第42話 蛮族シスター (※)
【リンシア視点】
レム家の男の子達が恐れおののくという『蛮族』シフォンちゃん。
またひと騒動ありそうと思いつつも私は災禍獣の反応を感知して出動することとなった。
「ユズカちゃんあれって……」
街中に出来た災禍フィールドに突入すると見覚えがある災禍獣が人にのしかかり生気を吸っていた。
あのネコみたいな姿、あれはユズカちゃんと初めて戦った災禍獣だ。
だけどちょっと姿が違っている。
「あれは、アンザマオの別個体だよ」
災禍獣にはそれぞれ『アンザマオ』『アラニ』『キッカラ』といった具合にコードネームがつけられている。
これは聖女の活動が盛んなイリス王国の組織でつけられた名前らしい。
なるほど。つまりあれは……『着ぐるみの流用』みたいなものなんだね。
うん、色々な所から怒られそうだけど認識としてはそれであってるよね?
聖装したユズカちゃんが飛び込んでいくが攻撃に気づいたアンザマオⅡが飛び上がり攻撃を回避するとそのままおぶさる。
以前戦った個体に比べて動きが早い!スピード型ってこと!?
おぶさった状態で首を閉めにかかるアンザマオだがユズカちゃんは強引にホールドを外すとパンチを叩き込み地面に落とす。
「よしっ!このまま一気に……」
追撃しようとしたユズカちゃんだが火炎弾が降り注ぎ災禍獣から離れざるを得なくなった。
「誰!?」
火炎弾が飛んで来た方向を見ると緑色の鎧をまとった戦士が屋根の上に立っていた。
「ああっ!ナアマ、だっけ?助けに来てくれたんだねやっほー!!」
オージェ君の時にいきなり出てきた謎の戦士……追加戦士ポジションだ。
「ユズカちゃん、ダメだよ。あれは敵。まずはそれを受け入れよう」
「え!?」
間違いない。
豊富な経験から理解できるんだ。
「最初は敵対する運命なの。でも最終的にはわかり合えるよ」
「な、なるほど!流石リンシアさん!!」
「言っている意味が理解しかねますが……仕方ありません」
屋根から降りてきたナアマが構えを取る。
「災禍獣を退治するというなら相手になりましょう」
やっぱり敵側なんだね。
これってつまり……『光堕ち候補』ってことね。
「そっか……つまり、拳で分かり合おうってことだね」
うん、違うけどあながち間違いというわけでもないんだなぁ。
ユズカちゃんも応えるように構えを取るのだが災禍獣はいいのかと疑問が残る。
まあ、私は深層世界専門だからどうしようもないんだけど……
「行くよっ!!」
ユズカちゃんが先に動き、ナアマにショルダータックルを仕掛ける。
ナアマは攻撃を受けつつも反動で少し下がったユズカちゃんにダブルチョップを返し更には胸倉をつかんで引き寄せる。
対してユズカちゃんはそのまま膝をナアマの腹部に打ち込みホールドを外すと横に回ってラリアットを叩き込んだ。
うん。プロレスやってるなこの子。
「面倒な真似を!!」
ナアマが両腕を突き出すと指先から火炎弾が放たれる。
ユズカちゃんがバク転をしながらそれを回避していくが突如背後から接近してきたアンザマオⅡの爪攻撃に被弾し体勢を崩し火炎弾を喰らってしまった。
好機と追撃しようとするアンザマオⅡだが倒れつつも放ったユズカちゃんの回し蹴りで地面を転がる。
「なるほど、少しはやるというワケですね」
「当り前じゃん。みんなを守るためにも負けるわけにはいかないから!そしてあなたとも分かり合う!!」
瞬間、空間が震えるのを感じた。
「何だ……誰か入って来た!?」
ナアマが戸惑う中、遠くから何やら不思議な物体が近づいてくるのが見えた。
馬車の荷台部分を屈強な男達がみこしのように担いでいた。
あれ?馬車ってああやって動くもんだっけ?違うよね?
「オラオラァッ!てめぇらしっかり歩きやがれってんだ!!」
馬車の中から女性の怒号。
ヤバイ、既に理不尽の匂いがしている。
「あっ、あの声は……」
ユズカちゃんが反応する。
うん。これってあれだよね。きっと私が出会ってない『彼女』が出て来るよね?
唖然として動きを止めているナアマとアンザマオⅡ。
「よぉし、そこで止まれ!!」
号令に男達が脚を止めて荷台を降ろすと中からシスター姿の女性が現れた。
ただ何というか、シスターとしては明らかに相応しくない獲物。
トゲトゲの金棒を肩に担いでいる。その姿は正に……『蛮族』!!
「な、何だ貴様は!?」
「ハーハッハッハッハッ!!!聞いて驚け!見て驚け!あたいの道を変な結界張って阻もうなんざチョーシこいてやがんなぁ!!!」
え?まさか結界をぶち破って入ってきたの?
普通は認識できないはずなんだけど?
「シフォンちゃん!」
やっぱりかぁぁぁぁ!!
弟君やおばあちゃんと髪色同じだもん。
後、顔立ちもユズカちゃん達に似てるし。
つまりこの子が『四狂』の一角、『超シフォン主義』のシフォンちゃんなんだね。
「ああクソッ!ユズカ、おめぇせっかくあたいがかっこよく自己紹介しようとしたってのによぉ」
「えへへ、ごめんねー」
「ああもうっ、おめぇは何か調子狂うんだよな!!」
頭をぼりぼり描いている姿はやっぱり『蛮族』だ。
何というかそう、『蛮族』がシスター服着てるよ。
「ニャゴォォォォォ!!!」
ナアマの隣にいたアンザマオⅡがシフォンちゃん目掛け飛びかかっていく。
「ニャニャアやかましいっ!!」
シフォンちゃんが振り下ろした金棒が一撃の下にアンザマオⅡを粉砕してしまった。
「あっ……」
思わず小さく声をあげるナアマ。気持ちはわかる。
えーと……わかってた。わかってたけど言わせて。
何この理不尽!?聖女でもないのに災禍獣を倒しちゃったよ?しかもワンパン。
いや、ベルちゃんとかも普通に戦ったたし次男君も災禍魔人倒してたけどさ。
でもワンパンはないでしょ、ワンパンは!!
解除されていく災禍フィールドを見ながらナアマは『参ったな』といった様子でため息をつくと煙幕をばら撒いて撤退していった。
「ああん!?てめぇ、けつまくって逃げんじゃねぇぞ!!」
怒鳴るシフォンちゃんだが馬車内から『いい加減静かにしようね』と声がして黙り込む。
馬車内から中年の女性がゆっくりと姿を現す。
「お母様、道を阻む不敬な輩は排除したでございます」
シフォンちゃんが急に丁寧な口調に戻った。
何この落差!?
お母様と呼ばれた女性は苦笑しながらこちらを見る。
ああ、この人がユズカちゃんの伯母さんなんだね。
やっぱりどこか写真で見たリゼットさんに似ているもの。
「アリス伯母さん、久しぶりっ!!」
「ふふっ、君はいつも元気そうだね、ユズカ」




