第31装 空へのヒント
【リンシア視点】
捕まえた受け子を警備隊本部へ引き渡した私は特殊捜査課の入っている建物で簡単な報告書を書く。
ここは元々倉庫として使われていた建物を改修して出来たものらしい。
「報告書出来ました」
上司であるここの主任、アゼルさんに報告書を出す。
彼は筋肉質の中年男性でいかにもユズカちゃんのお父さんが好みそうな男性だ。
あっ、別に変な意味じゃなくてこういう人部下に採用しそうだよねって感じだから!
「ふむ……」
アゼルさんは寡黙で何を考えているのかよくわからない。
彼はわたしをじっと見るとぼそっと呟いた。
「リンシア君、コーヒー……」
「え?」
まさかこの人、『コーヒー淹れてこい』って言ってるの!?
一応前世でお茶くみの経験はあるけどこの世界でもそういうのあるのね。
「わかりました。すぐに淹れて」
「あーいや。そうじゃないよ。コーヒーを『飲めるかい』?と聞いているんだ」
「はい?」
「昔かよく言葉が足らないと長官からは言われるのだがね。で、どうかな?」
「あー、はい。飲めますけど……」
何が何だかわからない。
戸惑っているとアゼルさんは立ち上がってキッチンの方へ行くと予め沸かしていたお湯でコーヒーを淹れ始める。
「ミルクとかつけるものがあれば自分でどうぞ」
しばらくして、私の目の前には湯気を立てるコーヒーが置かれた。
「ど、どうも」
恐る恐るコーヒーに口をつけ啜る。
「あっ、美味しい!!」
「労働の後はコーヒーで一服に限るね」
にっこりとほほ笑むアゼルさん。
普段のちょっと怖い感じとのギャップが凄い。
でも……何か男らしくて素敵かもしれない。
「最近ああいう事をしてお金をだまし取る輩が増えていてね。それにしても長官の家を詐欺ろうだなんて無謀というか」
そうなんだよなぁ。
よりによって警備隊長官の家だもんね。
実力行使しようにもその辺のごろつきが束になっても歯が立たない様な人たちの集まりだし。
だけど騙されていたとはいえフリーダさんは凄かったなぁ。
「どうも組織的な犯行らしいし、犯人が目覚めたら取り調べをして他の連中もあぶりださねばいかんね」
「はい!」
□
家に戻ると丁度次男君がテーブルについて食事をしていた。
久しぶりにお母さんの料理を美味しく食べているんだろうなぁ。
とか思いながら彼の様子を見て思わず目を丸くした。
彼が食べているのはパエリア風の米料理で『チャモテ貝』と呼ばれる楕円形の2枚貝が具として載せられている。
彼は大きなスプーンで米と貝を一緒に掬ってそのまま口の中に放り込む。
やがて響き渡るゴキュッ、ガチュッ、グリュッという貝をかみ砕き咀嚼する。
うわぁ、見た目通り豪快。そしてやはりこの家の子どもらしい食べ方をしているよ。
とりあえず貝の食べ方、間違ってるから!!
ていうかあれだよ。この家ってやけに生ごみ少ないと思ったらそういう事なんだよね。
本来は捨てるはずの硬いものまで食べちゃうんだ。あの強靭な顎と歯で!!
「やっぱおふくろのメシは最高だぜ。ん?」
次男君は私に気づくとスプーンを置いて立ち上がる。
「さっきは自己紹介が出来なくて悪かったな。レム・ホクト。この家の次男だ」
「ど、どうも。リンシア……です」
次男君は舐める様に私の全身を見ていた。
「なるほど。さっきチラッと見たがやはりいい女だな」
ちょっ、怖い怖い怖い!!
フリーダさんも次男君には気をつけろって言ってたっけ。
何かわかるよ。明らかに肉食系男子の雰囲気じゃない!!
何かそのままお姫様抱っこされてベッドへ連れて行かれそうな、そんな雰囲気じゃない!!
私が怯えていると弟君が間に入る。
「ホクト兄さん、リンシアさん怖がってるだろ?」
「何だぁ、タイガ。いっちょ前にナイト様ってか?」
「な、何だよ悪いのかよ!!」
ヤバっ、兄弟げんか勃発?
