第43装 怯える男の子達
【リンシア視点】
「うあぁぁぁぁっ!アリス姉さぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!いらっしゃぁぁぁいッッ!!!」
アリスさんとシフォンちゃんを連れてレム家に戻るとホマレさんがものすごい勢いで狂喜乱舞していた。
何だろう、普段の彼と雰囲気が違う。何か子どもっぽいというか何というか……
「あはは。君は相変わらずだね。はいはい、よしよし」
「えへへ……姉さんだぁ」
そんな彼の頭を撫でるアリスさんの表情はとても柔らかい。
やっぱり母親が同じという事もありこのふたりは仲が良いらしい。
それにしてもこの反応は……
「マリィちゃん、まさかお父さんって……」
「そう。流石に分かったよね?パパはさ、極度のシス……」
「物凄くお姉さん想いなんだね!!久しぶりに会えて嬉しくてたまらないんだね!!」
「何でそうなるの!?」
いやだって……ねぇ……
そういうもんじゃないの?
「あのね、もっと気づくところない?いい大人があんな風に甘えてさ……」
「うーん……」
気づくところかぁ。
敢えて言うなら……
「…………可愛い?」
「はぁ……何でそうなるのかな。パパって普段はカッコいいけどおばさん達が絡むと残念な感じがねぇ……」
「でも、それがマリィちゃんのお父さんの魅力なんだと思うよ!きょうだい仲がいいなんて素敵じゃん」
「ははっ、そ、そうかなぁ……」
ちょっと納得いかないといった表情だ。
どうしてなんだろう?
さて、一方『超シフォン主義』ことシフォンちゃんはというと……
「よぉ、ホクトぉ!相変わらずいい肉体してるなぁ!どうだ、そろそろあたいの婿になるかい?」
「頼むから勘弁してくれ。この通りですっ!!」
豪放磊落なはずの次男君が土下座して必死に懇願していた。
ベッドに連れ込まれて危なかった経験が彼のトラウマになっているみたい。
「ふふん♪冗談だよ。でもよ、もしあたいとあんたが結婚したら、毎晩可愛がってやるからな」
「ひぃぃっ!?」
次男君は涙目で震えていた。
うーん……確かに彼女は強烈だけど、そこまで怯えなくても良いような気がするんだけどね?
流石に本気で言ってないだろうし……
「チッ、つまんねぇな。アルのやつはどうした?」
「あ、兄貴はちょっと用事で……」
「アル兄ならヒイナちゃんの所に避難したよ」
カノンちゃんがあっさり兄の居場所を教えてしまった。
まあ、隠したところであの様子ならすぐバレちゃうだろうしね。
「あの野郎、あんなに嫌がってたってのにヒイナのとこへ逃げたか。そうかそうか」
怒り出すかと思いきやシフォンちゃんは何やら満足げな様子で笑っている。
「よぉし、それじゃあ次はタイガだが……」
シフォンちゃんが私の方を見る。
何事かと思いきや振り向くと私の後ろに弟君が隠れていた。
今までの情報から察するにシフォンちゃんが怖いんだろうな。
だって今にも泣きそうな顔をしているもの。
まあ無理も無いか。シフォンちゃんの目は獲物を狩る肉食獣そのものだもの。
私の服を掴む弟君に私は微笑みかける。
大丈夫だからねー、怖くないよーお姉さんがついているから安心してね~ーて感じで頭を撫でてあげる。
「ふむ……なるほどな」
その様子を見てシフォンちゃんは何か納得したような表情を浮かべ、私に話しかけた
「おい、おめぇ名前は?」
「私?リンシアだけど?ここで居候させてもらってるの」
「そうか……お前はタイガとどういう関係だ?」
「んー?彼はバディの弟君って感じかな?」
え?何か質問攻めされてるんですけど?
「ほう……。ちなみに歳はいくつなんだ?」
「17歳だけど?それがどうかしたの?」
危うく34と言いそうになったが何とか言わずに留まれた。
「ほうほう、なるほどなぁ」
何度も私と弟君を見比べ腹の底から面白いといった感じで笑っていた。
「そうかぁ、タイガにも『ブルースプ』が来たか。そいつはおもしれぇ」
何かよくわからない言葉が出てきたなぁ。
すると察してくれたのかナギさんがボソッと『青春だねぇ』と呟いてくれた。
ああ、なるほどね。恐らく『青春』を意味するスラングの一種なのだろう。
何故私を見て青春になるかは不明なんだけど……
「シフォンちゃん!久しぶりだからひと勝負しようよ!!」
そんな風に思考を巡らせていると着替えてきたユズカちゃんがわくわくした表情で乱入してきた。
どうやら久しぶりに会えた従姉と手合わせしたくてたまらないらしい。
「いいねぇ。それじゃあどんなけ強くなったか見てやるさ!!」
シフォンちゃんはユズカちゃんの提案にノリノリである。
こうして二人は開けた場所へと移動して、模擬戦を行うこととなった。
「懐かしいなぁ。昔はリリィ姉たちとよく実家の庭で模擬戦したなぁ」
アリスさんが昔を懐かしむように笑顔で言う。
どうやらこのノリは親世代からのものらしい。
□
私は今、目の前で繰り広げられている光景を呆然と眺めていた。
理由は実に簡単だ。
ユズカちゃんの対戦相手であるシフォンちゃんが圧倒的な強さを見せつけているから。
先ほど雑に災禍獣を粉砕したので何となくわかってはいたが……正直言って強すぎるのだ。
まるで隙がない。こちらが仕掛けるタイミングを見計らうために様子を窺っているだけで、どんどん追い詰められていくような感じなのだ。
これが『世代最狂の4人』と呼ばれる強さなのか……
「はい、おしまいっと!」
「うわっ!?また負けた~!!なんで勝てないんだろう……」
結局最後まで一矢報いることすらできず、ユズカちゃんの敗北という形で決着がついた。
しかも、武器なしの状態でだ。あの金棒を使っていたらもっとあっさり勝負がついていただろう。
「そりゃあたいの方が強いからだろ?」
「くぅ~、いつか絶対リベンジするから!!」
「ハハッ、待ってるぜ!!」
悔しげにするユズカちゃんに対して、シフォンちゃんは余裕綽々といった感じだ。
「それにしても弟君、そんなにシフォンちゃんが怖いの?」
「すいません。何かあの声を聞くと委縮しちゃって……」
弟君はがっくりと肩を落としながらそう言った。
「大丈夫、誰だって怖いものあるもんね」
「ありがとうございます、リンシアさん!!」
そんな様子を見てたシフォンちゃんはやれやれと肩をすくめる。
「こりゃ、ちょっとややこしそうだな……」
え?何がややこしいのかな?




