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聖装のヴァルキュリア~鍵の聖女と観察転生者のドタバディ~  作者: HOT-T
第3章 好きになったんだから仕方ない
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第23装 長男とリンシア (※)

リンシア(転生後)が意外と詰みになっている状態ですね。

この世界の転生パターンには上手いこと記憶が同期しているタイプのものもあるのですが彼女の場合は色々な状況が悪い方向へ働いています。

【リンシア視点】


 予想以上にマズい展開になっちゃった。

 長男君、まさかの学校の同級生だったよ。


「えーと……私が、長男君と?」


「ドーン校でランク3~5まで一緒のクラスの友達だよね?」


 確かこの世界の学校は『学年』じゃなくて『ランク』があるんだったっけ。

 成績が優秀なら飛び級試験を受けることが年に数回許されているらしい。

 ユズカちゃんがそれで8歳からの入学なので本来ならランク8なんだけど2ランク飛び級して今はランク10らしい。

 彼女曰く、『最初は余裕だったけど上のランクは飛び級難しい』らしい。


「えーと、その、えーと……」


「結構仲が良かったけどある日突然学校を辞めて冒険者になったんだってね」


 そういや『リンシア』が学校を辞めて冒険者になったという記憶はあるなぁ。

 お願いだから大事な部分を同期し忘れないでよ。


「アルと何かあったの?それで学校辞めたとか?まるで初めて会ったように振舞われたってアル、凄く気にしてたんだよ?」


 困ったなぁ。マジでその辺の記憶が同期されていない。

 割と欠陥だらけの転生だなぁ。


「あの、じ、実は」


「ん?何?」


 いつかこういう事が起きるとは思っていた。

 そもそもあの家だとクリスさんが昔からの知り合いだ。

 ただ、クリスさんが昔話については遠慮している節があり私もそれに乗っかっていたので今まで何ともなかっただけ。

 ずっと私は薄い氷の上を渡っていたのだ。


「が、崖から」


「崖?」


「崖から落ちて、死体と間違われて地面に埋められちゃって。そこから昔の記憶があやふやなの」


「は?」 


 予想外の答えにオージェ君は目を丸くしていた。

 この状況を切り抜ける為に私が出した答え。

 それは、『ある程度本当の事を話す』だ。

 

 ナギさんにはバレたけど出来る限り転生者であることは知られたくない。

 ましてや生前のリンシアを知っている者からすれば私は身体を奪った侵略者。

 だから、肝心な所は隠して嘘ではない事を話す。


「山の中で道に迷って足を滑らした末、崖から転落してしまったの。たまたま通りかかった人が死体と間違えて私を土に埋めてしまって……間一髪の所で這い出ることが出来たけど昔の記憶が曖昧で」


「記憶喪失ってこと?」


 頷くとオージェ君は小さく唸った。


「だから私自身、長男君と知り合いだったこと自体忘れてしまっているの。もしかして他にもそんな知り合いがいるかもしれない。正直、ものすごく不安……」


「そっか……」


「あの、私は彼とどれくらい仲が良かったのかな?もし知ってることがあれば教えて欲しいんだけど」


「あいつ、あんまり話してくれないんだけどさ。あの様子からしてもしかしたらあいつにとって初恋だったんじゃないかなって思う」


 いやぁぁぁぁぁぁ!?

 とんでもなく気まずい事実発覚よ!


「でも、彼にはヒイナちゃんが居るんでしょう?」


「だって、ヒイナちゃんはあんな感じでしょ?アルは彼女の事苦手なんだ。だからヒイナちゃんと違うドーン校に入学したんだ。そこで君と出会い別れ、俺と同じブリギット校に転入したの」


 まあ、赤ん坊の頃に一方的に婚約されたらストレスだよねぇ。

 困ったなぁ。まさか自分が恋愛当事者とは……

 うーん、あの態度は私の所為だったとしてもやっぱり長男君苦手なんだよね。


「彼にはその、申し訳ない事をしたとは思う。でも……………私は、正直自分の恋愛には興味がないのよ」


「え?」


「長男君が仮に私に対して恋愛感情を抱いていたとしても私はそれに応えることは出来ない。私は誰とも恋愛なんかしたくないわ」


 恋愛なんてこりごりよ。

 だから、私は手を伸ばしオージェ君の手を握る。


「オージェ君、長男君の事好きなんでしょ?応援するわ!!」


「へ?えぇぇっっ!?」


「え、好きじゃなかったの?」


「いや、そうじゃなくて……」

 

 同期した一般常識によるとこの国は同性婚も認められている。

 つまり、問題は無し!!


