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聖装のヴァルキュリア~鍵の聖女と観察転生者のドタバディ~  作者: HOT-T
第3章 好きになったんだから仕方ない
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第21装 弟君がやらかしました

弟君の道は遠い

そしてユズカにまさかの弱点発覚!?

【リンシア視点】


「リンシアさん、その荷物、俺が持ちます!」


 お昼ご飯の後、私はナギさんに頼まれて弟君と買い出しに出かけていた。

 最初、ユズカちゃんが同行したがったがマリィちゃんが『姉さんとスパーリングしたい』と唐突に言い出したので結局は二人。


 彼は紳士的で積極的に荷物を持ってくれている。

 これってもしかして………きっと小さい頃からしっかりお手伝いしてたんだろうなぁ。

 お姉さんは感心したよ。


『あいつ』はまず荷物なんか持ってくれなかった。

 せいぜい自分の買ったものを持つくらい。

 今更ながらクズたったなぁ。


「おっ、タイガ君。べっぴんさんと一緒に来るなんて珍しいね。デートかい?」


 食料品店の店主リナベルさんに言われて弟君は頬を赤らめた。


「え?そ、そうかな。えっと……そう見えちゃったりします?」


「いーや、どっちかというとお姉さんのおつかいについて来た弟君って感じだね。えらいえらい」


「………」 


 まあ、褒められてるならいいじゃない。

 今でも年齢の割に結構カッコいいけどその内もっとイケメンになって私みたいな女じゃなくて若くてかわいいお相手をエスコートしたり出来るんじゃないかな。

 それを見て私もちょっと冷やかしてみたりするの。

 何だか楽しそう。


「頑張れ、弟君」


「あの、ずっと気になってたんですけど、俺の名前……タイガっというんですけど」


「え、知ってるよ?カッコいい名前だよね」

 

 どういう漢字になるかな。

 そうだな、『大河』?もしくは『大牙』?

 私の言葉に弟君はにへへと顔をほころばせる。可愛いなぁ。


「あー、なるほど。これは中々面白いことになっているねぇ」


 リナベルさんはにやにやしながらこっちを見ていた。

 なるほど、わかりますか。この少年のポテンシャルが!

 どんなキュン恋を見せてくれるか今から楽しみなんだよなぁ。

 お姉さん、恋愛に関しては諦めの域なものでしてね。

 もっぱら見守りがメインです。


「ところでお嬢さん。あたし、幾つに見える?」


 ほう。なかなか難しい質問をしてきますな。

 パッと見た所、ナギさんより年上な感じだよね。

 そろそろ50歳になるって言ってた。

 旦那さんのお母さんが同じくらいに亡くなっているので『死んだら嫌だぞ』とよく言われるらしい。


 奥さんを5人貰っているけどきちんとそれぞれを愛してるんだなぁ。

 ひとりすらちゃんと愛せない男が居るっていうのに凄いなぁ。


 さて、ナギさんを基準にして考えてみると彼女は若くても50代半ば。恐らくは60くらいだろう。

 ただ、年齢をわざわざ他人に聞くという事はコンプレックスを抱いている証拠。

 つまりここは想定よりも若めに言っておくのが正解とみた。


「40くらいですか?」


「やだねぇ、もう。そんな若く見えるかい?リンゴおまけしておくよ」


 紙袋にリンゴを入れてくれる。

 どうやら答えとしては正解だったらしい。だが……


「えっ、リナベルさん、64歳でしょ?」


 弟君の言葉に店内の空気が凍り付いた。

 いやいや、弟君!答えを知ってるかもしれないけどそれはダメなの!

 女性にとって年齢はとーってもデリケートな問題なんだからね?

 ちなみにあなたの隣にいるお姉さんは前世じゃ34歳でした。


「あ、あのタイガ君さぁ。あはは」


「リナベルさんはおばあちゃんと親友だったんです。だから昔からよく知ってて、本当に『おばあちゃん』みたいな人なんです」


 こらーっ!?

 写真に写ってたリゼットさんが生きていたらそれくらいの年齢かもしれない。

 そりゃ君からしたら『おばあちゃん』みたいなものだろうけどそこは気をつけなさい!!

 年齢を気にする女性も結構いるの!!


 この世界には『お世辞』って文化は無いのかな。

 いや、多分この子がどストレートに言っちゃってるだけなんだろうな。

 リナベルさんってばかわいそうなくらい震えてるよ。よっぽど気になってるんだね。


「あたし、あたしは……」


 瞬間、耳障りなキーンという音が聞こえてきた。

 え?これって『災禍獣』?こんな時に!?


「弟君、マズイよ。近くに災禍獣の気配が」


「えっ?」


 とりあえずリナベルさんや他のお客さんを巻き込まない様、速やかに離れないと……


「アタシ、アタシ、イクツ?キレイィィィィィ!?」


 叫びと共にリナベルさんが蜘蛛の怪物へと変異した。

 お腹の下からは髪を振り乱したリナベルさんの顔が逆さに突き出しているという何ともグロテスクでホラーチックな怪物。

 変異と同時に口から放った糸が店内で買い物をしていた客を絡めとりそこからオーラの様なものを吸収している。

 客たちはあっという間にしわしわの年寄みたいになってしまった。


 これ、『年齢奪ってる』よね?

