第53装 ヤッベ
【リンシア視点】
「ごめんね、お待たせ」
クールダウンしたユズカちゃんが戻ってきたことで私達は怪しいお店改め占いの館の奥へと進む。
内部は元教会を改装して個室が増設されている。受付のカウンターに座る中年男性に声をかける。
「いらっしゃいませ、当店のご利用は初めてでしょうか?ご指名の占い師はおりますでしょうか?」
うん。やっぱりイケナイお店の雰囲気な気がする。
いや、私前世でもそういうお店行った事無いからどんなのかわからないけどさ……
「やっほー、ラモンさんお疲れ様」
ユズカちゃんに声をかけられ受付の男性は目を丸くした。
「これはこれは、ユズカお嬢様にタイガ坊ちゃんではありませんか。失礼いたしました」
「えへへ、ここってリーゼ商会が運営してるんだよね」
割と忘れかけてたけどユズカ達って『お嬢様』達なんだよね。
本人達はそれを鼻にかける様な様子もないんだけどさ。
「ラモンさん、多分連絡は来ていると思うけど『ドッペル』さんをお願いします」
「ええ、彼なら首を長くして待っておりますよ。さぁ、どうぞ」
ラモンさんに案内され長い廊下を歩いた先の部屋に通された。
内壁や柱に精緻な装飾が施されており、高級感がある。
部屋の中央には大きな水晶玉が置かれた机と椅子があり、そこに一人の男性が座っていた。
彼は私達の姿を見ると椅子から立ち上がり両手を広げて歓迎の意を示してくれた。
「やぁ、ユズカにタイガ、いらっしゃい」
「あれ?長官、何をされてるんですか!?」
そこに居たのはタイガ君の父親、ホマレさん……!?
いや、でもなんか雰囲気が……
「久しぶり、アオイおじさんっ!!」
ユズカちゃんが元気よく挨拶する。
おじさん!?
私は早速タイガ君に視線をやる。
「彼は父の双子の兄、アオイおじさんです」
「え?長官って双子だったの!?」
初耳だよ!?
いやまあ、別に家族構成を事細かく教えてもらう必要もないけど。
「昔は本家に住んでいたんですけどおじいちゃんが亡くなった後に家を出てここに住み込んで働いているんです」
「姉さん達は一緒に住んでもいいって言ってくれたけど色々と気を遣うしね。それにしてもタイガ、お前はますますホマレに似て来たなぁ。将来はきっといい男になるぞぉ」
「あはは、ありがとうございます……」
双子のお兄さんかぁ。
「それで今は……占い師を?」
「まあ、そんな所だね。俺は目が良くてね。気が『視える』んだよ。その強さや量、色や形なんかから占うのさ」
意外としっかりしたものだった!!
占い師と聞いて不安を感じていたけどそういう理屈なら私が見えている幽霊の問題ももしかしたら……
「あっ……でもどうしよう、私、今日そんなお金……」
占い師の所に行くって知ってたら用意してたのに。
「大丈夫、大丈夫。タイガ、『あれ』出して」
ユズカちゃんに言われてタイガ君が懐から紙に包まれた何かを出す。
お金!?まさかセシルさん用意してくれて!?いやいや、居候の身でそれはまずいよ!!
「おお、例の『ブツ』か!!」
何やらアオイさんが興奮した様子だ。
待って!ダメな展開になってない!?
まさかの違法取引!?
「これで見てくれます?」
タイガ君の問いにアオイさんは凄まじい勢いで首を縦に振る。
「もちろんだ!だから、早くそれを!!」
何かアオイさん、目が血走ってて怖いんだけど。
「……どうぞ」
タイガ君は包み紙を丁寧に開けると中の物をそっと差し出す。
何これ?写真みたいだけど……
私は写真を横から覗きこむ。
そこにはホマレ長官が様々なポーズをとった写真があった。
「おおおおおお!これは!?」
「………………は?」
私は思わず声を漏らす。
「ああ、ホマレ。相変わらずイケメンだなぁ~」
恍惚とした表情で呟くアオイさん。
いや、あんた双子なんだから同じ顔じゃない!!しかもその写真、どう見ても隠し撮りだよね!?
「実はこの写真、昨日撮ったばかりなんだよ」
「撮りたてほやほやだと!?」
「後、お風呂上りもあるよ」
「うおぉっぉぉぉっっ!!!」
え?何これ?
「タイガ君………」
困った時はこの子に聞くのが一番だよ。
「おじさんは父さんの事が大好きなんですよ」
「大好きでは収まらんぞ!もうラブだ。いや、最上級のゴッドラブだ!!!」
最上級!?
すいません、変な人が居ます。
何というか濃いなぁ。
「まあ、ウチは父さんからしてあれですから。その……シスコンですから」
「え?あの人そうだったの!?」
「えーと、アリスおばさんとのやり取りみてますよね?」
「うん。お姉さん想いなんだなぁって感心してたよ?」
タイガ君は何やら頭を抱えている。
「ああ、頭痛くなってきた」
「大丈夫?もしかしてお腹出して寝ちゃってたとか……」
「…………ははっ、筋金入りだぁ……」
タイガ君、大丈夫だろうか?
そんな様子を見ていたアオイさんはふふっと微笑んだ。
「タイガ、色々と苦労しそうだな。まあ、お前はそういう星の下に生まれて来たんだな」
「かもね……」
「さて、それでそのお嬢さんが見て欲しんだっけ?」
アオイさんは真剣なまなざしでこちらを見つめる。
「あっ、はい。その、実は最近、頭痛がしたら男の子の幽霊が見えるようになっちゃって」
アオイさんはしばらく私を見つめ小さく息を吐いた。
「…………ヤッベ」
待って!今『ヤッベ』って言わなかった!?
絶対言ったよね!?
「そ、そんなヤバい霊がついてるんですか!!?あの男の子!?」
「男の子かどうかはわからないが確かに君を覆う様に強烈な気が見える。どす黒いものととても悲しそうな、そんな気だ」
やばぁぁぁ!!?
怨霊に取り憑かれちゃってる!?
「ど、どうすれば……」
「そ、それは……」
アオイさんが何かを言いかけた時、空気がピりつくような感覚とキィィンと耳鳴りがした。
まさかこんな時に災禍獣!!?




