第28装 道化を演じる兄
現実に戻ってきた私が目撃したもの、それは……
「えっ、増えてる!?」
何か戦ってる人数が増えてる。
緑色の鎧をまとったヒーローみたいなやつが参戦してキリン魔人を攻撃していた。
「だから邪魔!!」
謎の戦士は腕に付いた刃で加勢しようとするユズカちゃんを攻撃していた。
「えーと、長男君。これはどういう状況?」
「何かあいつが急に出てきたんだよ。でもユズカはあいつを味方だと思い込んでて……」
「あれは……」
「わかるよな?あれはどう見ても」
「追加戦士ポジションだね」
「は?何言ってんだ?」
わかるよ。
最初は敵みたいな感じで『引っ込んでな』ってこっちの邪魔をするけど仲良くなった辺りから段々へたれてくるんだよね。
序盤から登場してたらパワーアップイベントとかあるけど最終的には主役の前座、噛ませ犬に落ち着くんだよね。
「あ、でも意外と人気は出る」
「何の話だぁぁぁ!?」
「ご両親に聞いてごらん」
あの人達、異世界人だから何となくわかってくれる気がする。
まあ、とりあえず今は……
「ユズカちゃん。後はそいつ倒すだけだよ!!」
「わかった!!」
ユズカちゃんはキリン魔人から離れると地面にかがみクラウチングスタートみたいな姿勢になった。
「行くよーっ!モンチートルピッド!!」
勢いをつけダッシュしたユズカちゃんはワープで虚を突きキリンに飛びかかると頭部を掴み両膝を突き立てた
両顎を砕かれたキリン魔人が『キリリーン』とふざけた断末魔をあげながら崩れ落ち砂の様に消滅していく。
「ふんっ!」
緑色の戦士は舌打ちをすると地面に魔法弾を撃ち込みあがった土煙に紛れて姿を消した。
凄い。撤退の仕方にも矜持を感じるわ……
ともあれ、これで何とかオージェ君を助けることは出来たわけね。
□
「おい、リンシア」
長男君が私を見る。
「あの……私は……」
「今はお前はリンシアだ。だから、それでいい。俺の大切な友人を助けてくれてありがとうな」
「あっ、……うん」
長男君にとっての大切な人であるリンシアはもういない。
だけどきっと彼は何とか受け入れようとしてくれているんだ……いい子だな。
長男君はふと何かを思いついた様で私に近づき顔を覗き込む。
「まあ、でも中身は違うけどリンシアであることは変わりないよな?」
「え?」
「それじゃあさ、『俺様』と想い出を新しく作っていくってのもいいんじゃないのか?」
顔を近づけてくる長男君。
ちょっと、何か変なん方向に進んでいってる?
「お、お兄様!?」
「こう見えても結構優良物件だぜ?後悔はさせないからよ」
いや、 確かに君はイケメンだし思ったよりはいい人っぽいけど……
私は恋愛なんかもうしたくないのよ。
「で、でも……」
「俺はお前の秘密握ってるんだぜ?」
やばっ!脅迫されてる!?
でもなんか、じっと見つめられると動けない。
「わ、私……」
そんな中、長男君から少し離れた位置。
弟君が視界に入った。
「っ!や、止めて!!」
思わず長男君を突き放す。
すると長男君は妙にうれしそうな顔で私の手を掴み引き寄せ囁いた。
「よし、思いっきり頬をはたけ」
「え?」
「早くしろ。でねぇと唇奪っちまうぞ?」
「っ!!」
反射的に私は長男君にビンタをしていた。
長男君は笑いながら頷き『声』を送って来た。
『茶番に付き合わせて悪かったな。これで俺自身もリンシアとの思い出にケリをつけられたし、今後妹達がリンシアとの関係に気づいたとしても『最低な兄貴が迫って振られた』って事に出来る。お前の過去をほじくろうととか思わねぇだろ』
まさか長男君、私が転生者だと隠せるようにする為……
「兄さん、何、してんだよ……」
「おいタイガ。ちょっと付き合え」
長男君は弟君の肩を抱くと無理やりその場から連れ出していった。
「リンシアさん!ごめんね、まさかお兄様があんな事するなんて……」
「あ、いや。大丈夫だから……」
でも何だろう。
最初は動けなかったのに、弟君が見えた瞬間『見られたくない』って思いが出てきて……これってまさか……
「羞恥心、か……」
「え?」
□□
【アル視点】
あーくそ、思いっきりはたけとは言ったが効くなぁ。
「兄さん、その、リンシアさんの事……」
弟は何だか泣きそうになってやがる。
こいつには悪い事をしたが今のやり取りで分かった事がある。
「実はな、リンシアは幼馴染で結構仲が良かったんだ。まっ、何やかんやで別れちまったけどな」
「そ、そうだったの……」
今、こいつは失恋したと傷ついている。
昔から人と争う事が嫌いで、自分が我慢すればいいと身をひいてしまうようなやつ。
違うんだよ、タイガ。失恋したのは俺の方なんだ。もう俺が知るリンシアは居ない。
「あーあ、元鞘に戻ろうぜって言ったら思いっきりビンタされちまってさ。それであいつ、どうやら気になる男が居るみたいだぞ?」
わざとらしく言ってやる。
実際にそうは言っていないが恐らく……
「え?」
「誰だろうなぁ。もしかしたら意外と近くにいるやつなんじゃね?でもあいつ、昔から不器用なんだよな」
「兄さん、何を……」
アルの頭を撫で笑う。
「頑張れよ、タイガ。本当に欲しいなら食らいつけ。俺の弟なんだから絶対に出来る」
俺の勘違いかもしれない。
だけど、あいつはタイガを見た瞬間に反応が変わった。
もしかしたら本人がまだ気づいていない無意識でタイガに対して何か感情があるのかもしれない。
まあ、俺は兄貴だからな。
弟の為にこれくらいの道化は演じてやるよ。




