第19装 転生者とバレました (※)
今回、AI挿絵を前半に挿入してみました。
果たして弟君にこの未来は来るのか?
【タイガ視点】
期待に胸を躍らせながら出かける準備をする。
「ちょっとお兄ちゃん。髪の毛逆立ってるよ!」
鏡を見ながら手櫛で治そうとするが上手くいかない。
洗面所から俺用のブラシを持って妹が慌てて駆け寄って来た。
「ああもうっ、何でこう男ってのはいい加減なのかなぁ。そこはきちんとブラシでするの!」
妹よ、情けない兄ちゃんで済まん。
「今日は大事な日なんだから、しっかりエスコートしないとダメでしょ」
「あ、ああ」
その様子を見ていた母さんがため息をつく。
「先が思いやられるな。タイガ、くれぐれも羽目を外してやらかすなよ」
「大丈夫だって」
「いや、あんたはあいつの息子だからな。本気で心配だよ……」
信用ないなぁ。
そんな事を考えていると玄関の呼び鈴が鳴る。
思わず心臓が高鳴る。来た!!
つばを飲み込み、扉を開けると『彼女』は居た。
俺の初恋、憧れの人。
落ち着いた色のコートに俺がプレゼントしたマフラーを身に着け、彼女はそこに立っていた。
「ごめんね。ちょっと支度に手間取っちゃって遅くなった……」
「あーそんな事。俺も手間取ってたし……」
ああ、夢みたいだ。
まさかこんな日が来るなんて。
「リンシアさん、お兄ちゃんの事よろしくね」
その言葉に彼女が頬を染める。
ああ、何て素敵な表情なんだ。
「えっと……それじゃあ」
「あっ、はい」
差し出された彼女の手を取る。
「行こうか、弟君」
□
「って未だに弟君かいっっ!!?」
叫びながら起きるとそこは自分の部屋。
カーテンの隙間から差し込む朝陽、そして現実。
「夢かぁ………」
がっくりと項垂れる。
何という事だろうか。まさかの夢オチ。
そうだよな。夢のとおり未だに『弟君』だもんな。
てかあの人、俺の名前覚えてるんだろうか?『弟君』が名前と勘違いしてないよな。
「それにしても……素敵だったなぁ」
夢の中での服装を思い出し顔がにやけてしまう。
リンシアさんと付き合う事が出来ればあんな感じだろうか。
あれはもしかしたら正夢なのかもしれない。
とりあえずあれかな。マフラーをプレゼントしてみるのもいいかもしれない。
「えへへ……」
「うわ、何かニヤけてる。キモッ……」
気づけば部屋の入り口でマリィが呆れた表情でこちらを見ていた。
「マ、マリィ!?」
「大声出して何事かと思って来たらやらしい夢を見てたのか。この兄は……」
「や、やらしい夢じゃないぞ!?健全な恋愛に関する夢であってだなぁ」
「あら、弟君ったら恋愛に関する夢見るんだ」
マリィの後ろからひょいと想い人の女性が顔を出す。
「!!!!?」
心臓を鷲掴みにされたような感覚。
やべぇ、本物来たよ。夢の中に出てきた彼女より遥かに魅力的。
もう夢みたいなシチュエーションに遭遇したら気絶しちゃうかもしれない。
「弟君もそういうお年頃なんだね。弟君が好きな女の子ってどんな娘だろう」
あなたです。
「きっとかわいい子なんだろうね」
あなたですよ?可愛いというか美しいというか。
もうね、超素敵です。
「頑張ってね、弟君」
「はい。頑張ります!!」
妹がやれやれ、といった様子で肩を落としていた。
□□
【リンシア視点】
前世で言う所の土曜日にあたる感謝日という存在だ。
まあ、由来的には前世と似たような感じで世界を創造した女神様が最終日に『はぁ、だっる』とお休みになられたらしい。
流石に原文そのままではないがどう聞いてもニュアンス的にはそういう感じらしく女神様へ感謝をしながら休息するらしい。
まあ世間が回っているのは誰かが休みの日に誰かが働いているから。
というわけで学生さんなんかは休みだが大人は働いていることが多い。
私が居候しているレム家もそんな感じで大人達は働きに出ている。
家に居る大人は2番目の母親であるナギさんだけ。
優しくて甘々な人なんだけど何処か掴みどころがない上に心を見透かされている感じでちょっと苦手だなぁ。
昼食の準備を手伝っているとナギさんがスープの味見をしてくれと言う。
このスープに挽肉を団子状にして焼いたものを浮かべて食べるのだ。
私はお玉でスープを掬うと小皿に少量取って味見した。
「うん、塩加減もちょうど良くて美味しいです」
そんな私を見てナギさんは意味ありげな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「え?何です?」
「ふふっ、『シークレット・スペース』」
彼女がそう言うとキッチン全体の空気が震えた。
「え?」
さっきまで聞こえていた外の音が聞こえない。
これって……
「『声』で防御膜を作ったんだ。これで外部から聞き耳を立てても会話は聞こえない様になったからね」
何だろう。物凄く嫌な予感がする。
「あのさ。キミ、『転生者』でしょ?それも『日本人』なんじゃない?」
「!!?」
え、嘘!?