「あなたから感じる彼への思い。間違いなく本物だわ。私にそれを応援させて欲しいの」


「あのさ、俺って男じゃん。その、変だとか思わないの?」


「確かに最初、あなたが男だと知って驚いた。でも、いいじゃない。あなたは心は女の子で長男君が好き。それだけの事。何もおかしくないわ」


 オージェ君は呆気に取られしばらく黙り込んでいたがやがて納得した様子で顔をほころばせた。


「ありがとう。そんな風に言ってくれる人なんてほぼ居なかったから何か嬉しいや」


 実際に私はオージェ君の恋心について驚きこそすれど異常と思っていない。

 そういうことだってあるのだ。それだけの事。人を好きになる気持ちは同じなのだ。

 あ、でも宗教的にダメだったらそこはごめんなさい。

 リンシアは信仰心が無かったのでその辺よくわからないのよね。


 だけどこれはマズイ。

 意外と『リンシア』とあの家って関係が深かった。

 ナギさんが私に疑念を抱いたのもその辺が関係しているのかも。


【アル視点】


 俺がルシカ・リンシアと出会ったのはドーン校に入学してランク3まで上がった時だった。

従姉であり俺の婚約者を勝手に公言しているヒイナと一緒の学校に行くのが嫌でランクを落として通った学校。


 隣の席に座っているリンシアに抱いた印象は何処か物静かで根暗な女だった。

 俺はつい皮肉った態度を取ってしまうような男なので学校では友人と呼べる存在はいなかった。

 こんな事ならオージェと同じ学校を選んでおけばよかった。

 ひたすらヒイナが居るベリアーノ校から遠い学校とだけ考えていたのがあだになった。


 ある日、俺は雨の中校舎の隅にかがみこむリンシアを見かけた。

 見れば自分が濡れることを厭わず捨て犬に傘を差しだしていた。

 

 何だかその姿に引き付けられるものを感じた俺は彼女に話しかけた。


「何やってんの?」


「濡れてかわいそうだから」


「捨て犬なんてその辺にたくさんいるじゃん。お前、いちいちそうやって傘さすの?」


 我ながらクソガキだったと思う。

 彼女は『わかんない』と短く答えた。

 変わり者めと立ち去ろうとした時、彼女は答えた。


「私と同じって思っちゃって」


□□


 後から知った話だが彼女は生まれてすぐ孤児院の前に捨てられていたらしい。

 そう。死んだばあさんが経営していた孤児院。我が家では4人目の母親であるクリスママがそこの出身だ。


 リンシアはその孤児院で育ち、リーゼ商会の援助によりあの学校に通っていた。

 読み書きができることはこの先の世界では重要だ。

 我が家のリーダー、フリーダママは小さな村の出身で読み書きが不自由だった。

 そもそも教育を受ける機会そのものがほぼなかったのだから仕方ない事だ。

 その為、悔しい思いをした事も何度かあるという。

 結局、未だに難しい書類とかは父さん達に呼んで翻訳してもらっているし隠してはいるがコンプレックスにはなっている。

 

 さて、リンシアが傘を差していた犬だが結局俺が連れて帰った。

 最初、父さんは難色を示したが母さん達が口添えをしてくれて我が家で飼う事になった。

 後日リンシアに伝えるととても喜んでくれた。

 そしてその犬の名前をどうしようか相談する『モモタロウ』と名付けた。孤児院でよく読んで貰った本の主人公。


挿絵(By みてみん)


 はい、それの作者は俺のばあさんです。

 元は異世界の物語だったそうでばあさんが大胆なアレンジを施したらしい。

 普通の物語っぽいけどな。お供に犬とサイクロプスとワイバーンを連れて鬼の城に乗り込むとか、犬が実は主人公の父親で魔法で姿を変えられていたとかクソ熱い展開が続くんだよな。


 それから俺達は学校でもよく話をするようになった。

 リンシアは頭が良く、そして何より気丈で優しい子だった。

 それはヒイナにも当てはまるが決して自己主張が強すぎるわけでもなく、俺にとって共に過ごす時間は心地よかった。

 恐らく恋心を抱いていたと思う。

 共に過ごす日々がランク4,ランク5と続いていく。


 だけど、そんな日々も突然終わりを告げた。

 リンシアはある日突然学校を辞めて俺の前から姿を消した。

 

 失意の中、俺はリンシアとの思い出が詰まったドーン校に居るのが辛くなり父さん達に頼んで転校することにした。

 大きくなっていくモモタロウを可愛がりながら時折あいつの事を思い出す日々が続く。

 そして愛犬が死んで1年。あいつが突然我が家にやって来た。


 驚きと共に喜びがあった。同じ街に住んでいることは知っていたが出会う事は無かった。

 もしかしたら運命の再会だろうか?心を躍らせた。

 だけど再会したあいつは…………まるで別人だった。

 以前より明るく妙に大人びていて、俺の事なんて知らないって感じで接して来る。

 モモタロウについても何ひとつ触れやしない。


 俺達の想い出なんかまるで最初から存在しない。

 それが今のリンシアだった。あいつは違う。あいつは『偽物』だ。

 リンシアの振りをして我が家に入り込んだ『偽物』なんだ。

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