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第3装 異世界女子トーク (※)

短編『異世界のカフェで聞こえてきた女子トークがおかしい』を連載用に組み込んだエピソードになります。

台詞回しなどが一部変わっています。


 コーヒーを味わっていると頭の左右に白いリボンを結んだ少女が入って来る。

 見た感じ学校の制服らしきものを着ておりおしとやかな印象を受けた。


 常連客らしく店員さんと親し気に言葉を交わした後、席へ。

 注文をしてしばらくすると今度は赤髪をポニーテールにした少女が入って来た。


 やはり彼女も常連の様で先ほどの少女を指さし、近づいていく。

 

「やっほー、ジョセリン。ここいい?」


「ユズカちゃん!もちろんだよ」


 おしとやな少女はジョセリン。

 そして赤髪の子はユズカというらしい。

 何だか日本人っぽい名前ね。


 少し興味が湧いて来て、よく『観察』することに。


 ユズカちゃんが注文を終えると二人はきゃっきゃっと談笑を始めた。

 うん、若者らしいわぁ。前世の私にもこんな時期があったっけ。

 ちなみにリンシアは……記憶によるとこういう経験はないっぽい。


「ホント、久しぶりって感じだよねー」


「あのさ、ユズカちゃん。3日前にも会ったよね……」


「あれ?そうだっけ?まあ、いいじゃん」


 どうやらユズカちゃんは細かい事を気にしない性格らしい。

 羨ましいなぁ。私なんか色々な事を日々気にしているというのに

 

 この世界の学生さんはどんな話をするのだろう?

 暇つぶしに少し耳を傾けてみよう。


「昨日さ、彼氏にフラれちゃってさ」


「え、ユズカちゃん彼氏できたの?」


「そうそう。何か告白されてさ。前からちょっと気になってたしいいかなぁと思って」


 いや、結構雑な付き合い方するなぁ。

 でも恋愛ってそういうものかな。フィーリングで!みたいなね。


「でもフラれちゃったんだよね」


「そうなんだよねー」


 やっぱ異世界でも女子トークと言えば恋バナになるんだなぁ。

 でもどんな理由でフラれたんだろう?

 まあ、男ってのは勝手な生き物だからさ。あっちが悪いんじゃないかな。


「その彼氏と昨日ヤッたんだけどさ。あれがダメだったみたいでさ」


 あら大胆。

 やっぱり異世界でも学生さんはそういうのあるんだ。

 ていうかその彼氏もヤリ捨てかよ。最低じゃない。

 

「す、すごいね。ユズカちゃん……その、どんな風に?」


「普通にグラウンドで一戦交えたんだけどね」

 

 まあ、異世界の恋愛事情って大胆!

 え、グラウンドって運動場だよね?

 異世界の子ってそんな事するの!?うわぁ、目からうろこだわ。


「開幕5秒、ダブルアームスープレックスの一撃で沈んだわ」


 はい!?


「あー、それは酷いなぁ」


 ダブルアームスープレックス!?

 プロレス技の!?

 え、もしかして『ヤッた』って…………『戦った』って事!?


「ユズカちゃんさ、それは流石にダメだよ」


 そうだよね。そりゃいかんよ。

 言ってやれジョセリンちゃん!


「開幕から攻めすぎだよ。まずは打撃で様子を見ながら戦って隙を見つけて大技に持ち込まないと」


 違う!そこじゃない!!

 あれ、ジョセリンちゃんも何かおかしくない?

 

「もうさ、先生に怒られるわ、その後でお父様とお母様が呼ばれてさらに怒られるわ、彼氏にフラれるわで最悪!停学にならなかったから良かったけどさ」


「災難だったね。というかユズカちゃんの家はガッツリ学校にマークされてるんでしょ?そこは気をつけないと」


 多分一番災難なのは彼氏だと思う。

 ちょっと叡智な雰囲気にドキドキしてたらダブルアームスープレックスだもんなぁ。

 というかマークされてるの?


「そうなんだよねぇ。でもさ、それってそもそも伯母様達のせいでしょ?在学中に散々色々やらかしたって伝説になってるもん」


「だから私は同じ学校に行かなかったんだよね……お母様が伝説を立てすぎててもう色々と居心地悪そうだったもの」


 あれ、今の会話。

 察するにあのふたりって……いとこ?


「あたしはそういうのあんま気にならないけどね。それにしてもなぁ、冒険者コースのコだから腕は立つと思ったんだけどなぁ。思ったより遥かに弱かったよ」


「ユズカちゃんって確か……」


「あたしは総合コースなんだよね。本当は冒険者コースに行きたかったけどウチの家系は冒険者コース『出禁』なんだよね」


 おい、何をやらかしたのよこの家系。

 出禁になるって相当な事よ!?


