第36装 レム家の伝統芸(※)
今回、ホクトがやらかすことは亡き祖父のお家芸です。
そして、ヤバイ状態が進行中。
【リンシア視点】
こんな大事な時に戦闘不能だなんて。
ああもうっ、何なのこの頭痛は!?
「リンシアさん、立てる?」
「……ごめん、まだちょっと無理っぽい」
「リンシアさん、姉さん大丈夫!?」
頭を押さえていると弟君が駆けつけてきた。
「ちょっ、タイガ何やってんの!?危ないじゃん!!」
「わ、わかってるけど二人が心配でその……リンシアさん、何か苦しそうだけど大丈夫ですか」
わざわざ来てくれたんだ。
これ後でフリーダさんに叱られるやつじゃないかな。
仕方ない。私からもあんまり怒らない様言っといてあげないとね。
「ごめんね弟君。ちょっと動けなくなっちゃって。カッコ悪いとこ見せちゃったね」
「そんな事……って兄さんが戦ってる!?」
そんな中、次男君とワニ魔人の対決が始まっていた。
ショルダータックルのぶつけ合い。
凄まじい轟音が響き互いに交代するが再び、そして三度同じ立ち合い。
これって意地の張り合いしてるよね?どっちが先に体勢崩すかみたいな。
「うわぁ、兄さん楽しそうだなぁ」
男の子ってよくわかんない……
「ユズカちゃん、次男君はどれくらい強いの?」
「うーん、それぞれ得意分野があるから何とも言えないけどパワーで言うなら一族が集まって時々やる腕相撲大会じゃ3位かな?」
きっと和気あいあいとした腕相撲大会じゃなくてガチ勝負なんだろうなぁ。
勝負の際は蒸気とか出てそうだよね。
それにしても見るからにパワー系の彼で3位かぁ。上にまだ2人いるんだ……
「ちなみにあたしは4位。お母様からは『3位をもぎ取りなさい』って言われてるんだけど中々なんだよね」
セシルさんは『3』好きだからなぁ。
ユズカちゃんもあの家じゃ『3番目』の子どもって辺りも徹底してるよなぁ。
「あっ、俺は7位です」
まあ、まだまだ子どもだしね。
一族が何人いるか知らないけどそこそこなのかな?
そんな事を考えている中、遂に次男君が押し負けてよろめいたところに組み付いたテムサフが次男君にヘッドロックするとそのままジャンプして倒れ込んで顔面から地面に叩きつけた。
「ぐあっ……」
呻きつつも次男君は起き上がりテムサフをリフトアップすると地面に叩きつけ返す。
いや、予想はしていたけどパワー勝負もいいところじゃん。
「ちなみに次男君って特殊能力みたいなのは?」
「あるよ。『女性のスリーサイズを即座に鑑定する能力』とか『性別を見抜くスキル』、『女性が好きな食べ物が何となくわかる能力』!!」
ちょっ、戦闘と関係なぁぁぁい!?
「兄さんは生後半年で異性への興味が芽生えたらしいです……」
お母さんの心境!!
「エロいのはお父様譲りだけどね」
でしょうね!
むしろお母さんからの遺伝だったらそれはそれでヤバい!!
というか弟君が来た辺りから頭痛が収まって来た?
ツッコミが多くなってきたからかな?
パァァァンッ!と破裂音が響く。
見ると打撃を受けたテムサフの皮膚が一部やぶけ血が出ていた。
すごいパワーだなぁ。これでエロい能力に才能ふれなかったら最強だったんじゃないかなこの子。
「ははっ、どうした?ダメージが蓄積してきたか?」
「ば、バカ言うな。テメェはワニという生物が持つ真の恐ろしさを知らねぇ!!」
ワニの恐ろしさ。
それは恐らく強力な咬合力で噛みついたまま身体を回転させて相手にの部位をねじ切る『デスロール』という大技。
「デスチェインバイトォォォ!!!!」
叫びと共にテムサフの鋭い歯がチェーンソーみたいに口の中で回転を始める。
「なっ、何だそれは!?」
「これぞワニの恐ろしさ!遥か昔生息していたワニの始祖はこうやって獲物を狩っていたのだ!!」
「そんなっ、何て恐ろしい生物なんだ!?」
弟君が戦慄していた。
いや、私が知ってるワニと何か違う。
この世界の生物学には詳しくないけど少なくともそんな殺意マシマシなワニは知らないよ。
「てめぇの腕をズタズタにして噛みちぎってやるわぁっ!!!」
大きく口を開け噛みつこうとしてくるテムサフに対し次男君はためらいなく腕を突き出しパンチを叩き込む。
まさか敢えて正面からぶつかり粉砕するつもり!?
だがテムサフが腕に噛みついたことで血が飛び散り次男君が顔を歪めるという結果に終わる。
「ああっ、あれってヤバいんじゃないの!?」
「ヤバいです。もう凄く」
やっぱりそうなんだ。
「相手がだけどね」
はい?
見るとテムサフが目を見開いている。
「兄さんの筋肉に絡めとられ歯の回転が止まってるんです」
筋肉で!?
