第52装 噴出する怒り(※)
終盤、怒り狂うリンシアは一時的に意識が無くなって『アナザーリンシア』が出ている状態です。
【リンシア視点】
棘とかに刺さったらティウンティウンしそうな隊長さんに頬を染めるユズカちゃん。
これってもしかして、もしかしなくてもあれよね?
「ユズカちゃんさ、もしかしてあの人の事」
「へ?い、いや何でもないよ!?えーと、ちょっとお腹が痛いっていうか……その……あははは」
誤魔化し方が雑ッ!!
というかエイのパンイチ災禍魔人は怖がってあれはOKなんだ。基準がわからないなぁ。
「あのリトリーバー隊長は父さんがバレッタママから隊長を引き継いだ時代から部下なんですよ。それで昔からよくウチに出入りしてたんです」
「あーなるほど」
憧れのお兄さん的な感じだね。
色々とツッコミ入れたい格好はしているけどそういう関係性ってポイント高いよね。
「べ、別に好きとかそういうんじゃないから!!」
「いや、聞いてないんだけど……」
「うっ……」
顔を真っ赤にしたユズカちゃんは恥ずかしそうに口元を手で覆いうつむいた。
「ちょっと……」
「いいよ姉さん。この辺で待ってるよ」
タイガ君が答えるとユズカちゃんは猛スピードで走り去っていった。
「クールダウンして来るそうです」
「……みたいだね」
まさかあのユズカちゃんがこんな反応するなんてなぁ。
「あのさ、ユズカちゃんって前に彼氏いたよね?」
「ああ、数日でフラれちゃったあの人ですね……」
タイガ君は少し考え話はじめる。
「レム一族の女子って全体的に恋愛偏差値低いんですよ。おじいちゃんからの遺伝っぽいんですけどね。ユズカ姉さんも例に漏れずで好きな人の前ではああなるんです」
素敵な光景だけど意外なんだよね。
何というか割とあの明るさで距離を確実に詰めていきそうな感じなのに。
「姉さんがリトリーバー隊長を好きだったのは結構前からです。だけど何でそんな中、同級生の告白を受けて付き合いだしたかちょっと謎なんですよね」
「うーん。タイガ君、女の子には色々あるんだよ」
【ユズカ視点】
高い所に登って風にあたって、クールダウン完了。
いやぁ、参ったなぁ。まさかリトリーバー隊長に出会っちゃうなんて。
相変わらず素敵な筋肉だったなぁ。もうバッキバッキなんだよねぇ。
思い出して思わずにやけ顔になっていることに気づく。
「あたし、ちょっとは大人っぽく見られたかな?」
今日は珍しくスカートを履いたりしてみたけどどう思ったかな?
相変わらず何も思われていないってこともあるよね。
「あっ……」
下に降りて来たところであたしはある人に出会う。
それは以前お付き合いをしていた冒険者養成コースの男の子だった。
「や、やぁ……」
「えーと……ひ、久しぶり」
気まずいッ!!
男から告白して来てちょっとダサいなと思いつつも付き合ってみた人。
結果、数日でフラれました。いかに自分が恋愛でダメか思い知らされたなぁ。
「あの……怪我は大丈夫?」
思いっきり投げちゃったからなぁ。
スキンシップってああいう風に技をかけるものだと思ってたら違うんだもん。色々と勉強不足だった。
「その、あの時は色々とごめんなさい」
「あーいや。俺の方こそ何か君の期待に応えられるような男じゃ無かったみたいでゴメン」
胸がチクリと痛む。
「あたしの方こそ本当にごめんなさい!!!」
本当は恋愛対象として興味なんか無かった。
ちょっと恋愛の真似事みたいなことをすれば自分の中の女っぷりがあがったりするんじゃないかって。そう思って受けたんだ。
本当に、この人には失礼な事をした。最低だよね。
「投げられてびっくりしたけど怒ってるとかそういうのじゃないからさ。むしろいい経験が出来たかな?『あのレム・ユズカに投げられたんだ』って友達に自慢できるし」
それは物凄く恥ずかしい。
「あの投げがあったから、俺は君を少し理解できた。その上できっと自分は君の隣にいる人間じゃないって思ったんだ。そこに恨みとかはないからさ。だから、自分を責めないで」
「うん……ありがとう」
「手段は乱暴だけど相手をわかり合おうとする姿勢が君の魅力だからね」
【リンシア視点】
「ところでちょっと興味あるんだけどさ、タイガ君の好きな子ってどんな子なのかな?」
その言葉にタイガ君が赤くなりうつ向いてしまう。やだ、可愛い反応。
やっぱりこの子恋してるわぁ。
「えーと……」
「ちょっとだけでいいからさ、教えて欲しいなぁ」
「あの、何ていうか大人びているんだけどどこか放っておけない様な……そんな人……かな?」
ほうほう。つまり年上、上級生なんだね。なるほどねぇ。
これはお姉さん、応援しちゃうぞ!