「仮に出禁じゃなくてもお母様が許してくれなかったろうしさ」


「おばさん厳しいもんね」


「箱入り娘っていうかもう檻入り娘だよホントに!でもさ……それだけあたしの事をしっかり見て気にかけてくれてるんだよね。ホント、マジ感謝感激雨あられだよ」


 あら、意外にいい子。

 両親の事を『お父様、お母様』って呼んでるし育ちの良さがにじみ出てるわ。

 というかこの世界にも『感謝感激雨あられ』って言葉あるんだ……

 

「ジョセリンはどうなの?彼氏とか?」


「うーん、そういう人はいないかな。ほら、私って魔導学院じゃない?それで、おばあちゃんが有名人だし」


「あーそっか、ジョセリンって学園長の孫だもんね。男が寄り付かないのか」

 

 ふたりともお嬢様なんだね。普通さ、こういう子達に転生させてくれないのかな?

 まさか方向音痴で崖から落ちて死んじゃう孤児に転生するとか何かもう……

 そんな事を考えていると店員が彼女たちのテーブルに何かを運んできた。


「あっ、私の来た。先貰うね」


「うんうん。いいよー」


 一応相手より先に来たら断り入れるんだ。偉いなぁ……ってあれ?

 ジョセリンちゃんの目の前に置かれたのは巨大なジョッキだった。

 え?お酒?彼女って学生だよね。


「ねーねー、何それ?」


「これ?『プロテイン』だよ」


 いや待って。今プロテインって聞こえた?

 ジョッキでプロテイン?

 ていうか異世界でプロテイン?


「うわぁ、素敵!!」


 何が素敵だよ!

 明らかに量がおかしいでしょ!?

 ていうか魔導学院の生徒がプロテイン?

 プロテインと魔法の関係性がわからない。

 頭の中で疑問が駆け巡る中、ジョセリンちゃんはジョッキに口をつけ『ゴキュゴキュ』と飲み始める。

 

 いや擬音おかしい!!

 何でそんな某格闘漫画みたいに豪快な飲み方してるのよ!!

 冷静になれ。もしかしてプロテインは魔力と関係がある飲み物なのかもしれない。


「ふぅ、これが筋肉に効くのよね」


 筋肉だった!

 純粋に筋肉と関係があった!!


「わかるー」


 わかるんだ!?

 女子学生がカフェで飲むのって普通おしゃれな紅茶とかそういうのよね?知らんけど。

 ジョッキでプロテインってそれが異世界の常識?

 もしやと思って周りの席に目をやるがそんな酔狂な事をしているのは彼女だけだった。


「あっ、あたしのも来たよ。ちょっとスイーツを頼んだんだ」


 そうそう。女子学生と言ったらスイーツじゃない。知らんけど。


「ギガグリズリーのステーキです」


 ちょっと待たんかい!

 カフェでステーキ……っていうかスイーツ!?

 しかもあれ、600gくらいない?

挿絵(By みてみん)


「うわぁ、美味しそうだね」


 言うと思ったよ!

 ジョセリンちゃんも何かおかしいもん。


「お夕飯までまだあるしさ、ちょっと旨いもの欲しくなったんだよね」


 やっぱりこの子達おかしいよ。

 ちょっと『甘いもの』じゃなくて『旨いもの』だもんね?

 しかもそれ、どう考えても夕飯のメニュークラスのウェイトでしょうが!!

 このカフェどうなってるの?ステーキやってるんだ。もう、思考が追い付かない。


「ユズカちゃん、晩御飯もきちんと食べる様にって店長から伝言だよ?」


 店長さん、そこまでわかってるなら何故これを出した……


「えへへ、わかってるって。いただきまーす!!」


 ユズカちゃんは丁寧にナイフとフォークでステーキを切っていく。

 やっぱりこういう所作にも育ちの良さがにじみ出てるなぁ。

 そんな事を考えているとユズカちゃんは切り分けた大きな塊を口に放り込んで『モギュモギュ』と咀嚼する。

 いや、やっぱり擬音!

 後、一口のサイズがおかしい!!

 ちょっと待って。さっきのひと口、150gくらいあったよね!?

 片やプロテインをジョッキで飲む少女、片や超大盛ステーキを喰らう少女。

 しかも食べてる間は会話が一切ない。育ちの良さが……以下略!!


 プロテインを飲み干し、ステーキを平らげた彼女たちは満足した様子で笑顔であった。


「ユズカちゃん、この後どうするの?」


「うーん、ちょっと食べ過ぎたから走り込みしようかな?ジョセリンは?」


「私は訓練所で自習しようかなって思う」


 うん。自習って言ってるけど絶対『筋トレ』だよね?

 本当に魔導学院の生徒なのかな? 


「そっか。実はさ、走り込みついでにおじい様とおばあ様のお墓参りに行こうと思ってさ。それに……『あの人』にも会いたいしね」


 育ちの良さ!


「そっか。それじゃあ私も行っていいかな?最近、お墓参り行けてなくてさ」


「孫が二人も会いに来たらきっと喜ぶよ。行こ!!」


 やっぱりこの二人いとこだったんだ。

 道理で似た感性なんだね。親戚が集まった時とか擬音がどうなるか気になる!!

 仲良くカフェを出て行く二人を見送り、私はテーブルに置かれた食器を見て小さくため息をついた。


「異世界ってすげぇ……やばっ!」

 

 呟くと同時に、私はこの世界に来て初めて高揚感に包まれていた。

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