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第30装 異世界に特殊詐欺が持ち込まれています(※)

【リンシア視点】


「うーん……」


 ある昼下がり、フリーダさんが頬に手をついて難しい顔をしていた。


「どうしたんですか?」


「あー、リンシアか。いや、何か変な手紙が届いてさ。何かこれ、ホクトなのかなぁ……」


 ホクトというのは次男の名で弟君のお兄さん事だ。

 何かよくわからない謎の競技の選手で強化合宿に出ていて不在だったのだが…


「あの、差し支えなければ見せてもらっていですか?」


「あー、うん。いいよ。何か小難しい事ばっか書いててわたしにはわかんないんだよ」


 どれどれ、と手紙をあらためると……


「あー、いやこれって……」


 手紙の内容をかいつまんで説明すると『旅先で夫のある女性と不倫してしまいお金が居る。相手は結構身分が高い人で払わないと訴えられてしまい実家の差し押さえ、家族離散待ったなしだが早めに和解金を払えば許してもらえる』といった内容だ。

 

 あれだよ、これって『特殊詐欺』じゃん!!


「何か色々と難し言い回ししてさ。あいつ、わたしがこういうの苦手ってわかってるはずなのにさ。ちょっと学をつけたからって偉そうぶってさ」


 いや、これは息子さんじゃありません。


「リンシア、それでこれはどういうことなんだ?」


 そういえばフリーダさんってあんまり難しい言い回しの書類とかはわからない人だっけ。

 何せ旦那さんの実家に居候するようになるまでまともな教育を受けさせてもらってなかったのもあって読み書きに苦労したとか。

 彼女自体は決してバカというわけでは無くむしろ頭の回転は速い。だがこういう難しい言い回しの書類なんかは苦戦すると言っていた。


「いや、これってですね……」


 簡単に説明するが手紙の内容の段階でフリーダさんは慌てだす。


「な、何だって!あいつ、とんでもない事やらかしてくれたな!!」


「あーいや、でもそれはですね……」


「こうしちゃいられない、準備しなきゃ!!」


 やばーっ!!

 典型的な詐欺られる人の反応してるじゃん。

 これ、主犯格はきっと転生者だよね?

 こっちの世界に来てまでこんな事するなんて……

 

 いや、今はとりあえずフリーダさんを止めないと。


「あの、でもこれはですね……ってフリーダさん?何やってるんですか?」


 エプロンを脱ぎ捨てたフリーダさんは包丁やらをカバンに詰めていた。


「夫のある女性と不倫とか恥もいい所だ。根性叩き直してやる!!」


 やばーっ!この人、別ベクトルでヤバい方向に騙されてるよ!?


「あれ、フィリーママどうしたの?」


 ユズカちゃんがやって来た。

 良かった!神の助けだ!

 ちなみにフリーダさんは『フィリー』というあだ名で呼ばれており子ども達もそれに倣っているらしい。


「あのね、ユズカちゃん」


 私はユズカちゃんに手紙を見せる。

 二人がかりでなら興奮したフリーダさんを止められ……


「あんの馬鹿兄様!何やってんのよ!?」


 え?ちょっと待って。


「まさかこんな人の道を踏み外す様な真似をするなんて情けない!!」


 あー、待って。ユズカちゃんも勘違いしてるよ。

 ていうかこれ、この反応は次男君ならやりかねないって思われている認識でいいのかな?


「いやいや、だから!」


 私の馬鹿ぁ。

 最初に『詐欺』って説明すべきだったよこれ!!