 リナベルさんの顔、若返ってるもん。


「あー、そういうパターンかぁ。なるほどねぇ」


 どうも災禍獣は強いストレスに惹かれて顕現するらしい。

 たとえば前回のベルちゃんは『罪悪感』を徹底的に責められてストレスが頂点に達したせいで魔人を顕現させていた。


「リンシアさん、これって……」


 彼女の場合は『年齢』がトリガーになっていて弟君がうっかり触れちゃったんだね。


「こうなっては仕方ないわね」


「戦うんですね?武器は持って来てませんが徒手空拳でならある程度いけます」


「いや、逃げるよ」


「へ?」


 私は弟君の腕を取ると慌てて店外へ飛び出した。


「リンシアさん!?」 


「無理だから!私、ユズカちゃんみたくあれとガチンコ出来る実力無いから!!」

 

 君達の一族と一緒にしてもらったら困るんだよねぇ。

 私が『聖装』して戦えるのは人の精神世界内に限定されている。

 あのクワガタメカも外では反応してくれない。まあ、したら大騒ぎになるからいいんだけどね。


 店の外へ出る事で他の市民を巻き込みやしないかと懸念があったけど人っ子一人いない。

 これ、もしかして非常にご都合主義だけど災禍獣が出現時に特殊なフィールド的なものが発生したりしてない?


『災禍獣は出現と同時に特殊なフィールドを生成してそこに獲物を閉じ込めて狩りをするよー。今の場合は半径100mだね』


 ナギさんの声が何処からかする。


「え、ナギさんどこにいるの!?」


「ナギママは『声』を飛ばせるんです。ノウムベリアーノ内なら大体届くようになってますよ。昔は『静寂の聖女』って呼ばれていたらしいです」


 あらやだ、便利。


『若い頃ならこの距離から援護射撃出来たけど最近は歳を感じるんだよねー。とりあえずユズカが向かってるよ』


 家からこのエリアまでの距離、そしてユズカちゃんの移動速度を考えれば数分。

 必死に逃げれば何とかなるはず!!


「リンシアさん、俺が囮になるから逃げてください!!」


 弟君が私の手を振りほどき災禍獣の前に立ちはだかる。

 ああもうっ、何で男の子ってこうカッコつけたがるのよ!?


 素早い身のこなしで糸による攻撃を避けながら接近していく弟君。

 意外と動けているなぁ、やっぱりユズカちゃんの弟君だけあるわ。

 感心しているとあろう事か災禍獣の脚に正拳突きを叩き込んでしまい『痛っ!!』と叫ぶ。

 ちょっ、災禍獣に通常物理攻撃はダメなんだって。 

 正に『こうかはいまひとつ』なんだから!!


 蜘蛛の脚で弾き飛ばされながらも体勢を立て直すもそこへ糸攻撃が放たれる。


「危ないっ!」


 咄嗟の事だった。

 私は弟君に駆け寄って首根っこを掴むと自分の後ろに引いて糸から庇う。

 糸が腕を絡めとり、体中に激痛が奔り力が抜けていった。

 これが、『年齢を吸い取られている』感覚!?

 リナベルさんの顔が一層若くなり今では30代くらいだ。


「ああもうっ!!」


 絡めら取られた腕を腰に差していた護身用ナイフで切り裂き離れる。

 これでも一応、元冒険者なんでこれくらいの装備はね。


「リンシアさん!?」


 倒れ込んだ私に弟君が駆け寄り抱き起す。


「何でこんな事を!?」


「そりゃ、私お姉さんだからね」


 片腕だけ皴だらけになって節々が痛い。

 全身じゃなくて良かったぁ……


 そんな中、大ジャンプから災禍獣の背中に着地して反転し私達の傍に降り立つという派手な登場をする少女がひとり。


「姉さん!!」


 ユズカちゃんが来てくれた様だ。

 予想より早くて助かった。

 

「タイガ、リンシアさん!助けに来たよってぎゃぁぁぁぁぁっ!!!?」


 え?何かユズカちゃんにしては似合わない『悲鳴』をあげている気が


「あっ……」


 弟君が『しまった』という表情で手に口を当てる。


「いやあぁぁぁぁぁっ!」、蜘蛛だぁぁぁぁぁっ!!!」


 えーと、まさかユズカちゃんって……


「姉さんは蜘蛛とか『毒のある虫』全般が苦手なんです。特に毒蜘蛛を興味本位で口にして大変なことになった経験から蜘蛛は超絶苦手なんです!!!」


 まさかの女の子らしい弱点発覚!!

 だけど『興味本位』ってこの娘ったら何してんのよ!?

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