隠してたのにバレた!?
「わかりやすく動揺したね。心臓の鼓動が早まったのが『聞こえた』よ」
ユズカちゃんが『ナギママに嘘は通用しない』って言ってた。
ならとり繕うだけ無駄なこと。素直に認めよう。
「あの……そ、そうです。でも何で……」
ナギさんは私が持っている小皿を指さす。
「小皿を使う味見ってね。この国には無い文化なんだ。異世界の、それも日本人ならついやっちゃう仕草なんだよね。ナギも日本人だからわかるんだー」
「えっ!?ニホンジン?」
それってつまり……
「ナギはね、あっちでは『藤原凪』って名前だったんだよ。色々あってこっちの世界にやって来て、結婚して今は『レム・ナギ』って名乗ってるけどね。転移者ってやつ?」
確かに日本人ぽい名前だとは思っていたし顔立ちも少し他の人達とは違うと思っていたけどガチ日本人だったかぁ。
あっ、という事はこの間から抱いていた疑問もについても。
「あの、もしかしてご主人も?」
「うん、日本人だよ。ホマは『転生者』。あっちでの名前は嫌ってるからナギ達くらいしか知らないし、その名前で呼ぶこともないけどね。だからほら、ウチって日本人ぽい名前多いでしょ?そもそもホマ自身の名前も『ホマレ』だしさ。後、もう亡くなっちゃったけど義理のおとーさんも転生した日本人だからね」
意外と転生者多かった!!
しかも旦那さんは転生者の息子に転生って……
「まー、『自分、転生者でーす』って言いづらいよね?ホマもナギ達と結婚する少し前まで隠していたくらいだからさ」
「あっ、はい……」
「だいじょーぶ。気づいてるのは多分ナギだけだよ。言いふらしたりもしない。キミが自分で話したてもいいって時まで黙っててあげるからね。ナギが敢えて聞いたのはひとりで隠し事するのって辛いんじゃないかなーって思ったからね」
確かに転生者だという事をずっとひとりで隠し通すのは精神的に疲れるものがある。
だけど周りにも転生者がいると聞くと何だか少し肩の荷が軽くなった。
「ありがとうございます」
それにしてもやっぱり旦那さんもそうだったかぁ。
「慣れない事も多いと思うけど気楽に行こうね。ナギなんか未だに玄関で靴を脱ぎかけて『あっ』てなっちゃうんだー」
「それ、物凄く気を使ってます」
そうなんだよなぁ。やらかしそうになるけどこれは絶対に脱いだら変な顔で見られるやつだって意識してやってるんだよなぁ。
良かった。右も左もわからない様な異世界生活だけど先輩達が居るんだ、ひとりじゃない。
「さて、ちょっと遮音空間解除するねー」
ナギさんが舌を鳴らすと空間を包み込んでいた膜が解除されて外の音が聞こえる様になった。
「アル~、盗み聞きしようとしたでしょー」
長男君が柱の陰から顔を見せる。
「チッ、やっぱ気づいていたかよ。何だよ、急に内緒話なんか始めて。気になるじゃねぇか」
「息子がむっつりスケベだからお風呂覗かれないようにねーとかお触りされたら我慢せず言いつけようねーとか教えてたの」
「しねーよ!」
「6歳の時……従姉のスカートをずり下げたよね?」
母親の言葉に長男君の顔が引きつる。
うわぁ、悪ガキだなぁ。
「あ、あれは事故なんだって!それに、昔の事だろう」
「アルの負けだね。お母さんにはかなわないって」
彼の後ろからやってきたのは先日会ったガールフレンドのオージェちゃんだ。
うん。いい感じじゃない。お家にお呼ばれしてたりとしっかり外堀を埋めておりますなぁ。
「うぅ。ガキの頃の事、まだ言われ続けるのかよ……」
「まあ、君が悪いし仕方ないんじゃない?」
「オージェ『君』、いらっしゃい。お昼食べてくー?」
「ああいえ。お昼前には失礼します。あっ、これお土産です」
きちんとお土産を持って訪ねてくる辺り中々出来た子ね。
うん。長男君にぴったり。お似合いのカップルだなぁ。
でも何か一瞬だけど『違和感』があった気がする。何だろう?




