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第4装 迷子になったら幽霊に出会いました

 宿のベッドで仰向けになった私は驚き、興奮、幸福に包まれていた。

 不安だらけの異世界セカンドライフだったがここに来て初めて心が弾んだ。


 この世界、意外と楽しいかも?

 そう思えるようになったのはあんなぶっ飛んだ少女達、ユズカちゃんとジョセリンちゃんとの出会いだ。

 

 ぶっ飛んではいるけど悪い娘達じゃない。

 むしろ、すごくいい娘達だ。物凄く輝いていて、眩しかった。



 翌朝、思いのほか早く起きた私はカーテンから外を覗く。

 冬ということもあり外はまだ薄暗く人の気配もほとんどない。

 普段なら2度寝なりをぶちかまそうととベッドに潜り込むところだ。

 だが気分が良かった私は宿の人達を起こさない様こっそり抜け出すと、散歩がてらに宿周辺を歩くことにしたのだ。


 突き刺すような寒さ。だがそれさえも心地よく感じる。

 これまでゆっくりと眺める余裕も無かった街並みを眺めながら歩く。

 ただ、この身体には元の持ち主であるリンシアの癖が残っているので油断すれば迷子になる可能性がある。

 なので本当に宿を中心とした数ブロックを歩くことにしたのだが……


「やっべ……私ってばリンシアを甘く見てたわ……」


 いやー、これはまた完全に迷ったよ。

 たった数ブロックなのに見事に迷子になったよ。

 いや、いい加減私の精神に慣れてくれないかな、この肉体。

 行った道をそのまま引き返せばいいだけじゃん!

 それが何でこうなるのよ!リンシアは『後退』って言葉知らなかったの!?


 転生して1週間。割と普通に帰れることもあるので安心してると迷う。

 何だろうこのランダム性は。もはやそれって『呪い』じゃないかとすら思ってしまう。


 迷いに迷ってやがて辿り着いたのはよりによって高い塀に囲まれた『墓地』だった。


「ははっ……何の冗談よこれ」

 

 うわー、これは最悪すぎる。まだ辺りも薄暗いっていうのによりによって墓地に着くなんて。

 一応門は閉まってるから中に迷い込むことはないだろうけど……否、リンシアを舐めたらダメね。

 きちんと制御していないと本当に入り込みかねない。


「やっぱりどこの世界でもお墓って怖いなぁ……」


 そんな言葉が漏れていた。

 何というか死者が眠っているというだけで独特の雰囲気が漂っているのだ。

 異世界であろうとそれは変わらない。


「ねぇ、お嬢さん。こんな所でどうしたの?道に迷ったのかな?」


「ひゃいいっ!?」


 横から急に声をかけられ思わず飛び上がる。

 見れば50代くらいのご婦人が塀に身体を預けて微笑んでいた。

 びっくりした。幽霊かと思ったじゃない!!


「あの、えーと……まあ、そんな感じ……です」


 栗色の髪だがわずかに紫がかかっているのが見える。

 何か最近、こんな髪を見たな。あのシティボーイがこんな色だっけ?

 やっぱり異世界だからこういう髪色って普通なのかしらね。


「やっぱりそうなんだね。でもこう考える事も出来るよね?実は迷ったんじゃ無くて引き寄せられたとか、そういう事」


 やだ何それ怖い。

 仲間を作ろうと幽霊が呼ぶ的なあれですか?いやいや、勘弁してください。


「いい事を教えてあげるね。出会いには意味があるよ。君を待っていたんだ」


 あれ、もしかしてちょいとやばい人に出会った!?


「えっと……あの……」


「よくわからないよね?でも怖がらなくてもいいよ。これは助言。もし君が運命を感じたなら踏み出せばいい。それが『流れ』だからさ」


 また出た。『流れ』って言葉。

 この世界の人ってそういうの好きだよね。


「ああ、そろそろ『来る』頃だね」


 来る?こんな朝早く誰が来るというの?もしかして彼女はここで誰かと待ち合わせをしていたのだろうか。

 周囲を見渡すが誰もおらず再び女性の方に目をやるのだが……


「えっ、ウソ……」


 さっきまで塀に寄りかかっていた女性の姿は少し目を離した隙に忽然と消えていた。

 周囲は高い塀が続いており隠れる様な場所もない。

 それこそ煙の様に消えたのだ。消えたという事実に全身が総毛だった。

 つまり、そんな芸当が出来る彼女は…………幽霊!?


「ひぃぃぃぃっ!?」


 ウソ、出会っちゃった!

