第49装 記憶は嘘をつく(※)
今話で第5章終了。
ユズカが出てきていないのは夜更かし(パンイチとの死闘)のせいで疲れて寝ているからですが結構な異常事態が起きています。
【リンシア視点】
「そんなぁぁぁぁぁ、姉さんなんで出て行くんだよぉォ!!!」
パンイチ魔人事件を終えた日のお昼ごろ、軽く寝て起きてきたらユズカちゃんのお父さんがアリスさんに縋り付いていた。
「ちょっ、いつものこととはいえ情けない事するなよあんたはもう……」
フリーダさんが呆れながら旦那を引きはがしている。
「えーと、何の騒ぎ?」
呆れた顔のマリィちゃんに話を聞くとアリスさんが実家の方に泊ると言い出したらしい。
「俺、何かした!?気づかない内に姉さんの機嫌を損ねる様な事した!?謝るから考え直してぇぇぇ」
「ああもうっ、違うから!もうお父さんもお母さんも居ないけどあそこは生まれ育った家なわけだしさ。アンママやメイママの事も気になるからあっちに行くだけだよ?」
子どもに言い聞かせるようアリスさんは説明する。
そっか、血が繋がった親はもう居ないけどアンジェラさんやメイシーさんもアリスさんにとっては紛れもなく『親』なんだね。
それはこの家の子ども達も同じ。
血のつながりは無いけど自分の母親以外も親として慕っているし母親達も自分の子じゃなくても愛情を以て接している。
前世ではあんまり見ない価値観だよね。
「リンシアさん、お父さんだけどその……」
マリィちゃんは何やら苦い顔で視線を逸らす。
「うん、凄いお父さんだね」
「あはは、やっぱりそうだよね。流石に今度はリンシアさんもお父さんのシス……」
「お姉さんが出て行くって聞いて他の家族を疑うんじゃなくて自分のせいでは無いかなってと自然に発想する辺りいいお父さんだってわかるよ」
「ちょっ、リンシアさん!?そろそろ気づいて!?」
何がかな?いいお父さんだってのはわかってるよ?
あいつなんか何かあったらすぐに私のせいにする様な……する……す……
「痛っ!!」
まただ、頭が痛い。
割れそうに痛い。
何なのこれ、もしかして転生前にこの身体が崖から転落死した影響が出ている?
『ごめんなさいっ!私が、私がぁぁぁ!!!』
脳内に響く声。
ああ、これは前世での私、凛香の声だ。
わかった。あいつにモラハラされて謝らされている時の記憶がぶり返してきたのね。
ああもうサイテーだ。本当に何であんな男と結婚なんて……
『大丈夫。大丈夫だから……頼むから自分を責めないでくれ』
今度はあいつの声が脳内で再生された。
瞬間、身体の奥からマグマのような怒りがこみあげてくる。
「違うッッ!!!」
こんなの違う。
あいつが私の心配なんかするわけない。
いつだって私の気持ちを足蹴にする様な、そんな、そんな男だったんだ。
子どもが欲しいと願っても相手にされず、挙句私の親友と浮気して……
「リ、リンシアさん?」
マリィちゃんが怯えた表情で私を見ていた。
「え?」
見ればみんなが動きを止めて私を見ていた。
「リンシアさん、どうしたの?何か怒ってる?」
タイガ君が心配そうな表情で私に問いかける。
「あーうん、大丈夫だよ。何でも無い」
「大丈夫ってあんた、その……それ」
フリーダさんが私を指す。
私の頬を涙が伝っていた。
そして彼女の後ろでは男の子の霊が私を見つめていた。
「ごめんなさい、はじめて夜勤したからかな。少し疲れたみたいです」
「そ、そうか。無理するなよ。何か簡単に食べられるもの用意してやるからさ、それ食べて休んだらいいよ」
「……ありがとうございます」
どうしたんだろう。私本当におかしくなってる。
もしかしてお祓い的なもの、いるのかなぁ。
【アリス視点】
