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聖装のヴァルキュリア~鍵の聖女と観察転生者のドタバディ~  作者: HOT-T
第3章 好きになったんだから仕方ない
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第24装 長男の決着

アルにとって辛い結末が……

【アル視点】


 あいつはリンシアじゃない。

 偽物なんだ。今朝、母さんが遮音空間を作って話をしていたのは『俺に聞かれたくなかった』からだ。

 つまり母さんはリンシアについて何かを掴んでいる。

 だけどはっきり言って母さんから情報を引き出すのはかなり難しい。

 正面からぶつかってものらりくらりと避けられてしまうだろう。 


「ただいまー。これ、頼まれてたもの!!」


 タイガがおつかいの荷物を抱えて帰って来る。

 どうもタイガは偽物のリンシアに首ったけらしい。

 兄弟だから女の趣味も似てるのかもしれん。

 いや、あいつが好きな女と俺の想い出に居るリンシアは別人だけどな。


「俺、すぐにカフェに戻らなきゃ。リンシアさんがまたフラッと消えたら大変だから」


「待てよ、タイガ」


 チャンスと思った。

 だから俺は……


「お前は疲れてるだろ?代わりに俺が迎えに行ってやるよ」


「いや、大丈夫だって。それに『すぐ迎えに来る』って言ってたし」


「おいおい、せっかく兄貴が代わりに行ってやるって言うのにお前はその厚意を無下にするのか?」


 我ながらなかなか破綻した理論だ。

 普段は使わない『兄だから』を利用させてもらう。


「いや、でも……」

 

「タイガー、ちょっとお手伝いして欲しんだけどなぁ」


 ここでまさかの母さんが助け舟を出してくれた。

 母さんに言われたらタイガも断れない。


「決まりだな。あいつはカフェに居るんだよな?それじゃあ、お兄様がエスコートしてやろうかな」


「兄貴、リンシアさんに変な事するなよ」


「ばーか、ホクトと違うっての」


 そうは言ったが実のところあいつスケベなんだが結構純情派なんだよな。

 未だに初恋のヒイナを思い続けてるしな。俺としちゃあのふたりが結ばれてくれりゃ万歳なんだけどな。


 部屋に戻りコートを羽織り、ふところに『あるもの』を忍ばせ出て行こうとすると母さんが玄関で待っていた。


「どうしたんだい?」


「確かめに行くんだよね。自分の心を」


 まあ、母親だからよくわかってるよな。


「そうだな。あいつとの思い出はもう過去の事だ。でもこうやって俺の前に現れたからには何かしらの決着が必要だ。母さんは『答え』を知ってるんだろうけどな?」


「そーだね。知ってる。でもそれはキミが自分で確かめるべきだからね」


 やっぱり知ってたか。

 

「アル。逃げずに向き合っておいで。たとえキミにとって辛い結末になっても、きっとキミなら乗り越えられる」


 ははっ、バッドエンドはほぼ約束されてるわけじゃん。

 怖いなぁ。出来る事なら逃げ出してぇ。


【リンシア視点】


 ヤバイ。物凄くピンチ!!

 オージェ君を応援するって宣言して別れた後、ユズカちゃんがまだジョセリンちゃんと談笑していたので邪魔しちゃ悪いと思って何気なく外をうろついていたら……迷いましたよ。

 私の馬鹿ぁぁぁ!何でわかり切ってるのにひとりでうろついちゃうかなぁ。


「おいおい、思ってた場所と違うトコで発見だぞ」


 声をかけてきたのはあきれ顔の長男君だった。

 やったぁ、助けが来た!と思いきやよく考えればこれってピンチだよね。

 だって、『リンシア』って長男君の初恋の子なわけで……


 いや、乗り越えて見せる。

 何せこっちには伝家の宝刀『記憶喪失』があるんだから。


「タイガに用事が出来ちまってな。家に戻るだろ、送ってくよ」


 あら、意外と優しい?