 すると、玄関の呼び鈴が鳴る。

 あっ、そう言えば手紙には知り合いがお金を取りに来るから渡してくれって書いてたよね。

 まさか……


「すいません。息子さんの件で代理として来ました」


 何か凄く真面目そうな人来たよ。

 完全特殊詐欺だなぁ。


「とりあえず息子に会わせてくれ。話がしたい」


「あ、いえ息子さんは今ちょっと手が離せない状態で」


「じゃあ手を離すよう言ってくれよ。あのバカ、一度締めないと!!」


 絶対詐欺だけどフリーダさんが怒っているおかげで上手くいってない。

 とは言え、ここは何とかしないと……あっ、そうだ。


 私は懐から身分証となっている警備隊の手帳を出す。

 そうだよ。私って今は警備隊員なんだよ。


「あの、警備隊の者ですけどちょっと話を聞かせていただいて良いですか?」


 わかりやすいくらい嫌そうな顔をした詐欺師が『いや、ちょっとそれは』と色々ワケのわからない事を言いながら後ずさりをしていると背後からやって来た男性にぶつかる。


「よぉ、何か揉めてるみたいだけどウチに何か用かい?」


 巨体、だった。

 2m近くはあろうという筋骨隆々な男性。

 フリーダさんと同じ髪色の彼は……


「ホクト!」


 フリーダさんが名を呼ぶ。

 そうか、この子が次男君なんだ。


「よぉ、おふくろ。ただい……げはっ!?」


 瞬間、フリーダさんの飛び蹴りが入っていた。


「あんた、あの手紙はどういうことだよ!?今度という今度は去勢してやろうかぁぁl!!!」


「本当に情けない!幾らエロの化身だからってしていい事と悪い事があるでしょ!!」


「ええっ!?待って、何がだぁぁぁ!?」


 フリーダさんは怒りの表情で次男君にサソリ固めをしてユズカちゃんは兄を非難していた。

 うわぁ、母は強し……


「あ、あの!あれは『詐欺』の手紙なんです!この男はお金を騙そうとした悪い人ですよ!次男君何も悪くないです」


 私の叫びに皆が動きを止める。

 そして詐欺の受け子に視線をやると……脱兎のごとく逃げ出していた。


「ユズカちゃん。あいつ悪い人だから!捕まえに行くよ!!」


「わ、わかった!!」


 二人で慌てて受け子の後を追う事に。



 受け子は意外と足が速く裏道などを駆使して何とか逃げようとする。

 だけど……


「甘いよ!ここはあたしの庭みたいなものだもん」


 ユズカちゃんも地元っ子だけあって受け子の更に裏をかいて先回り。

 受け子に飛びついて倒した。

 

 ちなみに私は迷わない様について行くのがやっとでした。

 ちょっとトレーニングしないといけないなぁ。


「た、頼む。見逃してくれぇ」


 叫ぶ受け子だが職業的にも見逃せないし、何よりもお世話になっているレム家の人達を騙そうとするなんて許せない。


「とりあえず連行させてもらいますね」


「嫌だ。捕まるのは、捕まるのは嫌だぁぁぁ!!!」


 叫びと共に受け子の身体が変異していく。


「っ!」


 ユズカちゃんが飛びのくと受け子は鳥型の災禍獣へと変異した。


挿絵(By みてみん)


「楽して稼げるって聞いたのに。捕まりたくなぁぁい!!」


 叫びながら災禍獣は翼を広げ空中へ飛び上がった。


「リンシアさん、お願い!」


「わかった!」


 本から魔道具を取り出し手渡す。

 聖装したユズカちゃんが地を蹴り飛び上がる……が。


「あらら?」


 結構飛び上がったとは思うけど災禍獣の高度に足りず降りてくるはめに。

 

「うー、参ったなぁ。近くに高い建物とかないし。ジョセリンなら槍投げて撃墜できるんだけど……」


 えーと、確かユズカちゃんの従姉だよね。魔法学院に通ってる。

 おかしいなぁ、魔法使いって槍投げるっけ?

 いや、ユズカちゃんの従姉ならあり得るなぁ。


 というか『逃げたい』という割に災禍獣は空中をぐるぐる回りながらこちらを威嚇していた。

 まあ、こっちもその方が都合良いんだけどさ。


「とりあえず空中に対抗する手段を考えないと……ユズカちゃん、遠距離攻撃とか無いの?」


「塩角ソーサーは中距離型だから射程が足りないよ。それに、あたしビームは苦手なんだ」


 えーと今ちょっと変な単語出てきたけど『ビーム』ってジャンルあるの?

 この異世界ってすごいなぁ……


 感心していると本が光り出す。

 うんうん。いいタイミングで新アイテム登場だね。やっぱり玩具売らなきゃ……じゃなくて!!


 新たなページから出てきたアイテム、それは……


「カード?」


 定番アイテム、『カード』だった。

 ただ絵柄が衝撃的だった。


挿絵(By みてみん)


「えーとこれ……」


「あっ、それキリンだね!リンシアさんから聞いて自分なりに想像してたやつそっくり」


 何か私の知ってるキリンじゃないよこれ。

 というかこれどうやって使うんだろう……とか思っていたらユズカちゃんの腕部分にカードをマウントできる機構が出現した。

 やっぱり玩具を……以下略。


「これをそこに挿入して!」


「わかった!」


 正直何が起きるか凄く怖いんだけどね。

 ユズカちゃんがカードをマウントして読み込ませると腕が光り出す。

 そうだなぁ。腕がキリンの頭を模したサイコガンみたいな感じに変化するとかそういう……


「行くよー!!」


 ユズカちゃんが腕を突き出した瞬間だった。

 彼女の腕が高い所の葉を食べるキリンの首が如く伸びて空中に居る災禍獣に直撃、撃墜した。


「って伸びたぁぁぁ!?」


「うわぁぁぁぁ、リンシアさん。腕っ、腕が伸びたぁぁぁ!!?」 

 

 どうやらユズカちゃんにとっても衝撃的だったらしい。

 二人で『ぎゃぁぁぁ』と慌てつつも何とか災禍獣を倒すことに成功したのだった。

 それにしても……異世界すげぇ。

 

  




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