居候しているリンシアちゃんが急に叫んで泣き出した。
本人は疲れているからって言ってたけどあれはやっぱり……あの子は『二人』いる。
つまり……二重人格。
普段見せているのは主人格?それとも……
□
【地球】
とある家を背広姿の男が二人、訪ねていた。
ひとりは年配の男性、もうひとりは若い男性だった。
『和坂』と表札のある部屋のチャイムを押すと、30代半ばの女性が応対に現れた。
「はい、どなた様でしょう?」
「お忙しいところ申し訳ありません。お久しぶりです、和坂さん」
女性は少し戸惑ったような顔をしていた。
「……えーと確か……」
「深町です。警察の……」
「あー……はい。けいさつ……」
「ご主人の件についてお話を聞かせていただきたいのですが」
「わ、わかりました。どうぞ……」
女性は、二人を中へ招き入れた。
年配の刑事、深町は女性についていくがふと、彼女が『靴のまま廊下を歩いている』ことに気づく。
「……………」
深町は敢えてそこには触れず、そのまま廊下を突き当たりの部屋へと案内された。
そこはリビングダイニングキッチンだった。
あまり生活感のない部屋で、家具も最低限しかないようだった。
というより色々なものが部屋の端へ乱雑に集められている。
「深町さん……」
後輩の若い刑事が不安げな声を出した。
「わかってるが黙っていろ」
深町はそう言うと部屋の隅にある仏壇を指さす。
「手を合わしてもいいですか?」
「え?あぁ……はい」
どうも歯切れが悪いなと思いつつ、深町は仏壇の前に正座し、手を合わせた。
誇りを被った小さな位牌を見ながら呟く。
「あれから5年経ちますな。今度はご主人があんなことに……」
「え?あ、ああ。どうも……」
女性、『和坂凛香』は不思議そうに首を傾げていた。
「………」
その横で若い刑事は険しい顔で、部屋を見渡していた。
□□
「深町さん、絶対あの奥さんおかしいですよ。旦那の事件だって絶対何か関係ありますって」
「あぁ……」
苦虫を嚙み潰したような表情で深町は呻く。
「あの人は、元々『壊れていた』からなぁ。立ち直る事が、出来なかったんだな……」
深町は部屋の片隅に積まれていたものの中にあった『ランドセル』を思い出し、胸が締め付けられる思いだった。
□□□
刑事たちが去った中、『凛香』はひとり呟いていた。
「この世界はいい。憎悪に満ちていて食事には困らない。これも神の悪戯、というやつか」
そして『凛香』は仏壇に置かれた写真を一瞥し『ふんっ』と鼻を鳴らした。
「この身体の元の持ち主。こいつも素晴らしい『憎悪』を持っていた。抜け殻になっても身体に残る程に。一体その魂にはどれだけの憎しみを抱えているのだろうな」
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【異世界・マリィ視点】
今日のリンシアさん、何かちょっと変だったな。
せっかくお兄ちゃんを名前で呼ぶようになっていい感じかなぁって思ってたのに何だろう、妙な不安感が……。
「どうなっちゃうんだろ。こんな時におばあちゃんみたいな力があったらなぁ……」
おばあちゃんには予知能力みたいなものがあったらしい。
未来を知る事が出来たらなぁ。
お兄ちゃんとリンシアさんがどうなるかとかわかっちゃうし、テストの答えとか……
「いやいや、何を考えてんのよ」
そんなずるしてたら天で見守ってくれているママに笑われちゃうじゃない。
瞬間、頭の中に何かが浮かんでくる。
これは……ユズカ姉さんとリンシアさん!?
二人は距離を取り向かい合っておりやがて本を出したリンシアさんの姿が…………
「ちょっ、な、何よこれ!?」
今のイメージは一体何なの!?
一体何が視えたの!?