えっ、そんな事出来るの!?
「あーあー、不用意に噛みついちゃって……なぁっ!!!」
次男君が勢いよく噛まれた腕を引くと突き刺さったテムサフの歯がごっそり引き抜かれてしまっていた。
「ガババババッ!?」
口から大量の血を流すテムサフに正拳突きを何発も叩き込む。
よろめきながらも身を翻し尻尾による殴打を試みるも次男君はこれすら受け止めると尻尾を掴んだまま勢いをつけてぶん回す。
その様子を見ていたユズカちゃんと弟君が『あっ』と小さく漏らす。
「え?何?その『あっ』は何!?」
嫌な予感しかない。
よく見るとぶん回している次男君の足元がふらついている気が……
ユズカちゃんと弟君が私の肩を持っていつでも移動できる態勢になってるけどこれってつまり、アレだよね?
「うははははっ、ちょっと、もうッ、ああっ!!」
何かちょっと色っぽい声をあげながら彼の手からテムサフがすっぽ抜けた。
「出たぁぁぁ。レム家伝統、『すっぽ抜けスウィング』!!」
「リンシアさん、退避、退避ーーーっ!俺が守ります!!!」
いやぁぁぁぁ、何なのその伝統はぁぁ!!?
幸運な事にすっぽ抜けたテムサフはこちらに飛んでこず建物に叩きつけられ大きな穴を開けることになった。
「がはっ!ははっ、無茶苦茶なやつ……め。でも、楽しかった……ぜ」
呟きながらダウンしたテムサフの身体が砂の様に崩れ去っていった。
「うぉぉぉぉっしゃぁぁぁっっ!!!」
次男君は両腕を宙に突き出し勝利の雄たけびを上げるのだった。
やれやれ、何てパワフルなんだろう……あれ?何だろう、また頭が………
【タイガ視点】
リンシアさんの事が心配になって来てみたらホクト兄さんが暴れているしリンシアさんが苦しんでいるし中々カオスな状況だった。
ただ、リンシアさんも少しずつ回復しているみたいだし兄さんも災禍魔人に勝利。
やっぱり兄さんの筋肉は半端ないなぁ。
俺もあれくらい筋肉あったらリンシアさんに男として見てもらえるのかな?
「リンシアさん、大丈夫で……」
俺の横でリンシアさんがすっと立ち上がる。
何だかひどく疲れたような、そんな表情で彼女は首を動かしそちらへ指を向けた。
「あっち。早く行かないと逃げるよ?」
酷く抑揚のない声だった。
もしかしてホクト兄さんがすっぽ抜けぶん回しをした事怒ってる?
「え?」
俺達が戸惑う中、リンシアさんは指さした方向へ走り出す。
「ええっ!?リンシアさん?」
ユズカ姉さんと俺は慌ててリンシアさんを追いかける。
ヤバイ、相当怒ってる!?
迷路のように入り組んでいる建物を駆け抜け上層階へ。
そして屋上へたどり着くとそこには緑髪の男が居た。
「おいおい、もう見つかっちまったのかよ」
「仲間たちは捕まえたよ。災禍魔人も一人倒したし、逃げ場はないからね!!」
「チッ、情けねぇ奴らだぜ。もう一度集め直しかよ、ダリィな」
この言い草。
「まさかお前が悪い奴らのボス!?」
「まあ、そんなトコだぜ?自己紹介がだまだだったな。ユージーンだ」
えっ、普通に犯罪者が名乗った!?
俺こういうの詳しくないんだけど名乗っていいの?
「何でこいつ名乗ったって顔してるな?そりゃ、名乗っても問題ないと思ってるからさ」
こいつ何を……?
思考していると不意にリンシアさんが俺を後ろから抱え地面に押し倒す。
ええっ!?いきなり急展開なロマンス開始ッッ!!?俺、まだ心の準備が!!!
とパニくった瞬間、俺が居た場所をフードの人物が空中から強襲していた。
「!?」
まさかリンシアさんが気づいて俺を助けてくれた!?
「チッ、勘のいい女だな」
フードの人物がユージーンの傍に降り立ちフードを取り去る。
正体は青い体色の鳥型災禍魔人であった。
「俺はこいつに寄生している災禍魔人。名は……シエーロッ!!!」
ちょっと待って。災禍魔人に寄生されたらベル姉さんみたいに苦しむんじゃないのか!?
「こいつの持つ際限なく湧き出る悪意こそが俺の糧」
「おかげで俺はこいつと共生しているのさ」
災禍魔人と共生するなんて……
そんな中、リンシアさんは本を取り出し淡々と言葉を紡ぐ。
「ユズカちゃん、『聖装』しようか?」
「あれ、何か雰囲気が……」
相変わらず抑揚のない声の彼女に姉さんも少し戸惑っている。
「ほら、どうぞ?」
そんな事は意に介さない様子でリンシアさんは魔道具を差し出す。
姉さんは戸惑いながらもそれを受け取ると『聖装』して構える。
「あなたがどんな悪意を持っていようが、あたしが叩き潰す!!」
それにしてもリンシアさん、どうしたっていうんだ!?




