第39装 家庭教師リンシア
【リンシア視点】
「え?勉強を見て欲しい?」
マリィちゃんからのお願いに私は目を丸くした。
「うん。もうすぐテストなんだけど算数が難しくて」
へー、意外だなぁ。
この家の子って勉強でも何でもそつなくこなすイメージがあったから意外。
まあ、9歳の算数なんてかけ算とか割り算とかだよね。
「いいよ。見てあげる」
「やった!!」
マリィちゃん顔をほころばせる。
うん、かわいいなぁ!!
そして……
「えーと……」
待って、予想外の問題出てきたよ?
1.生徒9人の得点が並んでいます。最大値と中央値、平均点を求めなさい。
おかしいなぁ。私が小学生の時こんな問題したっけ?
「何か数字が並ぶと頭が痛くなっちゃうの」
脳筋発言だなぁ。まあ、凄くわかるけどさ。
いや待て。これがあれでこうだから……
「えーと、つまりこれはね……」
「ああ、なるほど。こういうことなんだ!!」
良かった!元ミドサーの威厳保てた!!
これくらいならイケるよ!!
「リンシアさん、俺も教えて欲しい問題があるんですけど」
今度は弟君もやって来た。
何だろう、凄く嫌な予感しかしないよ?
問.ナダゴルドリリィは受粉から半年以上かかって受精する。これはどの様な特徴がある為か記述せよ
うん。わかってた。
絶対手が出ない様な問題出て来るよね?
ちょっとお姉さん教科書読んで勉強しないと。
「あと、こっちもわからなくて……」
問.魔力燈についてロコアイト石は素材として寒冷地においては適さないとされているがその理由を述べよ。
すいません。もう意味わかりません。
この身体、記憶の同期が上手くいってなくてさ。
本来のリンシアが学んだであろう知識なんかもまるっとないわけよ。
クリスさんや長男君によると結構成績優秀だったらしいけどさ。
すいません、中身は似ても似つかない別人です。
学生時代は先生の話を聞くふりしながら銃を持ったテロリストが入って来たのを撃退する妄想とかしてました。
そんな困った娘でした。はい。
それでもって一概には比べられないけど多分、要求される学力って地球より高いよね?
そういえば弟君もマリィちゃんもそこそこいい学校行ってるんだっけ?
「ごめんね、お姉さんほぼ役に立てません」
「うわぁ、お兄ちゃんがリンシアさん落ち込ませた!」
「す、すいません。誰だって得意な事と不得意なことありますよね」
そうなんだよねぇ。
料理は得意なんだけど教えるのってあんまりなぁ。
こんなんだから『あの子』にもその内、勉強を教えられなくなるんじゃないかってハラハラして……
「あれ?」
何今の?『あの子』って……あれれ?
「痛っ!!」
まただ。頭が割れそうに痛い。
「リンシアさんどうしたの!?お兄ちゃんが傷モノにした場所が痛むの!?」
マリィちゃん、言い方!!
「傷モノってお前……」
「大丈夫。肩の傷はほぼ塞がってるし問題ないよ。ちょっと、頭痛くなっちゃってね」
あれ?あれれ?そもそも何で急に頭痛くなったんだろう?
直前に何か考えていたような気がするけど……
あれかな。お姉さんは難しい事を考えて頭が痛くなったみたいです。
「おやや?ふたりともどうしたの?」
ユズカちゃんが肉片を口に咥えながらやって来た。
肉をおやつ感覚で食べるんだよなこの娘。
「お兄ちゃんがリンシアさんをイジメたの」
「ええっ!?待って、誤解だよ!!」
「えー。あんた、その歳で女泣かせ?」
違うと思うよ。
そして弟君、何故に君は少しばかし照れてるのかな?
けなされてるからね?
「ちょっと勉強見て貰ってたけどリンシアさんも苦戦していて」
「んー?どれどれ……あー、これね。ナダゴルドリリィは花粉管の成長が遅いの。だから受粉からが長いの。ただ、結構気候の変化にも強い花だから長持ちするし生命力も強いのよね」
あれ?ユズカちゃん、何だかスラスラと問題解いてるけど。
「あとねー、ああなるほど。ロコアイト石っていうのは魔力燈の発光部に使われている石で長持ちするんだけど熱エネルギーの発生量が少ないのよ。それで寒冷地だと寒さで負けちゃって却って暗くなるのよね。だから寒冷地では寒さ対策が必須なんだけどそれに費用かけるならジカルライト石を使った方がコスト的にもいいのよ」
「な、なるほど……」
「ユ、ユズカちゃん。もしかして勉強得意?」
「んー?特にそういうわけじゃ無いけど?」
「ちなみにテストの順位は?」
「順位?冬季は3位だけど?」
普通に成績優秀だったよ!!
チラッとは聞いていたけどかなり順位も上の方だったよ!!
「まあ、成績優秀だから色々やらかしても何とかなってるんだよな。ユズカ姉さんは」
「ちょっとタイガ、あたしが素行不良みたいな言い方止めてよね」
「3日前、生徒指導室に呼ばれた理由は?」
「ちょっとお腹が空いたから教室で火を起こして肉を焼いただけだよ」
学校でいきなりサバイバル始めるんだよな、この娘は。
そういえばセシルさんが怒ってたけどそういう事だったのか。
血圧が心配になっちゃうなぁ。
「羊肉をな。俺の教室までにおってきたぞ?」
この世界で流通している羊肉ってかなりクセが強い臭いするんだよなぁ。
それを教室で焼いたかぁ………アウトだな。
「やっぱり焼くなら鶏肉がいいよ。コショウをたっぷりかけるの」
「マリィちゃん、ツッコむところはそこじゃないからね?」
「リンシアさん、ツッコミありがとうございます」
大変だなぁ、弟君も。
「何かさ、タイガってリンシアさんと気が合うとこあるよね」
「えっ、そ、そうかな。急に変な事言うなよ!!」
いや、多分比較的常識人なんだと思うよ?
それでも私から見たらやっぱり変なとこあるけどさ。
「お似合いだったりしてー」
マリィちゃんが冷やかす様に言うと弟君が赤くなって慌てる。
いやいや、こんなのとお似合いになっちゃダメでしょ?
中身はミドサーの元人妻よ?
何だろう、『人妻』という言い方をすると途端にイケナイかんじになるなぁ。
「まあ、タイガはまだガキだからねー」
「ぐっ、でも身長だってまた伸びたわけだし」
そうなんだよね。弟君、また大きくなってるんだよね。
流石は成長期だよ。
「そうやってムキになってる間はガキなんだよ」
うぇへへへと笑っているとセシルさんの怒声が聞こえてきた。
「ユズカーッ!!学校から連絡がありましたよ!『また』窓から教室に入ったらしいですねッッ!!」
「やっば!バレた!!」
ユズカちゃんは慌ててセシルさんの所へすっ飛んでいった。
うーん、相変わらずだなぁ。
「ごめんね、弟君。勉強あんま教えられなかった」
「いいえ。一緒に色々悩んでくれて嬉しかったです。ありがとうございました」
あぁ、いい子だなぁ。
きっと立派な大人になるよ君は。
「良かった。ふふっ、君の成長に期待してるよ」
「はいっ!!」
あれ?今一瞬意識が飛んだ気がするけど何か弟君が元気になる言葉でもかけたのかな?
うーん、疲れてるのかな?




