第54装 助けない理由にはならない
ヤバさ加速中。
そして色々な要素が悪い方向に噛み合っています。
【タイガ視点】
「タイガ、お前に大事な事を伝えておく必要がある」
姉さんとリンシアさんを追おうとした俺だったがアオイおじさんに止められた。
「大事な事?」
「お前、あのリンシアって子が好きなんだろ?気でわかった」
「うっ!ま、まあそうだけど……」
何かそういう気がリンシアさんに向かっていたのかな。
うーん、正直少し恥ずかしい。
「はっきり言ってお前にとって茨の道だと思う。詳しい事はわからないがあの子はとんでもなく大きなものを抱えている」
「大きなもの……」
「それを受け止められるかがお前にとっての分岐点だ。はっきり言う、覚悟が無いなら彼女から離れろ。それくらいにヤバい何かが彼女にある」
その言葉に俺はつばを飲んだ。
リンシアさんが、ヤバいものを抱えている?
「そしてもうひとつ、彼女を『水場』にあまり近づけるな。川とか池とか。俺の目は万能じゃないが気を読む以外にも朧げなビジョンが視えることがある。恐らくおふくろからの遺伝だ。彼女に、水場は禁忌と思え」
「水場………」
「下手をすれば、開きかけている『蓋が完全に開く』。そういうイメージだ。そうなったらもう、取り返しがつかない可能性がある」
【リンシア視点】
災禍獣の反応を感じ、私はユズカちゃんと一緒に現場へ直行する。
出現はこの場から近い。恐らくは敷地内。
せっかくアドバイスを貰いかけていたのに……
「ああっ!?」
急に割れそうなくらいの頭痛が私を襲った。
まるで脳味噌を直接鷲掴みにされて揺さぶられているような……
「リンシアさん!?」
「だ、大丈夫。すぐ行くから……」
「わ、わかった!!」
ユズカちゃんの後姿を見送りながら、私は痛みに耐えてその場にうずくまる。
『ねぇ、嫌だよ。僕、遊びに行きたくない』
男の子の声が聞こえる。
何この声、聞き覚えがある……
「ダメ…よ。そ、そんな事言っちゃ……ああっ!?」
何で?意志に反して言葉が出てくる。
『だって、痛いんだよ。あの子達と遊んだら痛いんだ』
「ううっ、あぐっ」
頭が割れるように痛い。
どうして、こんな声が勝手に聞こえてくるの? 私は何を言っているの!?
「あっ、ああっ!お、男の子、なんだから……ちょっとくらいケガする……のは、仕方無いこと……ああっ!!!」
何を言ってるの?おかしい。絶対におかしい。
でも、止まらない。私の口が勝手に動く。
「うう……ダメ……止めないと、行かせたら………だめなのに……」
涙も止まらない。同時に怒りが溢れてくる。
私は視線の先に立つ男の子に必死に手を伸ばす。
そしてひときわ大きな頭痛が脳を揺らした。
【ユズカ視点】
敷地内の災禍空間に突入すると顔が馬になった災禍魔人が男の子達を襲っていた。
「あの子達……」
確かひとりは同じクラスの男子だ。
そして、マリィをイジメた子のお兄さんだ。
事件の後も悪い噂を流したり子どもじみた嫌がらせをして来た子達だ。
「だ、誰か助けてくれよ!!」
「…………」
あの子の妹があたしの大事な妹を傷つけた。
あたしが尊敬するバレッタママの尊厳も汚した。
それに対し抵抗すればあらぬ噂を流して……正直、好きじゃない。嫌いだと思う。
「でも……」
それは助けない理由にはならない。
たとえ、あの連中があたしやマリィにしたことを許してなくても!!!
あたしは地を蹴り魔人に飛びかかると羽交い絞めにする。
「早く隠れて!!」
「お、お前、暴力女の……」
「早くっ!!」
魔人を力づくでこちらに向かせるとがっちり組み合う。
「ほう、俺と組み合おうとは面白いな。我が名は災禍魔人界の純白の貴公子、名はブージャッッ!!」
「レム・ユズカ!あなたを倒しに来たよ!!」
「ますます面白い。やってみろ!!」
ブージャは組み合ったままあたしを持ち上げると
そのまま投げ飛ばした。
地面に叩きつけられたけど受け身をとってすぐに立ち上がる。
「あなた達には負けない!リンシアさん!!」
そろそろ追いついているであろうリンシアさんを呼ぶけど……
「えっ?」
来ない!? なんで?
まさか迷ってる!?それともあのままあそこでうずくまっているとか!?
でもタイガが後ろからついて来ているはずだし……
「どうした?」
「えーと……準備運動を要求する!!!」
「……認めるッッ!!」
まさかの認められちゃったよ。ありがたいけどね。
とりあえずストレッチしながらリンシアさんを待つけど……やっぱり来ない。
マズイ。ちょっと冷や汗流れて来たんだけど!?
リンシアさんが居ないと『聖装』出来ないんだけど!!?
「どうした、そろそろ準備は出来たか?」
「えーと……試合を後日に延期とかは……」
「馬鹿を言うなっ!!!」
魔人は頭に生えた角を向けて突撃して来る。
だよねぇっっ!!!
あたしは咄嗟に横に跳んで避けると今度は蹴りが飛んでくる。
それを両腕でガードするもかなりの衝撃で吹っ飛ばされてしまう。
マズイ。『聖装』してないものあって一撃が重すぎる!!
「それでもリンシアさんが来るまで耐えないと!!」
背後から誰かが駆け寄る気配がする。
ようやくリンシアさんが追い付いてくれ……
しかし、予想に反してその相手はあたしを羽交い絞めにしてきた。
「えっ!?」
慌てて引きはがすとそこには髑髏の魔人が立っていた。
「嘘、2体同時!!?」
聖装出来ないこの状況なのに!!?