「あ、でもカフェにユズカちゃんいるし」


「『声』飛ばしといた。お兄様が家まで送ってやるから安心しろって」


 そう言えば彼もナギさんと同じ『声』を飛ばせるんだった。


「えーとそれじゃあ、よろしくお願いします」


□□


 一難去ってまた一難。

 会話もなく黙々と歩き続ける。

 でも何か違和感あるなぁ。行きでこんな道通ったっけ?

 というか明らかに家と違う方向に行ってる気がする。


 待って、これもしかし他ヤバイ奴?

 私の中の『女子センサー』がアラート鳴ってるかも。


 学生時代、ゼミの男友達と歩いてて気づいたらセンシティブなホテルの前まで誘導されてた時のあれに似てる。

 『ちょっと休んでいこう』ってほざく相手の股間を蹴り上げて逃げたからあの時は事なきを得たけこれってマズイんじゃ。

 ヤバイ、長男君は明らかに何か企んでるよ。


「ああ、着いた。ここだ」


 まさかホテル!?

 否、そこは公園だった。

 公園と言っても日本のこじんまりとした遊具がある公園とかじゃなくて都市公園。


「えーと、家に帰るんじゃ」


「あーいや、ちょっと想い出話をと思ってな」


 来たぁぁぁぁ!!

 

「あ、あのね。実はさっきオージェ君に聞いたんだけど私達、同級生だったんだよね」


「ああ。そーだな」


 怖いよぉぉぉ。感情が!感情がこもってない!!

 いや、ここは先手必勝。


「あの、さっき彼には話をしたんだけど、実は道に迷った時、崖から落ちちゃったの。それで死体と間違われて土に埋められて……あの、そこから記憶が曖昧で」


「マジかよ。何というかすげぇお前らしいな。」


 よしっ、信じた!!


「まあ、それじゃあ忘れちまってるのも無理ねぇのかな」


 はい。無理はありません。


「実はさ、ここに来たのは去年死んじまったウチの犬。そいつとよくここで遊んだよなぁって思い出しちまってな」  


 あら、長男君って意外と愛犬家?


「ウチに写真飾ってあったろ?白と黒に分かれた犬」


「あっ、そう言えばそうだね」


 あんまり気にしてなかったがワンちゃんの写真が飾ってあったなぁ。


「去年死んじまってさ。あんときは辛かったなぁ。ほら、こいつだよ」


 長男君がひところから出した『写真』にはワンちゃんと映る彼の姿が。

 肌身離さず持ち歩いているなんてすごい愛犬家なんだなぁ。

 この世界って『写真技術』があるからこうやって思い出を残せるんだよね。素敵だなぁ。


「へぇ、可愛いなぁ」


「だろ?で、こいつが小っちぇえ時の写真」


「どれどれ」


 わくわくしながらもう1枚の写真を見せられた瞬間、私は凍り付いた。

 そこには先ほど見た写真より小さなワンちゃん。そして寄り添って恥ずかしそうに映る幼い『リンシア』の姿が映っていたのだ。 


「あっ………」


「お前、『動揺』したよな?そんな『音』がしたぜ?忘れていた想い出に触れて記憶が刺激されたとかじゃねぇ。明らかに『やらかした』って感じの、そういう『音』だ」


「私は……」


 やられた!この子、私を疑っていて罠に!!


