第32装 本家のおばあさん達がお茶目な件 (※)
【リンシア視点】
ユズカちゃん、弟君と共に訪れたのはレム家の本家。
分家もそこそこ大きいけどこっちも中々に大きいなぁ。
ユズカちゃんのお父さんが生まれ、結婚するまで過ごした家。
つまりは彼女たちのルーツ。
私達を迎えてくれたのは二人の女性。
レム・アンジェリーナさんはジョゼリンちゃんのお祖母さんで魔導学院の学園長をしているらしい。
そしてもうひとり、レム・ミアガラッハ・メイシーさん。この人はあれだよね、ヒイナちゃんのお祖母さんだ。
だってそっくりだもの。ヒイナちゃんがあのまま歳をとっていったらこんな感じになるのだろうなぁって思う。
「あの、アンジェラさん、メイシーさん。急に訪ねてきてごめんなさい」
謝るユズカちゃんに対しアンジェラさんは優しいまなざしを向ける。
「そんな他人行儀は止めて。あなたはリゼットの孫。あたし達にとっても孫みたいなものなんだから」
「う、うん……」
彼女たちもユズカちゃんの家と同じで一夫多妻で子育てをしてきている。
ユズカちゃんのお祖父さんの奥さんで、かつてはユズカちゃんのお祖母さんも一緒に生活していたらしい。
でもユズカちゃんが生まれてしばらくしてリゼットさんが亡くなり、そこから数年後には旦那さんも後を追う様に亡くなってしまった。
今は長女夫妻、そしてジョセリンちゃん達とこの家で同居しているというワケだ。
「ところでアンジェラ、私はご飯を食べたでしょうか?」
「何言ってるのよメイシー……」
アンジェラさんがため息をつく。
えっ、もしかしてメイシーさん、ちょっとボケかけてる!?
あの『ご飯食べたかのう?』『もう食べましたよおじいさん』みたいな感じ?
まあ、二人共高齢だしあり得る話だけど……
「さっき食べたばかりじゃない」
うわぁ、やっぱりこれってボケてきてるんだよね?
「それは理解していますが口寂しいので食後のデザートを要求します!」
「あなたねぇ、そうやって若い頃と同じ調子で食べて胃が痛くなるんでしょうが」
「えー、だってお腹は空くんですよ」
あれ?
すると二人は困惑する私を見てニヤッと笑うとハイタッチ。
「ふふっ、あなた、私がボケたかと思いましたね?」
「ひっかかったわね、ホマレの家の居候さん」
「えーと……」
やられた! 完全にハメられた!
無茶苦茶お茶目だった―!
仲いいなぁ……
「えーと、二人とも悪戯するの止めよう?」
タイガ君が苦笑いしていた。
「だって暇なのよねー。学園長って言ったって時々出ていってそれっぽい事言うくらいだし」
「ええ、商会の方もユズカのお母様に大体任せていますからね」
暇つぶしに遊んでるよこの二人。
「それで、ユズカは急にすっ飛んできてどうしたのかな?」
「あの、お祖母様の事を教えて欲しいの」
ユズカちゃんは空を飛ぶ敵と戦う術を求めている事、そしてセシルさんからお祖母さんがそういう能力を持っていた事を聞いたとので知りたくてやってきたと説明した。
「そんなの魔法で撃ち落とせばいいのにって言いたいところだけどユズカは魔法適性が低いものね」
そうなんだよなぁ。
何でも割とこなせる感じに見えていたけど、魔法はダメな子なんだよね。
「というかホマレの子どもは全体的に魔法苦手ですからね。一族でも特に打撃偏重が揃ってますから」
凄くわかる。
もう素手で殴りに行く方が早いって子達だもん。
「まあ、そうなるとリゼットの飛行能力に目をつけたのは賢いわね。えーと、あれなんだっけ?」
「あれですよ『飛天の装衣』。やたら言う事聞かずリゼットを振り回していたやつです」
えーと、その『飛天の装衣』って言うのは自分の意思みたいなのがあるのかな?
