同級生の証言から冬馬ちゃんは日常的にその『友達』とやらから『いじめ』を受けていたと発覚した。そしてある仮説が成り立った。事件の当日いじめがエスカレートした末、彼を池に投げ落として死なせてしまったのではないかって』
「っ!!?待ってよそれって人殺しじゃない!!!」
『そうだね。立派な人殺しだ。ただ、この事件はうやむやに終わってしまった』
「何で!!?」
『学校側は一貫して『いじめはなかった』と主張したんだ。それでも署名活動なんかをして息子の無念を晴らそうとした彼女だった。ただね、これは当時凄く話題になって論争が巻き起こったのだが……これに対し担任が言ったんだ。私もこれを聞いて憤りを感じたね』
「な、何て言ったの?」
するとナギママが口を開く。
それは普段穏やかなナギママからは想像でも出来ないくらいに怒りに満ちた声だった。
「知ってる。そいつはこう言ったの。『加害者にも未来がある。死んだ息子さんと違って未来があるんだ。それを壊してもいいのか』ってね」
『その言葉の後からかな。カニガサカ・リンカが出て来なくなったのは。恐らく、心に負った傷が限界を迎えたのだろう』
何でそんな事を言えるの?
子どもを失った親に対してそんなひどい事を何で……
「もし、運命の歯車が少しずれていたらウチでもマリィがそうなっていた可能性がある。幸いなことに気づくのが早かったのとウチには学校に圧力をかけるだけの力があったからな」
でもリンシアさん……いや、リンカさんは……
□□□□
【リンカ【真】視点】
恐らく気づかれただろう。
私が、災禍魔人に変身していた事を。
明らかに警備が厳重すぎる。これは私を見張っておく為。
でも諦めるわけにはいかない。
時間も無いし、もうあの『欠陥品』に任せておくわけにはいかない。
何としてもあの子を取り戻さないと。
私が守れなかったあの子を。
「リンシアさん、気づいたんですね」
私を見下ろすのは、そうタイガ君だ。
ああ、あの子によく似ている。目なんかそっくりだ。
髪の色が気に入らないがこの際我慢しよう。
本当は彼のお父さんでも良かったのだけど誘惑出来そうに無かった。
お兄さんの方は何か違う。あの子はあんなムキムキゴリラじゃない。
「タイガ君。助けて欲しいの」
「え?」
「このままだと私は殺されてしまうかもしれない」
「な、何を……」
彼の手を掴み見つめる。
私が暴れた時の事を考えて戦力を置いていったようだが関係はない。
必要なのはこの子だけ。油断してこの子をここに置いて行ったのが判断ミス。
「助けて。お願い……」
今度こそ守って見せる。
この少年との間に子供を作る。そう、『冬馬』を取り戻すの!!!
私の、可愛い坊やを!!
□□□□□
【ユズカ視点】
「これから、どうするの?」
お母様は言った。
「災禍獣を切り離す方法を探します。それまでは拘束するつもりです」
「でも……」
最悪の展開が浮かぶ。
もし、手遅れになったら?
リンシアさんが完全に消えてしまったら?
その可能性だって……
「え?嘘っ!!?」
耳に手を当てていたナギママが叫ぶ。
顔が真っ青になっていた。
「どうしよう……治療施設にいるクリスから通信……リンシアが、タイガと一緒に消えたって」




