番外編 異世界の『ひなまつり』がおかしい
【リンシア視点】
第3節の2日。
フリーダさんが腰に手を当てて言葉を放つ。
「よし!いよいよ明日は『ひなまつり』だ!みんな、準備は出来てるか?」
レム家の女の子達が『おー』と声をあげた。
まあ、実際のところノリノリなのはユズカちゃんとマリィちゃん。
カノンちゃんは本を読んでいるしベルちゃんはストレッチをしながらの返事だ。
それにしてもこっちにも『ひなまつり』ってあるんだね。
大方、転生者が持ち込んだ文化だろうなぁ。
この国そういうの多いんだよなぁ。
それこそ色々な国のお祭り行事を取り入れてアレンジしている日本並みに。
「リンシア、というわけで準備を手伝ってくれ。弁当作るぞ!!」
「あ、はい」
ひなまつりって弁当いる行事だっけ?でも楽しそうだからいいか。
私はそう思いながら、台所に向かった。
□
『さぁ、今年もやって参りました。女の子の祭典、『ひなまつり』ぃぃぃぃぃッ!!』
何かマイク型魔道具でパフォーマンスしてる人いるし。
え?これってその……
「可愛い女の子達が各部門に分かれ最強の女の子、『おひなクイーン』の称号を手にすべく戦うッ!今年は誰の手に!?」
人々が集まる会場にはプロレスリングっぽいものが設置されていた。
うん、何となくわかってたよ?
絶対私が知ってるひなまつりじゃないってさ!
だってお弁当用意する感じが何というか『運動会』のそれだったんだもん。
「マリィ、頑張れよー!!!」
フリーダさんの声援を受けながら末妹のマリィちゃんがリングロープを飛び越えてリングインしていた。
もう完全に格闘技の試合じゃん!!女の子の祭りってそういうこと!?
「えっと……これ、何ですか?」
「あ~、あれか?毎年恒例のイベントなんだけどさ……。ほら、結構腕っぷしが強い女の子が増えてきたからかな。ああいうイベントになったわけだよ」
『ジュニア部門第1試合、西コーナーから入場したのは名門レム家の暴れん坊!『断空』レム・バレッタ・マチルダァァァァ!!』
「やーってやるよっ!!!」
なんかとんでもない2つ名ついてるんですけど!?
後、何処かで聞いたような決め台詞。
「あ、あの……」
とりあえず見学に来ているお父さんにコメントを求める。
「やはりそこは『やっーーてやるぜ!!』にしておくべきだったな。後で指導しないと」
いや、ツッコむとこはそこですか!?
『対する東コーナーからは昨年準優勝の実力派!『鉄壁』の二つ名を持つ『アイアンメイデン』アネットォォ!』
「るっしゃらぁぁぁぁ!!!」
実況に悪意があるような気がしないでもないけど……。
「両者中央へ!」
レフェリーの指示に従い二人はリングの中央に立つ。
「始めぇぇいッ!!!」
カーンとゴングが鳴ると同時にマリィちゃんが動いた。
「とりゃぁぁ!!」
素早い動きで距離を詰めると勢いよく拳を突き出す。
しかしそれを予想していたかのようにアネットちゃんは軽く避けるとそのまま流れるようにカウンターを叩き込んだ。
「ぐふぅっ!?」
もろに腹部に入ったパンチによってマリィちゃんは大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。
うわ、痛そぉだなぁ……
「ああもうっ、あいつは真正面から行って初撃もらいがちなんだよなぁ!」
フリーダさんが頭を抱える。
「まだまだぁ!!」
マリィちゃんはすぐに立ち上がると再び攻撃を仕掛ける。
だけどアネットちゃんはそれさえも余裕を持って避けていく。
まるでダンスでも踊っているかのような優雅さだ。
「残念だけどこれで終わり」
そして隙を見て強烈な一撃を放つ。
だがそれを待っていたようにマリィちゃんは腕を絡めアームロックを仕掛けたのだ。
「ぐぅっ!?」
「おおっ、関節技なんていつの間に!!」
お父さんが感心していた。
「うおおおっ!!」
マリィちゃんはそのまま体重をかけながら押し込む。
苦しそうな表情を浮かべながらも必死に抵抗するアネットちゃんだったがやがて限界を迎えたらしく、ギブアップを宣言した。
「そこまで!勝者、マリィ選手!!」
レフェリーの勝利宣言を聞きマリィちゃんは嬉しそうに飛び跳ねた。
「やったぁ!勝ったよフィリーママ!!」
「おう、凄かったぞ!!」
フリーダさんも笑顔で拍手を送っている。
うん、安定のレム家だね。
さて、他の娘はなにやってるのかな?