「それ!ねぇ、お祖母様の遺品にその『飛天の装衣』って無い?」
「……残念ですがリゼットが使っていた装衣はリゼットの死と共に喪われてしまいました」
「そんな……」
がっかりするユズカちゃんにアンジェラさんが『ただ…』と続ける。
「ユズカ、あなたはリゼットの能力を受け継いでいるのよね?あなたが普段使っているという銀色の鎧は『銀血の装衣』としてリゼットが使っていたものによく似ているわ。だからね……」
アンジェラさんは椅子から立ち上がるとユズカちゃんに近づきポンと胸を叩く。
「答えは、あなたの『ここ』にある。それが何かはあたしにはわからないけどきっと強い思いは力になる。そしてきっとあなたにリゼットが持っていた残りの力も継承されるはず。今のあたしにはそれくらいしか言えないわ」
「あたしの胸に……よしっ!そうと決まったらトレーニングしてくるね!ありがとう!!」
元気よく立ち上がるとユズカちゃんは飛び出していった。
あー、本当にわかってるのかなぁ……
「何て落ち着きのない!あの思い込んだら突っ走る姿は『あの人』に似ていますね」
「そうね。何だか急に懐かしくなってきたわ」
アンジェラさん達は壁に飾ってある写真を見て目を細める。
それは彼女たちとリゼットさん、そして旦那さんの4人が映った家族写真。
「追いかけないとダメだよね。行こうか弟君」
立ち上がろうとした私をアンジェラさんが制する。
「えーと?」
「リンシアちゃんって言ったわね。あの子を、ユズカをお願いね。あの子はあんな風に元気だけどどこか危ういところがあるわ」
「それって……」
ユズカちゃんは見ず知らずの人がケガしていたら迷いなく自分の服を破いて止血するような子。
いい子である事は疑う余地はない。だけど……
「あの子は人を守るために自分の命を後回しにする子だから」
「ええ。そうですね……」
彼女の正義感はマリィちゃんのお母さんであるバレッタさんから引き継いだもの。
ただ、あまりにも彼女が強烈過ぎてユズカちゃんは少し歪んでいる部分がある。
その事はお母さん達も随分と気にしている。
「ただ、あなた自身も気をつけなさい。似ている所があるから」
「え?」
似ている?私とユズカちゃんが?
更にメイシーさんが私の方を見て言う。
「『善意』は時として『悪意』で返されることがあります。あなたはもしかして、知っているかもしれませんね」
痛い程突き刺さった。
人は『善意』に対し『悪意』を返して来る時がある。
裏切りの集大成が私の異世界転生だ。
「リンシア、だからこそこの言葉を贈るわ。『優しさ』だけはを無くさないで。たとえその想いが何百万回裏切られたとしても、ね?」
アンジェラさんが言いたいことはわかる。
だけどそんなの、私には……今だって元夫と、自分を裏切った親友が憎い。
許すことなんかできない……
「タイガ、きっとあなたが望むパズルは中々ピースがはまらないでしょう。だけど大丈夫、だから楽しいんですよ。あなたが必要とされる日が来ます。その日の為に頑張りなさい」
メイシーさんが弟君に言葉を贈っていた。
意味はよく分からなかったが弟君は私の方を見て力強くうなずいていた。
いや、十分すぎる程、弟君には世話になってるけどなぁ。
【???視点】
俺には金が必要なんだ。
実力も無いから冒険者としても大して稼げない。
だから『彼』の誘いに乗ってお金持ちから巻き上げることにしたんだ。
そう、俺はただ金を持っている連中から『徴収』しているだけなんだ。
「すいません。息子さんの代理なんですが、お金を預かりに……」
その家から出てきた女性の酷く狼狽した顔を見た時、急に故郷の母親を思い出した俺は途方もない罪悪感に襲われた。
「俺は、俺は。あああああっ!!」
女性の悲鳴が聞こえる。
ああ、俺って悪い奴なんだよな。どうしようもない親不孝者……