 異世界転生したついでに前世でした事のない心霊体験を経験しちゃった!!?

 驚き後ずさった時、思わず足を取られ転倒してしまう。


「痛ぁぁっっ!もうっ!!」


 転んだ拍子に膝を擦りむいた様だ。

 ああもう最悪ッ!もう二度と早朝の散歩なんてしないから!!

 

「ちょっ、大丈夫ですか!?」


 誰かが駆け寄って来る。

 この声には聞き覚えがある。

 それは昨日にカフェで出会ったぶっ飛びガール、ユズカちゃんだ。

 ジャージっぽい服を着ている。もしかして走り込みとかをしてたのかな?


「あ、え?あっと……」


「血が出てるじゃないですか!」


 ユズカちゃんは腰に装着していた筒を取り外す。


「ちょっと染みますよ」


 言うと中の液体を私の膝にぶちまけ傷口を洗い流してくれた。


「痛っ!」


 彼女は私の膝に手をかざす。

 すると膝が温かくなっていき痛みが段々ひいてくるのを感じた。

 え、何これ?


「あたし、幼い頃からちょっとした回復術の真似事出来るんですよ。まあ、才能が無かったのかあんま成長しなかったんですけどね」


 いやいや、素敵な才能じゃない。興奮でちょっと鼻血出かけたんですけど……

 笑いながらユズカちゃんは肩にかけていたタオルを適当な大きさに裂くと私の膝に巻きつけた。


「え?ちょっと……」


「包帯とか持ってたら良かったんだけどこれしかなくて。血は止まると思いますよ」


 見ず知らずの私の為に何のためらいもなく自分の持ち物を引き裂くって……ちょっとこの子、漢前すぎやしない!?


「ほら、立てますか?」


「あっ、はい」


 ユズカちゃんに手を引っ張ってもらい立ちあがる。


「あの、どうして……」


「困っている人がいるなら手を伸ばす。それがあたしのモットーだから」


 漢前ッッ!

 もしかしてこの実は男の子だとか無い!?

 脱いだら何か余計なものがついているとかないだろうか?


「あの………えっと……」


 うわ、どうしよう。何か頭の中を色んなものが渦巻いて言葉が出ない。

 ああもうっ、この子って何でこんな素敵なんだろう。


「えっと、あの……大丈夫ですか?」

 

 お礼を言わなきゃ。簡単な事じゃない。


「あの……あ、あ……」


「え?」


「道に、迷いました」


「は?」


 違ぁぁぁうッ!

 違わないけど違うのぉぉぉ!! 

 何でいきなり『見つめあったら素直におしゃべり出来ない』ってなるのぉぉ!?


□□


 結局宿まで送ってもらう事に。

 本当にこの身体は!!


「リンシアさんって方向音痴なんですね。そう言えばこの間も弟が迷子のお姉さんをこの辺まで送っあげたって言ってましたよ」


 迷子って意外と多いんだ。

 まあ、大きな都市だもんね。

 それにしても彼女の家は弟さんもしっかりしてるんだなぁ。

 このお姉ちゃんだからそりゃ弟さんも優しいんだよね。


 それにしても情けない。

 私の方が色んな意味で年上なのに。

 治療してもらった上、彼女の持ち物を台無しにまでして……


 そんな時、耳に何やら鈴が鳴るような不気味な音が『キーン…キーン…』と響いた。

 何だろう、この音?


 不思議に思っているとユズカちゃんが足を止める。


「あーっ……えーと……」


「ユズカちゃん?」


「ごめんなさい!あたし、急に大事な用事を思い出しちゃって……リンシアさんの泊まってる宿って多分そこを曲がって左だから後は自分でお願い!」


 早口で言うとユズカちゃんは走り出した。

 え?何これ。どういう事?

 走り去る彼女の背中を視線で追いながら更に不気味な音が耳に響き続けていた。


 もしかしてこの音と関係がある?

 でも、どうせ私には関係ないことなんだよね。

 だったら大人しく帰ろう。敢えて首を突っ込む必要なんて……


 気づけば私はユズカちゃんを追いかけて走っていた。

 方向音痴なのに、怪我だってしてるのに何をしてるんだろう?


 だけど何かを感じた。

 もしかしてそれってさっきの幽霊さんが言っていた『運命』?『踏み出せ』ばいいの?

 昨日の店長さんも言ってた。『流れ』があるって。

 もしかして今、私はその流れに乗っている?

 だとしたら、このまま進む!!

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