「私、記憶が……」


「下手な嘘は止めろ。母さん程じゃねぇが嘘を見抜くのは得意でな。そんでもって嘘つかれるのも大嫌いなんだわ。腹割って話そうぜ?お前……『誰』なんだ?」


 ダメだ。誤魔化しきれない。

 この場を切り抜けたとしてもずっと長男君は私を疑い続ける。


「………確かに、私は本物のリンシアじゃない。私はその、転生者なの」


「父さんやじいさんと同じって事か。それで、どういうパターンだ?転生者にはいくつか種類がある。いきなり元の身体ごと転生する転移者に近いタイプ、これが俺のじいさんだ。それと普通にこの世界の子どもとして生まれてきたがある日突然前世の記憶がよみがえるタイプ、後は……死んだ人間の身体に魂が宿るタイプ」 

 

 言葉に詰まる。

 それが答えだった。


「最後のタイプ……なんだな」


「……リンシアが崖から落ちたのは本当。そしてその時、彼女は命を落とした」

 

 長男君は黙りこんでしまいしばらく落ち着きなく体をゆすったり空を見上げたりしていた。

 

「それじゃあ、あいつはもう本当に」


「ええ。死んでしまったわ」

  

 彼には残酷な現実を突きつけてしまうことになった。 


「覚悟は……していた。していたのに……ああクソッ」


 長男君は頭を抱えて必死に気持ちを整理しようとしていた。


「何で、ウチに近づいた?何でよりによってウチに」


「それは自分でもわからない。あの、信じられないかもしれないけどあなたのおばあさんの幽霊に出会って、彼女は『引き寄せられた』って」


「ばあさん?あー、確かにやりそうだよな……」


 長男君は息を落ち着け、話し始めた。

 実はリンシアが居なくなった理由を彼はわかっていた。


 居なくなる直前、リンシアには『養子縁組』の話が出ていたらしい。

 生まれてすぐ孤児院に捨てられた彼女をずっと気にかけていたクリスさんが娘として引き取りたいと希望していたらしい。

 実際、リンシアはクリスさんに懐いていたので話はすんなり進むと思っていた。

 だが結果としてリンシアは養子縁組を拒絶し学校を辞め冒険者になった。


「それで、結末は崖から転落死ってわけだ」


「そんな……」


 何でリンシアは養子縁組を断ったのだろう。

 あんな暖かい家に迎えられるなら私なら喜んで……いや、リンシアなりに考えるところがあったんだろう。


「小さい頃のあいつを知ってんのは俺と、親達だけだからな。だから違和感なく上手く入り込めたわけだな」


「怒ってる……よね」


「そうだな。今からお前を奥の方へ連れてって感情のまま無茶苦茶にしてやりてぇくらいだ」


「えっ!?」


「……って言ったら驚くだろうと思って言ってみた」


 しまった!からかわれた。 

 

「何となく、俺にとって悲劇が待ってるのはわかってた。正直辛くて仕方ねぇ。でも、お前は別に悪い事を企んでいるわけでもなさそうだ。お前を責めるのはお門違いだ」


「……ごめんなさい」


「謝るんじゃねぇよ。俺はただ、自分の想い出に決着をつけたかっただけだ。本物のリンシアは俺の想い出に生きてるからそれでいい。だから、気にするんじゃねぇ」


 長男君、本当は辛くて仕方ないはずなのに。

 それなのに……本当にごめん。


 瞬間、耳鳴りがした。

 これは災禍獣が出てくる時の前兆じゃん。

 何処に!?まさか長男君から出て来るとか無いよね?

 だって凄いストレス抱えてるはずだし……


「おい、どうしたってんだ?」


 違う。辛そうではあるけど長男君は自分なりに乗り越えようとしている。

 と言う事は近くに誰か凄いストレスを抱えた人が……

 

 周囲を見渡し、気づく。

 ベルちゃんが『災禍魔人』を顕現させたときの様にふらふら歩いてくる人物がいた。


「あれ、オージェじゃねぇか。何やってんだあいつ?」


「アル……俺、俺、おかしいの?」


「は?」


「男なのにこんな格好して、気持ち悪いの?隣にいるのも嫌なの?ねぇ、アル。何で、何でそんな事言うの」


「は?お前何を……」


「わかってたけどどうしようもないんだ。俺、アルの事が昔から……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 絶叫と共にオーラが噴き出す。

 嘘、何でよ。さっき応援するって言ったばかりなのに、何で!?

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