第22装 意外な事実判明 (※)
【リンシア視点】
ユズカちゃんがあまりにもぶっ飛んでいたので失念していたが彼女にだって苦手なものがある。
それが『毒のある虫』その中でも特に『蜘蛛』なのだ。
「ユズカちゃん、とりあえず『聖装』を……」
「無理無理!だって蜘蛛!蜘蛛だもん!!?」
うわー、予想以上のトラウマ抱えとるよこの子。
それにしても興味本位で蜘蛛を食べるなんて。
子どもって何でも口にするというがユズカちゃんらしいというか何というか
とはいえ現状であれに対抗できるのはユズカちゃんしかないわけだし。
私は彼女の両肩に手を置いて諭すように言った。
「ユズカちゃん。確かに怖いかもしれない。だけど恐怖は克服していかなくては人を守る事も出来ないわ。だから私の言う事をよく聞いて」
「さすがリンシアさん、まさか秘策が!?」
弟君が目を輝かせて私を見ている。
大本は君のせいなんだけどなぁ。
結果として私達の居る時にリナベルさんのスイッチ入ったから良しとしよう。
「いい、ユズカちゃん。よく聞いて。あれは、蜘蛛じゃありません。ほら、怖くない」
私に言われてユズカちゃんは恐る恐る災禍獣を直視して……
「やっぱどう見ても蜘蛛だよぉぉぉっ!!」
うん。やっぱりダメだったか。そんな気はしてたんだよ。
気持ちを誤魔化したってどうにもならないものもあるよね。残念。
「くっ、リンシアさんの秘策でもダメだったか」
弟君はもう少し私の行動に疑問を持ちなさい。
我ながら今のは無かったと反省してるんだからね。
それにしても災禍獣も律儀に待ってくれていて本当に助かる。
出来ればそのまま元に戻ってくれやしないかな。
「怖い……」
災禍獣のお腹から生えているリナベルさんの顔が呟く。
怖い?歳を取るのが怖いっていう事?
「死にたくない……」
「え?」
「友達だった。リゼットは友達だった……」
「お祖母様?」
そうだ。リゼットというのはユズカっちゃん達のおばあちゃんの名前。
「仲良しだったのに、もうあの子はいない。何処にも……」
もしかしてこの人、友人の死をきっかけに死ぬのが怖くなったの?
それでこんな事を……
「近づいてきている。私の死も。いつかきっと……怖い。どうしようもなく怖いんだよぉぉぉ!!」
叫びながら飛びかかって来る怪物の両脚をユズカちゃんが前に出て受け止める。
「ユズカちゃん!?聖装してないのに!!」
この子は本当に無茶が過ぎる。
「お祖母様が亡くなった時、あたしまだほんの子どもで何のことかよくわからなかったんだよね。段々わかってくるようになってそうしたらとてつもなく寂しくてさ。ああ、これが『死ぬ』ってことなんだって……」
「リゼットは家族が居たけどあたしはひとりだから、きっと皆から忘れられてしまう。あたしは……」
「あたしが覚えてるよ。おつかいに来た時、『リゼットのお孫さんだね』って声かけてくれて、お祖母様の想い出話聞かせてくれたもん。あなた、リナベルさんでしょ?」
私達はこの怪物がリナベルさんと彼女に伝えていない。
だけどユズカちゃんは変異したリナベルさんをきちんと認識している。
「怖いよね。辛いよね……だけどあたしは『覚えてる』から!」
「ウゥ………」
「怖いなんて言ってられない。そんな事じゃ災禍獣から皆を救えない。何より、恐怖に押しつぶされそうになっているリナベルさんを救えやしないッッ!!」
私の本とユズカちゃんが反応し、光り輝くとショートカット気味に『聖装』モードになった。
ユズカちゃんは力を込めて蜘蛛の両前脚をへし折ると空中高く跳びあがって拳を構えた。
「この一撃を以て、リナベルさんを救う!!」
拳の周りに纏ったオーラが巨大な塊へと変化していく。
「ヒルニシオンハンマーッッ!!!」
落下と同時に叩きつけられた拳が災禍獣を押しつぶした。
青い炎に包まれながら崩れた跡にはへたりこんでいるリナベルさんが。
そして皴だらけになって老化していた私の片腕が元に戻っていた。
