第34装 本格的に見える人になっちゃった? (※)
本話登場のバルキン夫妻はシリーズ恒例のキャラです。
「あ、あのさ………」
彼はスマホでニュースをチェックしていた。
私の方をちらっと見てくれたので思い切って伝える。
「ねえ、あのさ。その、子どもがね……その、欲しいんだけどな?ほら、子どもが居たらもっと頑張れると思うし……」
きっとわかってくれる。彼もきっと……
だが彼はそっぽを向き言い放った。
「君には無理だ」
「そ、そんなこと……」
「今はすべきことをするんだ」
そう言うと彼は立ち上がりカバンを手にして出ていってしまった。
「そんな、何で……」
□
【リンシア視点】
目が覚めると物凄く陰鬱な気分に包まれていた。
昔の夢。彼と暮らしていた頃のあの夢。
私は子どもが欲しいって希望してたのに彼は……
「言ったってもう仕方ないよね」
結局私は彼に裏切られて殺され、この世界に転生した。
それは変える事の出来ない事実。
「……ご飯作ろう」
服を着替えてキッチンへ行く準備をする。
こんな私にできる数少ない事。それが料理だ。
廊下に出て歩き出すとふと、視界の先に見慣れない人影があった。
それは、4歳くらいの『男の子』。
「えーと……」
この家ってあんな小さい子いたっけ?
確かマリィちゃんが末っ子。
もしかして親戚の子?遊びに来てるのかな?
「おはよう。あの、私はここに居候させてもらっている……」
「おやおや、リンシアさん。朝っぱらから廊下で演劇の練習?」
声がして振り返ると次女のカノンちゃんが立っていた。
ナギさんの娘でユズカちゃんとは1歳違いの妹。
「おはよう、リンシアさん」
私は挨拶を返した後、言葉を続けた。
「カノンちゃん。えーと親戚の子がそこにね……」
外した視線を元に戻す。
だが……
「あれ?いない?」
さっきまで男の子が立っていた場所には誰も居なかった。
「首を傾げているところ悪いが親戚の子なんてウチには誰も来てないよ?」
「えーと……あれ?でも男の子がそこに……」
「ウチの一族で男の子は少なくてね。残念ながら該当する男の子は……あー、いや一人だけマリィより年下がいるけどあの子がここに来るわけもない。それに何より、私には君が何もいない空間に語り掛ける姿しか見えなかったよ?」
ちょっと待って。
ということはまさか……
「見えちゃいけないもの見えちゃった?」
「そう言えば君って『ばぁば』の幽霊に導かれてユズ姉と出会ったらしいね。実に興味深い話だよ。つそれってつまり『ばぁば』は未だにその辺を彷徨っているということかな?ならば、ゴースト系モンスターとの関連性はどの様なものか。何故、『ばぁば』は幽霊のままなのか。考察が捗るね」
段々興奮して早口になっていくカノンちゃん。
話には聞いていたけどのめり込んだら周りが見えなくなるなぁ。
「実に興味深い。是非体験談を色々聞かせて欲しい。データを集め精査していくことで見える何かがあるかもしれない!!」
「え、えーと。私は朝ごはんの支度をしに行くね」
興奮するカノンちゃんを置いて私はキッチンへと行くのだった。
□□
「小さな子どもの幽霊?ああ、知ってるよ」
キッチンで朝食の準備をしながら先ほどの事をフリーダさんに話す。
「旦那の実家に居たんだよ。色々と事情はややこしいけどどうも旦那の『姉さん』らしくてさ、わたしも結婚前に一度だけ会ったよ」
なるほど。ということは私が昨日、本家を訪ねた際にくっついてきちゃったとかか。
すると起きて来てたまたま近くにいた旦那さんが反応してこちらにかけてくる。
「えっ、ロリぃ姉さんがウチについてきたのか!?それならお供物をしてもてなさねばいかんぞ!!」
「はいはい、その棚にお供えできそうなお菓子なかったかな。でもあの人、お義父さんが亡くなった際に天に還ったんじゃなかったか?」
「きっとまた会いに来てくださったんだよ!ああ、何て慈悲深い方なんだ!!」
フリーダさんが苦笑しながらお菓子を探していた。
へー、旦那さんってお姉さん想いなんだなぁ…
あれっ、ちょっと待って。『お姉さん』って言ったよね?
「待って、私が見たのって………………『男の子』なんですけど?」
女の子と見間違えるような感じではなくガチの男の子。
フリーダさんと旦那さんが顔を見合わせる。
数秒の沈黙の後、旦那さんが叫んだ。
「ユズカーッッ!ユズカを呼んで来いッ!塩だ、塩をまけー!!」
やばっ!私、本家じゃなくてて何処かでその辺で拾って来ちゃったの!?
前世で見える人じゃなかったんですけど!?
まさかリンシアがそうだった!?
うわぁぁ、本格的に見える人になっちゃったぁぁぁ!!
□□□
私は捜査の一環でユズカちゃんと一緒に受け子のひとりが詐欺に訪れた家を訪ねることに。
「ユズカちゃん、昨日の事。その……」
「え?ああ、お母様に叱られた事?まあ、流石に直後はへこんだけどお母様の言う事も当然だもん。一晩反省してリフレッシュしたよ」
メンタル強いし何よりいい子!!