ああ、これは観察がはかどっちゃうなぁ。
「おっ、誰かと思ったら暴力女の弟じゃねぇか。年上のお姉さんとデートか?やっぱり金持ちんとこは早熟だね」
声の方向を見るとガラの悪そうな少年達がこちらを睨みつけていた。
「暴力女?タイガ君、あいつら……」
「前にマリィをイジメてた連中の兄貴ですよ」
私の心の中に何かピリピリした感情が沸き上がってくる。
「何がイジメだよ。あんなのちょっとからかっただけだろ。それなのにお前の姉ちゃんは俺の妹をボコボコにして、大事に発展させてよ。最終的には教師までクビにさせるとかひでぇもんだよ」
悪態をつく先輩にタイガ君はうんざりした様子だ。
「あの件はあんた達の妹がやらかしたことが認められただろ。悪いのはそっちだ」
「妹はちょっとふざけただけだろ?それなのによ。お前ら正義面してよくもまあ色んな奴の人生狂わせてさ、何考えてんの?」
「はぁ、だから……」
「何がちょっとふざけただけなの!?君の妹がどれだけ残酷な事したかわかってる?そのせいでマリィちゃんの心がどれだけ地獄だったか、想像つくの!?」
我慢できず声を荒げていた。
こいつらはいつもそう。自分勝手な理屈をこねて人を平気で傷つける。
平気で……
ああもうっ、頭が痛くなってきた。またあの子が見える。
男の子の幽霊が私をじっと見ている。同時にどんどん怒りがこみあげてくる。
「ちょっ、リンシアさん………」
「何だよこの女……」
「助けを求められない子だっているの!親を心配させたくなくてケガは転んだだけとか、友達とふざけてて怪我したとか!中には見えにくい場所にあざを作るような連中もいる。直接暴力を振るわなくても精神的に追い詰めるクソみたいなやつだっている。はっきり言うけどそんなの『暴行』なんだよ!?罪なんだよ!?」
憎い、憎いッ!!
ヘラヘラ笑ってる連中が!
未成年だからって罪から逃げようとするこいつらが!!
「何が『加害者にも将来がある』だ!ふざけるのもいい加減にしろッ!!それじゃあ心を地獄に落とされた子達はどうなる!?命を失くした子はどうなるんだよ!!『あの子』の命は、あんな連中の将来なんかと秤にかけていいものじゃなかったんだッッッ!!!」
そう、あの子の命はそんな軽いものじゃ無いッッ!!
守ってあげなきゃいけなかったのに、私が守らなきゃ。
それなのにッッ!!
「リンシアさん!?どうしたんですか!落ち着いてください!!?」
タイガ君が腕を掴んで揺さぶる。
「え?あれ?タイガ君?」
あれ?私もしかして一瞬意識が無かった?
イジメっ子のお兄さんたちが怯えた表情で私を見ていた。
「いや、その……そ、それじゃあ……」
よくわからないけど彼らは逃げるようにこの場を走り去って行った。
「タイガ君。私……」
今、何をしたのだろう?
急にどうしようもない怒りが沸きあがって来て気づいたらこうなっていた。
「リンシアさん。その、マリィの事で怒ってくれたんですよね?」
「え?」
「ありがとうございます。もし一歩間違えばマリィも、ベル姉さんも死んでいたかもしれなかったんです。だから、リンシアさんはあんなに怒ってくれてたんですね。さっきのリンシアさん、マリィのいじめ事件を知った時に母さんみたいにカッコよかったです」
えーと、よくわからないけど私はかなり怒って……説教でもしたのかな?
うーん……記憶にないなぁ。
「今では大分マシになったしマリィも友達が出来て明るくなりました。でもやっぱり未だにあんな風に言いがかりをつけてくる連中はわずかながら居るんです」
「そうなんだね。大丈夫、君達は悪くないから」
馬鹿な連中が去って行った方向を見つめ、自然とある言葉が出ていた。
「あんな奴ら、永遠に救われなければいい。分かり合う必要は無い」
『蓋』がゆっくり開きつつあります。あまり上手く表現できていなくて歯がゆいです。実はマリィ編でマリィがいじめられている事実を聞いて非難しつつあまり感情が大きく動いていなかったのは『蓋』がしてあったから。ただ、あの件以降少しずつ蓋が開き34話でおかしい事になり始め……