何か次男君ちょっと不良入ってるしまずいんじゃ……
だが予想に反し次男君はニカッと笑うと弟君の頭を撫でた。
「何だよタイガ、急に男らしくなったじゃねぇか。やっぱ恋は男を変えるんだなぁ。お前ちょっとナヨナヨしてたから兄ちゃん嬉しいぞぉ!!」
「ちょっ、兄さんッッ!!?」
慌てる弟君と嬉しそうに頭を撫でる次男君。
あれ、普通にいいお兄さん?
それにしてもやっぱりそうなんだね。
弟君、『恋をしてる』んだ。うーん、これはキュンキュンしますなぁ。
「ふふっ、ありがとうね。弟君。お兄さんが言うようにナイト様みたいでカッコ良かったよ」
私は二人に近づいて行き弟君の頭を撫でる。
「リ、リンシアさん。俺……」
何やらぼふっと顔を真っ赤にして弟君が震えていた。
「ふふっ、いつか君が好きな子をそんな風に守ってあげようね?」
「あっ……えーと……あははは」
「大丈夫。君はカッコいいからさ!」
弟君が複雑そうな表情で笑っていた。
「え?まさか……うわぁ、これはお前……苦労するなぁ」
なるほど。どうやら弟君の想い人への想いを果たす難易度は結構高いらしい。
頑張れ、弟君!!
□□
庭ではユズカちゃんが何度も壁を蹴ってジャンプをしていた。
何だろう?新しい鍛錬?
「ユズカちゃん、何やってるの?」
「あっ、リンシアさん!」
ユズカちゃんは着地すると私に駆け寄って来る。
「今日の災禍獣、空を飛んでたでしょ?一応腕が伸びるようにはなったけどそれだけじゃなく接近戦が出来る様にってトレーニングをね!!」
ストイックだなぁ。
ただ、壁を蹴ってジャンプしてもやはりさほど高度は上がらず壁の塗装が剥げていってるんだけど……これってまずいんじゃ……
「ユズカッッ!あなたは何をやっているんですか!!!」
「いやぁぁぁぁ、ごめんなさぁぁい!!!」
帰ってきたセシルさんの怒声と怒られるユズカちゃんの悲鳴が庭に響いた。
ほらね……
□□□
「つまり、空中の敵と対峙する方法を模索していた、と」
「うん……」
お尻を叩かれてがくりと項垂れるユズカちゃんは何だか可愛い。
「とりあえず壁を蹴って飛び上がるのは何だか違うと思いますよ」
確かになぁ。
ユズカちゃんの対策って『物理的』で『フィジカル』由来なんだよね……
「ううっ、でもさ。あたしはきょうだいで一番『ビーム』苦手だし。そうなると空中の敵にどう対応したらいいの?」
娘の悩みにうーんと考え込む母親。
「あのさ、ユズカの力ってお義母さんの『装衣』が起源なんだろ?」
皿洗いを終えたフリーダさんの言葉にセシルさんが頷く。
お義母さん、つまりは私を導いてくれたユズカちゃんのお祖母さんの事だ。
「あの人ってさ、確か空飛ぶ能力持ってなかったっけ?」
「それだ!!」
ユズカちゃんが勢いよく立ち上がった。
「あたし、『本家』に行ってくるね!!」
言うが早いかユズカちゃんはコートをひっつかんで飛び出していく。
「ちょっ、ユズカ!?ああもうっ、あの子は頭より先に身体が動くんだから!!」
「セシルとそっくりだよな、そういう所」
「ええっ!?あたしはもうちょっと色々考えて動きます!これでも社長ですよ!?」
「そうだな。言い方変えるよ。若い頃のあんたそっくりだ」
「ううっ……」
この家って本当に母親達の仲いいなぁ。
まあ、そうでなきゃ成立しないよねこの家族。
「えーと、それじゃあ私、一応追いかけますね」
こうして私はユズカちゃんを追って『本家』とやらへ行く事となった。
ちなみに迷ってはいけないという事で弟君も同行することに。
「いつもごめんね、弟君」
「いいえ!、全く問題ナシですッッ!!!」
うわぁ、何だか凄く張り切ってる。
もしかしてこの子……底抜けにいい子なんだな。うんうん。




