第44装『夜の仕事』を頼まれました
【リンシア視点】
出勤した私は上司であるアゼルさんに呼び出された。
「リンシア君、悪いんだけど君には『夜の仕事』を頼みたい」
「……はっ倒しますよ?」
いきなり呼び出して何を言うかと思えばセクハラとは驚いた。
そんな人だとは思わなかったわ。
「いや違うんだ、勘違いしないでくれ!」
「じゃあなんですか?私に夜の相手をしろってことですか?」
最低すぎるよ、上司殿。
こちとらOL時代にセクハラに悩まされた過去がある。受けて立ちましょう。
「そ、それも違う!わたしは女性に興味はない!!!」
…………はい? あれれーおかしいなぁ。
今この上司、何て言ったのかなぁ? もしかして聞き間違いかなぁ?
きっとそうだよね、うん。
聞かなかったことにしておこう。その方が世界平和に回る。
「なら一体何をしろって言うんですか……」
「ここ最近、夜道を歩いている女性が妖しい輩に追いかけられているという通報が相次いでいるんだよ」
えぇ……。
何よそれってただの不審者事案じゃない。
「そういうのは夜回りしている警備隊員が居るんじゃないですか?」
特別捜査班である私が動く仕事ではないと思うんだけど?
いや、確かに災禍獣が出ないとデスクワークになるので暇な部署だけどさ。
「それがどうも普通とはが違うらしくてね。相手は妖しい姿をしていてどうも人外っぽいんだよね。それも亜人種とはまたちょっと違う感じ。つまり、わかるよね?」
「災禍獣……って事ですか?」
「被害にあった人たちの証言によると『筋肉ムキムキ』で『パンツ一丁の変態』だったらしいんだ」
あ、それ『災禍魔人』だ。
どういうわけかみんなプロレスラーみたいに筋肉ムキムキであろうことかパンツ一丁なんだよなぁ。
確かにあんなのが夜道をつけてきたらとんでもないトラウマもんだよ。
「そう言う事だから、頼むよ」
…………まぁいいけど。
「わかりました。あ、でもひとつ問題が……」
ユズカちゃんだ。
今回は夜の勤務ということになるが災禍魔人が相手ならユズカちゃんの助けが必要だ。
だけど学生の身であるユズカちゃんを遅くに連れ出して法律的に大丈夫なのだろうか?
□
「よーしっ!変態を捕まえるぞー!!」
結論、割と大丈夫でした。
ユズカちゃんは学生だが17歳という事もあって夜間時間の勤務も許されていたりする。
一方、いつもついて来てくれる弟君はというとこっちは法律的にアウトだった。
だってまだ12歳だもんね?子どもだもん。
彼は自身は『第5節になれば13歳です!!』って言ってるけどそれでもアウトだからね?
その代わりというべきか今回、一緒に来てくれたのは……
「ハーハッハッ!変態野郎のタマ〇ン握りつぶしてやんぜ!!」
あろうことか『蛮族』と呼ばれるシフォンちゃんだった。
握りつぶすのは止めようよ。感触が手に残って嫌じゃん。
おおよそ秩序からはかけ離れた娘なんだよなぁ。
下手すれば彼女自身がしょっ引かれやしないかとハラハラする。
まあ、そんな芸当が出来る人なんてそんな無いだろうけど。
でもこの乱暴さで保育士的な仕事をしているらしいので実は面倒見が良くて子ども好きなのかもしれない。
ただ、預かってる子どもが『タマ〇ン握りつぶしてやんぜ』とか言わないか心配だよね……
魔力ランプを手に夜道を巡回していく。
夜勤は初めてだけど手当が美味しいんだよね。
「おい、リンシア」
不意にシフォンちゃんが話しかけてくる。
「え?何かな?」
「てめぇ、タイガとどういう関係だ?」
「またそれ?弟君はユズカちゃんの弟だけど?」
シフォンちゃんは私を睨みつける。
「……質問を変える。男としてはどうだ?」
この娘の言う事はわからないなぁ。
「うーん、そうだね。普通かなぁ……」
「ムラムラとかしねぇのか?あー、この子かわいいなー、食べちゃいたいなぁ、よし夜中に襲いに行っちゃえとかそういう……」
「………いや、犯罪じゃん」
バディの弟に発情するとかダメに決まってるじゃない。
「でも、バレンタインにチョコレートあげたとか聞いたぞ」
「そ、それは……意味を知らなくて」
あれはこっちの風習を知らなかったせいなんだよなぁ。
まさか男を誘う合図だったなんて微塵も思わなかった。
義理チョコ配らなくて大正解だったよ。
とんだふしだら女と思われちゃうところだった。
「ともかく、弟君はユズカちゃんの弟!それに子どもだしさ」
「………男が居た事はあるか?」
グイグイ来るなぁ。
一応前世で旦那はいたけど、リンシアとしての人生なら恐らく……
「居ないよ。昔、長男君と仲良かったけど特に進展はしなかったし」
「そうか………しかし、気に入らねぇな」
シフォンちゃんは小さな声で吐き捨てる。
「え?」
「てめぇがタイガを『見ていない』事がな。気にくわねぇ」
はい?
いやいや、ちゃんと見てるよ?
この間、勉強だって見てあげたしさ。
何言ってるのこの娘?
「てめぇはよ………」
シフォンちゃんが何か言いかけた瞬間、『いやぁぁぁ』と絹を切り裂く様な女性の悲鳴が聞こえた。
「リンシアさん!!」
「うん!出たのかも!!」
そうでなくとも女性のピンチだ。
私達は声のした方向へと走っていく。
必死の逃げる女性とすれ違った先で私達の目に飛び込んできたものは……
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!?」
エイのようなヒレをマントの如くひらひらさせたムキムキ災禍魔人の仁王立ちであった。
見慣れていると思ったけどやっぱり怖い!
暗闇で見ると一層ダメな感じがするぅぅぅ!!!
思わず恐怖で足がすくむ。
「だ、大丈夫かお嬢さん!!?」
災禍魔人からまさかの言葉をかけられちょっと困惑。
いや、まったく大丈夫じゃないです。
エイみたいな変態が仁王立ちしてるんだもの!!
「へ、変態ッッ!!!」
ユズカちゃんが口を押えて小さな悲鳴をあげた。
流石にユズカちゃんもアレを変態として認識してくれたらしい。
良かった。普通の女の子らしい所もあったんだね。
「何だと!!?」
災禍魔人が辺りを見渡す。
「何処にいる!?」
「「「お前だぁぁぁぁっ!!!」」」
女性3人の総ツッコミが飛ぶのだった。