ということはお店に居た人達も同じ様に元に戻っている事だろう。
災禍獣が張っていたフィールドも消えていき辺りに人の気配が戻って来た。
とりあえず、危機はこれで回避できたってことね。
それにしてもあれだけ怖がっていた蜘蛛を殴り倒せるなんて。
おそらくこの子は戦っている『相手』の為にも力を出せる子なんだろうな。
本人は自覚しているかわからないけどヒーロー気質なんだな。
「いやぁぁぁ、そこっ、蜘蛛がぁぁ!!」
ユズカちゃんは軒先に巣を張っている蜘蛛を見て悲鳴をあげていた。
いや、あなたさっきとんでもなくデカい蜘蛛殴ったじゃん……
ヒーロー気質。素晴らしい事だと思う。
だけどそれがこの子にとってマイナスになる日が来るかもしれない。
それが、少し不安だったりする。
□
「本当にッ、ごめんなさい!!」
荷物を持ちながら弟君が平謝りする。
「あんたって本当に迂闊なんだから。女心がわかってないのよね」
ユズカちゃんが女心というと少し不思議な気もするが彼女だって立派な女性だった。ごめん。
「今回ので弟君もいい勉強になったよね。気をつけないと好きな子に嫌われたりするから気をつけようね」
「ッ!は、はいっ!!」
弟君は顔を赤らめている。
うんうん、これは間違いなく『恋をして』いますなぁ。
相手はどんな子だろうなぁ。見てみたいなぁ。
「おややぁ、ユズカちゃんにタイガ君。今日はよく会うね」
声をかけてきたのは長男君の親友、オージェ『君』だった。
相変わらずかわいい感じなんだけど、『男の子』なんだよなぁ。
「それにリンシアも」
「えーと、どうも」
ヤバイ。敵意を感じる。参ったなぁ。
「あのさ、ちょっとこの子借りていいかな?ちょっと話をしたい」
「え、でも……」
ユズカちゃんが不安を感じたような表情になった。
オージェ君の考えていることは大体わかる。だから……
「いいよ。ちょっと彼と話をしてくるから先帰ってて」
「いや、離れたトコで待ってますよ。でないとリンシアさんどこ行くかわからないし」
ぐっ、流石は弟君。
いやいや、どこ行くかわからないかは言い過ぎだよ。
2時間もあれば君達の家にはたどり着けるはずだからね?
□
私達は『くつろぎカフェ やよい』で話をすることに。
荷物を持ったタイガ君を見たフリーダさんはとりあえず家に荷物を持ち帰ってからもう一回来る様彼に言っていた。
言われたタイガ君も『なるほど』と一度家に帰る事に。
何か迷惑かけちゃってごめんね。
ユズカちゃんはというと元々このカフェでくつろいでいたらしく友人のジョセリンちゃんと再びおしゃべりに興じていた。
個人的には話の内容がものすごく気になります。
「あのさ、俺まどろっこしいの嫌いだから要件を先に話すね」
コートを脱いだオージェ君がこちらをじっと見る。
女の子の恰好をしているけどそういう所は男らしいのね。
「君さ、アルの事どう思ってるわけ?」
「どうって別に……居候させてもらってる先の長男君」
「本気でそう言ってる?」
いや、本気も何も私にとってそれ以上でも無ければそれ以下でもないんだけど。
「本気で覚えてないんだね」
「え?」
「何でアルが君に対して少しきついかわかってる?」
「えーと、彼ってあんな感じの性格なんじゃ」
「確かにさ、あいつは昔っからぶっきらぼうな感じがあるけど根は凄く優しいんだ」
いや、それはいいとしても話の趣旨がわからない。
「俺も話聞いただけだから君と会ったのはこの間が初めてだけどさ……でもアルは……本気でアルの事忘れたの?」
ちょっと待って。
これヤバい奴だ。リンシアの過去が関係してる系じゃない。
火事の時に同期してもらったリンシアの記憶は結構中途半端過ぎてその辺カバーできてません。
普通転生したらその辺の事情は全部把握しているはずだけどいかんせん色々な記憶が欠損しているんだよねぇ。
「ルシカ・リンシアだよね、君」
「えーと……そうだけど」
「君とアルって、学校が同じ『友達』だったはずだけど?」
「えっ……」
えぇぇぇぇぇぇ!?