自分の間違いを素直に認めて反省して生かすとかよく出来た娘だなぁ。
「それで、ここが被害に遭いそうになった家だよね?」
辿り着いた先は何処にでもある普通の民家。
今までの所が割とお金持ちの家だったのでこれは意外。
資料によると市内でスイーツのお店を開いている人の家らしい。
スイーツかぁ、いいなぁ。
仕事が終わったら行ってみようかな。弟君の案内で。
そうでないと迷うもの。それで弟君にはお礼として奢ってあげる。
うん、私ってば頭いいなぁ。ウィンウィンだよね。
「すいませーん、警備隊の者ですけど……」
扉が開き出てきた男性に私は凍り付いた。
とんでもなく強面の男だった。えっ、待って極道の方!?
ヤバイよ、明らかに道を踏み外してそうな顔の人出てきたよ。
むしろ特殊詐欺の根城ここなんじゃないの!?
「ああ、警備隊の人ですね。どうぞ」
「失礼しまーす!!」
いつもの様子で家に入ろうとするユズカちゃんにしがみつき止める。
「え?どうしたの?」
ダメダメッ!絶対何人か手にかけてる顔だよ!?
入ったが最後、ちょっとアレなお店で働かせられたりしちゃうよ。絶対元締めとかしてるよね。
逃げないと!私が人を疑う事を知らないこの子を守らないと!!!
ていうかユズカちゃんのお父さんもこんなヤバい人のとこに娘を事情聴取に行かせちゃダメでしょ!?
「そちらの方はもしかして調子が悪いのですか?へへっ、それならちょっとソファで休んでいくと良いですよ」
嫌ぁぁぁぁぁっ!休んでたら襲われるッッ!?
もう脚ががくがく震えてきたよ。バッドエンド直行コースじゃん!!
災禍獣とか災禍魔人とか色々な危機に遭遇してきたけどこれが一番のピンチじゃん!!
「こらっ、お父さん!だから来客の応対しちゃダメって言ってるでしょ!怖がってるじゃん!!」
ちんまい女の人が奥から出てくる。
「やっほー、シャミィさんお久しぶりです!」
「あっ、ユズカちゃんじゃない。元気にしてた?」
え?知り合い?
「この人はシャミィさん。で、こっちのクソ怖い顔が旦那さんでバルキンさんっていうの。お父様たちの旧い知り合いだよ」
「えーと……」
□□□□
「ごめんねぇ。ウチの人ってカタギに見えない事で有名なのよ。初めて会った時も山賊かと思ったくらいでさぁ」
シャミィさんは机をバンバン叩きながら腹を抱えて笑っていた。
いや、山賊っていうか……親分さんというか……
そんなバルキンさんはハート柄のフリフリエプロンをつけて落ち込んでいた。
いや、似合わねぇ!!!
「バルキンさんの作るスイーツは絶品なんだよ。元々はウィグホーケンって街でお店やってたんだけ色々あってこっちに引っ越してきたの」
それは指名手配になったとかそういうのではなく?
いや、でもハート柄フリフリエプロンだしなぁ。
「それで、あれだよね。何か巷で噂になってる詐欺の話だよね?息子がやらかしたって手紙が届いてお金を取りに若い子が来たのよ」
ユズカちゃん家に来たのと同じパターンだ。
「それで、出てきた旦那を見ておしっこ漏らしながら逃げ出しちゃったんだけどね」
うん。気持ちはわかる。
だって下手したら解体されて食卓に並べられそうだもんね。
犯罪に入った先が更にヤバい犯罪現場だった気分だろうなぁ。
まあ、勘違いなんだけど。
「で、今頃思い出したんだよね。その子って昔、ウチの店に食材を納品してくれてた店で働いてた子だってさ……」
□□□□□
【????】
サウスベリアーノにあるとある廃墟。
そこに特殊詐欺グループの根城があった。
グループの中心人物は『ユージーン』。
地球からの転生者であり、前世でもやはり特殊詐欺に手を染めていた。
あちらの世界程技術は発展していないもののネット環境などによる情報共有がなされていないからこそ足がつきにくい犯罪だと狙いをつけた。
ただ、部下が二人ほど捕まっているのでそろそろ撤収時とも感じていた。
前世の様に自分に辿り着けない様な構造を作るにはだまだ組織も完成しているとはいいがたい。
今回稼いだ金を元手に本格的に自分を隠した組織構造を作り上げれば……
「お前も悪だねぇ。まあ、お前のそんな悪意が俺の好物だからいいけどよ」
隣で笑うフードの男。
ユージーンはこめかみを叩きながら言う。
「この世界ってのはさ、ずる賢い奴が勝つようになってんだよ」
それにしてもさっきから外が騒がしい。
「大変だ、ユージーン。警備隊の連中が!!」
部下のひとりが血相を変えて飛び込んで来た。
「あー、やっぱ来たか。へへっ、焦るなって。ただのチンピラ集団と思ってたら痛い目見るんだぜ、正義のミカタさん達よ!!」