『大食い部門ではカ・レーの大食い対決です!!!』
大食い部門にはベルちゃんが参加していた。
カ・レーというのは要するにカレー的なものでライスにかけたりパンにかけたり色々なものがある。
出場者たちが食べているのは具沢山のカレーをかけたステーキ的な料理だった。
他の女の子達がガツガツ食べているのに対しベルちゃんは一定のリズムで行儀よく食べている。
ただ、一口が多く『もぎゅっもぎゅっ』と音が聞こえてきそうな雰囲気だった。
「あ~ん! 可愛い!!」
「ベルちゃん頑張れ!」
「あとちょっとよ!」
観客からも声援が飛ぶ。
「ベルー、お弁当もあるから無理しないでね?」
クリスさんが心配そうに言っているがこの娘なら問題ないだろうなぁ。
私はそんな事を思いながら見つめていた。
ちなみに何だかんだで既に2皿目が消えかけている、
この家の子って食べる時はよく食べるんだよね。エンゲル係数かなり高いもん。
『さあ、ここでベル選手が3皿目を完食! いや~可愛い顔してなかなかやりますねぇ!』
司会のお姉さんの煽りにも余裕で対応し4皿目を食べ始める。
他は……
『悪役令嬢部門ではレム・カノン選手とジュデ・オルタンス選手の悪役令嬢バトルが過熱しています!!』
この世界の悪役令嬢ってリングに上がるんだよねぇ。
ていうかカノンちゃん、大人しそうなのにやっぱ格闘技するんだ。
『あーっと、オルタンス選手、毒霧攻撃だぁ!!!』
この世界の悪役令嬢ってプロレスで言う『悪役』的な解釈なんだよね。
パフォーマンスしながら戦う女性選手みたいな…………いやまぁ、うん、合ってるけどさ。
『おぉっと、ここでカノン選手が反撃です!!毒霧をものともせず、なんとオルタンス選手の首を絞めたぁ!』
毒霧の中突っ込んで首絞めとか、完全に悪役レスラーじゃん。
「ぐっ……まだだぁ!」
『おっと、オルタンス選手、ロープブレイクで難を逃れた!そしてそのままカノン選手の腕を掴んで……』
「ぬぅん!!」
『おぉっと!?これは関節技か?腕ひしぎ逆十字固めが決まったぁ!』
「ぐうううううっ」
あっ、カノンちゃんピンチかも。
「やーーっ!!」
『あーっと、オルタンス選手の背後から乱入して来て蹴りを入れるのは姉のレム・ユズカだぁぁっ!?何と二人がかりでの攻撃。これは卑怯だぁぁぁ!!!』
「ユズ姉っ!」
「カノン、行くよ!!」
『おっと、カノン選手とユズカ選手のダブルラリアットが決まってしまったぁ!』
何やってんだよユズカちゃん……
二人は相手選手を両側から抱え上げると、コーナーポストの上に登った。
「なっ、何をするつもりだ!?」
『二人同時のブレーンバスターが決まったぁぁぁ!!!』
もう無茶苦茶だよ。
でもなんか観客は盛り上がってるよね……
結局この日、マリィちゃんはジュニア部門準優勝、ベルちゃんは大食い部門優勝、カノンちゃんは悪役令嬢部門優勝、ユズカちゃんはハイグレード部門第3位に輝き大いに『ひなまつり』を楽しんだのだった。
「やっぱり異世界ってすごいなぁ……」




